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『当宿は健全です(※だいたい誤解)』  作者: 白百合 静


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17/28

説明しようと口を開けた時点でアウト

 白百合亭では、ついに“口を開ける瞬間”が問題になった。


 発声の内容ではない。

 発声“前”である。


 そう、説明しようとして口を開けた時点で、もうアウトだ。



 朝。


 女将が、湯呑みを置きながらぽつりと言った。


「……今の、口の開け方」


 全員、硬直。


「どの、ですか?」


「今の」


 範囲が広すぎる。



 張り紙が貼られた。


『説明は口を開ける前に終えてください』

追記

『※口の形が妄想を誘発します』


 人類に無理な注文をするな。



 朝食会場。


 若い女性客が、パンを落とした。


 ころん。


 俺は反射的に言おうとする。


「だい――」


 口を開けた瞬間。


 壁越し客が、ぴしっと指を伸ばす。


「……今の“形”、何を言うつもりだった?」


「“大丈夫ですか”です!」


「それ、言う前の口じゃない」


 口の形に台詞を当てるな。



 リネットがフォローに入ろうとする。


「今のは、善意の――」


 口を開ける。


 女将、即。


「はい、アウト」


「まだ言ってません!」


「言う前の“ため”が長い」


 ため、罪。



 中年客が、にやにやしながら言った。


「つまりさ」


 嫌な前置き。


「口を開ける=何か入る前提に見えるってこと?」


 全員、黙る。


 女将は一拍置いて、頷いた。


「……妄想が、走るわね」


 認めるな。



 若い女性客が、わざとらしく口を閉じたまま言う。


「……もごもご」


「何言ってるかわからない!」


「でも健全」


 意味が逆転している。



 女将は、黒板を出した。


 もはや安心感すらある。


《アウト口 判定表》


・小さく開く → 説明準備

・縦に開く → 含みあり

・ゆっくり開く → 妄想加速

・一瞬止まる → 完全アウト


「止まるな!」


 止まっただけで妄想される世界。



 実地検証が始まった。


「アレン、前」


 いつも通り俺だ。


 若い女性客が、至近距離に立つ。


 近い。

 だが何もしていない。


「質問です」


 彼女が言う。


「今、何考えてます?」


 俺は答えようとする。


 口を開ける。


 止まる。


 考える。


(何て言えば安全だ……)


 女将、即。


「はい、今の“間”、

 読者の妄想が三行進んだ」


「読者!?」


 第四の壁を破るな。



 妄想は、連鎖する。


 壁越し客が腕を組む。


「……今の沈黙、

 “言えない何か”を想像しちゃうわね」


 中年客が頷く。


「口を開けたまま止まるのが一番だな」


 やめろ、経験則みたいに言うな。



 昼。


 全員が無言回答に移行した。


 質問されても、

 ・頷く

 ・首を振る

 ・目配せ


 だが――


 口を閉じていると、唇が意識される。


「……逆に」


 若い女性客が囁く。


「閉じてるほうが、気になりません?」


「なる!」


「なるのか」


 なるな。



 女将が、最終結論に入る。


「結論」


 来た。


「口は、開けても閉じても妄想される」


 誰も否定できない。


「だから」


 嫌な予感。


「説明は、先に貼り紙で済ませます」


 口、完全敗北。



 夜。


 廊下で、若い女性客が俺を見る。


「……何か言いたそうですね」


 俺は、口を開けない。


 じっと見る。


 彼女が笑う。


「今度は、言わないほうがエロい」


「もう基準がわからない!」


 女将の声が飛ぶ。


「はい、妄想が膨らんだので解散!」


 解散理由が雑すぎる。



 張り紙が更新された。


『説明は文章で行います』

追記

『※口は使いません』


 その下に、小さく。


『※妄想は各自で管理』


 無理だ。



 白百合亭では、

 口を開けた瞬間に、

 言葉より先に妄想が走る。


 触れていない。

 言っていない。

 考えただけだ。


 それでも

 一番エロいのは“言う前”。


 俺は今日も思う。


(次は……“舌の位置”とか言い出さないよな?)


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