健全な瞬き(※回数が問題)
白百合亭では、ついに瞬きが管理対象になった。
理由は簡単だ。
目が合う → 意味が増える → 目を逸らす → 瞬く
この一連の流れが、どう見ても“含み”に見えるからである。
朝。
女将が、いつもの笑顔で言った。
「……瞬き、多くない?」
全員、瞬きを止めた。
「止めなくていいのよ」
その一言で、
逆に瞬きのタイミングを考え始める。
もうダメだ。
張り紙が追加された。
『瞬きは自然に行いましょう』
追記
『※連続瞬きは意味が増えます』
意味を持たせるな。
朝食会場。
俺がパンを取る。
ぱち。
……今のは普通。
若い女性客と目が合う。
ぱち。
……二回目。
壁越し客が、目を細める。
「……今の、二度見ならぬ二度瞬き?」
「違います!」
「回数が多いと、動揺に見えるわよ」
瞬きで心理分析するな。
リネットが、お茶を運んでくる。
歩く。
止まる。
視線が合う。
ぱち、ぱち。
連続。
若い女性客が小声で言う。
「……それ、合図っぽくないです?」
「業務上の乾燥対策です」
リネットは真顔だ。
「まばたきは潤滑です」
言い方がいやらしい。
女将が、黒板を出した。
もはや儀式。
《瞬き健全度表》
・1回:通常
・2回:意識している
・3回:説明を考えている
・連続:何か隠している
「隠してない!!」
隠してなくてもアウト。
実地検証が始まった。
「アレン、前」
また俺。
若い女性客が、わざと近づく。
距離、適正。
視線、合う。
俺は耐える。
(瞬くな……瞬くな……)
ぱち。
一回。
女将、無言。
ぱち。
二回。
女将、眉を上げる。
ぱち。
三回目
「はい」
女将が言った。
「今の顔、言い訳準備中」
「目が乾いただけ!」
「乾燥は理由にならない」
目に厳しすぎる宿。
中年客が、試しに言った。
「じゃあ、瞬かなきゃいいんだな」
目を見開く。
耐える。
耐える。
耐える。
……赤くなる。
女将、即。
「我慢してるのが一番エロい」
「何が!?」
全員、納得してしまうのが最悪だ。
昼。
全体的に、瞬きが減る。
結果
視線が長くなる。
意味が増える。
空気が甘くなる。
若い女性客が囁く。
「……瞬かないほうが、見つめてる感じしますね」
「だから瞬いていいって!」
「でも回数が……」
地獄。
女将が、総括に入る。
「結論」
来た。
「瞬きは、意識すると全部意味を持つ」
知ってた。
「だから」
嫌な予感。
「回数は数えません」
安堵。
だが続く。
「代わりに、タイミングを見ます」
結局見る。
夜。
廊下で、俺とリネットがすれ違う。
視線が合う。
ぱち。
同時。
壁越し客の声。
「……今、同期したわよね」
「偶然です!」
女将の声が飛ぶ。
「偶然が一番意味深」
もう勝てない。
張り紙が更新された。
『瞬きは自由です』
追記
『※ただし意味が出た場合は説明』
説明地獄は終わらない。
白百合亭では、
目を閉じても、開いても、何かしら言われる。
瞬き一つで、
色気が生まれ、
誤解が育ち、
説明が増える。
俺は今日も思う。
(次は……視線の“角度”とか言い出すなよ)




