説明を考えてる顔がもうアウト
白百合亭で、ついに顔が問題になった。
正確には
説明を“考えている最中の顔”である。
発端は、女将のこの一言だった。
「……その顔ね」
全員、凍った。
「どの顔ですか?」
「今の顔」
指名が雑すぎる。
張り紙が貼られる。
『説明を考える前に、表情に注意しましょう』
追記。
『※考えてる顔は意味を含みます』
人は考えずに生きられない。
朝食会場。
若い女性客が、パンを落とした。
ころん。
全員の視線が集まる。
俺は拾おうとして
一瞬、考えた。
(今、拾うと距離が……いや、屈むと目線が……)
その“思考の間”を、
壁越し客は見逃さなかった。
「……今、何考えた?」
「何も!」
「顔が語ってたわよ」
顔、裏切り者。
リネットが、事態を収拾しようとする。
「今のは、純粋な拾得行為です」
説明しようとした瞬間、
眉間に皺。
女将、即。
「はい、アウト」
「どこが!?」
「真剣な顔は、含みが出る」
真剣罪。
下ネタは、ここから加速した。
中年客が、ニヤニヤしながら言う。
「つまりさ」
全員、身構える。
「考えてる=妄想してる顔ってこと?」
女将は一拍置いて、頷いた。
「……否定しないわ」
否定しろ。
若い女性客が、俺を見る。
「じゃあ」
嫌な間。
「アレンさんが黙ってる時って……」
「何も考えてません!」
「一番怪しい」
即断やめろ。
女将は、黒板を出した。
もう慣れた。
《アウト顔 判定表》
・口角が下がる → 想像中
・目が泳ぐ → 言い訳準備
・眉が動く → 下ネタ回避失敗
・無表情 → 一番エロい
「最後!?」
女将は真顔だ。
「無表情はね、
何も言わない分、何でも入るの」
下ネタ理論として最悪。
実地検証が始まった。
「アレン、前」
また俺。
若い女性客が、わざと近づく。
「……質問いいですか?」
「ど、どうぞ」
俺は考える。
(近い……近いけど……健全……健全……)
その瞬間、
顔が固まる。
女将、即。
「はい、アウト」
「まだ答えてない!」
「答える前の顔が一番雄弁」
俺の顔、しゃべりすぎ。
リネットも例外ではなかった。
俺と目が合う。
彼女が、一瞬だけ考える。
ほんの一瞬。
若い女性客が指摘。
「今、リネットさん……」
リネット、慌てて言う。
「業務上の思考です!」
だが
耳が赤い。
全員、察した。
「……それ、逆効果では?」
女将は満足そう。
「色、出たわね」
色気じゃなくて血色だ。
昼過ぎ。
全員、考えない訓練に入った。
質問されても、即答。
即答、即答、即答。
結果。
「えっと……」
「考えた」
「違う、言葉を探しただけ!」
「同じよ」
地獄だ。
ついに、若い女性客が言った。
「……もう、正直に言ったほうが早くないですか?」
女将が微笑む。
「正直?」
「はい」
「下ネタ込みで?」
場が静まる。
女将、続ける。
「それはそれで、別のアウト」
逃げ場がない。
結論。
女将が総括する。
「説明を考えてる顔は、
“これから何か言い訳します”って宣言なの」
誰も反論できない。
「だから」
嫌な予感。
「考える前に、言い切る」
それ、危険。
夜。
廊下で、若い女性客が俺に聞く。
「……今、何考えてます?」
俺は、即答した。
「何も考えてません!」
女将の声が飛ぶ。
「はい、今の顔、アウト」
「なんで!?」
「“何も考えてない”って言う人の顔が、
一番下ネタ想像させるのよ」
理不尽が完成した。
張り紙が更新された。
『考え顔に注意』
追記。
『※無表情は最終兵器』
白百合亭では、
考える=エロいという
新しい方程式が成立した。
触れてない。
言ってない。
考えただけだ。
それなのに
一番アウトなのは、顔だった。
俺は今日も思う。
(次は……“考えてないフリ”が禁止されるな)




