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『当宿は健全です(※だいたい誤解)』  作者: 白百合 静


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12/13

一言説明(※誤解二倍)」

 白百合亭で新しいルールが導入された。


 女将が、にこやかに言ったのが始まりだ。


「最近ね、説明が長いのよ」


 全員、目を逸らした。


 心当たりしかない。



 張り紙が貼られる。


『本日より説明は“一言”でお願いします』


 下に追記。


『※長文禁止。補足不可』


 それが一番危険だ。



 朝食会場。


 リネットがパンを配る。


 いつもなら

「健全な朝食の提供です」

 と来るところだが


「……朝食です」


 一言。


 短い。


 短すぎる。


 若い女性客が首を傾げる。


「……それだけ?」


 リネット、沈黙。


 補足禁止だからだ。


 この沈黙が、もうアウト。



 中年客がスープを飲む。


「……一言説明、どうぞ」


 女将が促す。


 中年客は考え、言った。


「……温かい」


 壁越し客が即反応する。


「何が?」


「スープだよ!」


「言い方が含みすぎ」


 一言が、誤解を呼ぶ。



 俺にも順番が来た。


 廊下でリネットとすれ違う。


 距離、適正。


 視線、一瞬。


 女将が言う。


「はい、説明」


 説明!? 今!?


 俺は焦り、口を開いた。


「……通路」


 一言。


 若い女性客が笑う。


「名詞だけ!? 逆に怪しい」


「一言だからだよ!」



 事態は、昼前に加速した。


 壁越し客が、俺を見る。


 女将が言う。


「説明」


「……無害」


 一言。


 選択ミス。


 壁越し客が腕を組む。


「“無害”って、自分で言う?」


「一言だから!」


 女将は頷く。


「誤解、二倍ね」


 倍率制だったのか。



 リネットは、真剣に取り組んでいた。


 俺にお茶を出す。


「……水分」


「それ説明か?」


「一言です」


 若い女性客が吹き出す。


「雑すぎて逆に想像しちゃうんですけど」


 それが問題なんだ。



 午後。


 女将は観察し、満足そうに言った。


「やっぱりね」


 嫌な予感。


「一言だと、人は勝手に文脈を補う」


 全員、疲れ切った顔で頷く。


「つまり」


 来た。


「誤解が、倍になる」


 副題回収やめろ。



 そこで、実験が行われた。


「比較しましょう」


 女将が言う。


「同じ行動を、“一言説明”と“通常説明”で」


 被験者、俺。


 また俺。



 まず、一言。


 俺が椅子に座る。


 ぎしっ


「説明」


「……着席」


 若い女性客が囁く。


「逆に何か隠してません?」


 次、通常説明。


「椅子が古くて音が鳴っただけです。

 特別な意味はありません」


 空気が、すっと落ち着く。


 全員、納得。



 女将が結論を出した。


「はい」


 全員を見る。


「一言説明は、説明じゃなくて煽り」


 それをルールにしたの誰だ。



 夕方。


 張り紙が更新された。


『一言説明は廃止します』


 追記。


『※短すぎる説明は誤解を招きます』


 当たり前だ。



 夜。


 廊下で、若い女性客と目が合う。


 一瞬。


 女将の声が飛ぶ。


「説明!」


 条件反射で、俺は言った。


「……何もない」


 若い女性客が微笑む。


「一番怪しいやつ」


 女将が腕を組む。


「誤解、二倍」


 まだカウントしてるのか。



 白百合亭では、

 説明は短すぎても、長すぎてもダメ。


 そして今日、

 新たな教訓が刻まれた。


 一言で済む状況ほど、

 一言で済ませてはいけない。


 俺は天井を見上げ、静かに思った。


(次は“説明禁止”とか言い出すなよ……)


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