春
「おい、もさむ
月の裏側見た事あるか?」
「無いっすよ
地球からは、どう頑張っても
月の裏側は見えないんすよ」
ふぅん、と言い
いとーさんは、酒を一口飲んだ
「じゃあ、もさむ
太陽にホクロあるの知ってるか?」
「無いっすよ
あれは黒点って言って
温度が低くなってる場所なんすよ」
「違うぞ」
「え?」
まさか、反論してくるとは思わなかった
もさむはドキっとした
「あれはスイッチだ
押すと太陽が爆発するぞ
何もかもなくなるぞ」
「…いとーさん、押したいんすか?」
「押したい!!」
これは、40歳のヘンテコないとーさんと
38歳になったばかりの俺の話だ。
【春】
俺の名前は、猛者に六と書いて
もさむという勘弁してほしい名前だ
優しく、細く長く育った俺には似合わない
今回、仕事の転勤で1年間
俺はこの島に住む事になった
自然がいっぱいで空気も食べ物も美味い
マクドは無いがコンビニはある
少し不便さは感じるが
何でも揃っているが何か不便な東京に飽き飽きしていたので
今回の転勤は苦では無かった
そして、ひょんな事から俺は
いとーさんという人と一緒に暮らす事になった。
いとーさんは定職にはつかず
畑で野菜を作ったり海に入り魚介をとったりして
自由気ままに生きている
両親が金持ちだったらしく、遺産や土地はあるらしい
家は昔いとーさんの爺さんが建てたという
古い日本家屋
家の裏は山になっていて
いとーさんの土地だそうだ
野生の動物なんかいて
結構怖いから俺は絶対入らない
一度、畑の作物を取りにきた猿とガチで戦ってる
いとーさんを見た事がある
あれは笑った。
いとーさんは動物が好きなので
動物除けの罠とか有刺鉄線とかはしない
そのおかげで畑は動物に狙われまくっている
毎日毎日戦って血だらけになって帰ってくる事もあった。
見かねた俺はある日カカシを買ってきた
「おい!もそむ!」
「はい」
いとーさんは俺の名前を自由に呼ぶ
「カカシ効果で今日は動物逃げてった!」
「え!まじすか!良かったっすね!
あんなもんでも効果あるんですねー」
いとーさんは大喜び
次の日から、いとーさんはカカシ作りにハマり
毎日一体づつカカシが増えた
色んな人種のカカシにおおわれた畑は
恐ろしすぎて動物も人間も近寄らなくなった。
まじで怖いのは
カカシの頭は開くようになっており
ちゃんと脳みそが入っているのだ
そんなのしても動物にはわからないと思うのだが
謎のクオリティで感心した。
ある日、俺が熱を出した時の話
「おい、オセアニア、大丈夫か?」
「誰っすか、オセアニアって…
もう一文字も合ってないじゃないすか」
「今何度だ?」
「39.0っす」
喋るのもダルいくらい
結構しんどい
いとーさんもかなり心配してくれている。
こんな高熱が出るのは久しぶりだ
慣れない島の暮らしで疲れが出たのか
急に原因不明の熱が出た
「…死にそうか?」
死にはしないと思うけど
久々の高熱で
俺は気が弱くなっていた
「死にそうです…」
「そうか」
はい、と答えたきり
記憶が無いので
たぶんそのまま眠りに落ちたのだと思う
次起きた時、辺りは暗くなっていたので
あ、日が暮れるまで寝てたのかと分かった
少し身体がマシになっている感覚だ
すぐ隣りに、いとーさんが座って
俺を見ている
もしかして、ずっと
心配で見守ってくれたてたのかな
ん?何か手に
いとーさんは、手に赤黒い物体を持っている
「人間も動物も皆、命を貰って生きているんだ」
いとーさんはそう言いながら
その赤黒い物体を近づける
寝起きで頭が働かず
返事が出来ずにいると
「生きたいなら、食べろ」
と、いとーさんは俺の口に
生暖かい赤黒い物体を押し込んだ
「ぶっ!!オエーーーーー!!!!」
獣臭い!!!血の味!!!
「な、何すか!?これ!!」
「山犬の心臓だ」
「や?!っっオエーーーー!!!」
何を食わすんだこのおっさんは!!!
何も食べてないので胃液を吐き出しながら
ふらつく足で逃げ出す
「ちょ!まじでやめてください!!」
「お前死にそうなんだろ?!
早く命をもらわないと!!」
「いりません!!心臓食ったからって治りませんよ!!オエーーーーー!!!」
こんな感じで
俺といとーさんの春は過ぎてゆくのであった
次回、夏




