第53話:最強パーティVSラスボス! 華麗なる魔法の乱舞!
「塵と化すがいい!」
カイヴァー・ドレークが叫ぶと同時に、その両手から、紫電の嵐と、全てを焼き尽くす煉獄の劫火が、同時に放たれた。属性の異なる二つの大規模魔法を、術式構築も魔力溜めもなく、一つの思考で並列処理し、瞬時に発動させる――常識では考えられない芸当だった。桁違いの魔力の奔流が、俺たちに襲いかかる。
「リーベ!」
「はい! 対魔導防壁、最大展開!」
俺の指示に、リーベが即座に反応する。彼女の前に、幾重にも重なった半透明の魔導防壁が出現し、二つの魔法の威力を大きく減衰させる。だが、カイヴァー・ドレークの魔法は、ただ威力が高いだけではなかった。紫電は防壁の表面を蛇のように這い回って侵食し、劫火はその構造を内側から焼き尽くし、溶解させていく。防壁は激しく軋み、ガラスにひびが入るように、メキメキと音を立てて崩壊寸前だった。
「オリビア、行け!」
「おうさ!」
リーベが敵の攻撃を防いでいる、その一瞬。
オリビアが、獣神化による神速で、カイヴァー・ドレークの死角へと回り込む。その動きは、もはや目で追うことさえできない、一筋の疾風だ。
「遅い!」
だが、カイヴァー・ドレークは、その神速の動きに、完璧に対応していた。彼は、まるで未来予知でもしたかのように、最小限の動きでオリビアの拳をかわし、そのがら空きになった腹部に、肘鉄とも言うべき、無慈悲で強烈なカウンターを叩き込む。
「がはっ……!?」
オリビアの体が、くの字に折れ曲がり、まるでボールのように地面に叩きつけられた。獣神化が強制的に解除され、彼女は苦悶の声を漏らしながら、赤い砂の上に倒れ伏す。
「オリビア!」
アステラとカリスタが、援護のために、光と炎の刃を同時に放つ。
だが、カイヴァー・ドレークは、それさえも、せせら笑うかのように、片手で薙ぎ払った。アステラの光も、カリスタの聖炎も、彼が纏う『アビス・アーマー』に触れた瞬間、いともたやすく霧散してしまう。
強すぎる。次元が、違う。
これまでの敵とは、戦っている世界のルールが、あまりにも違いすぎた。
「どうした、ネズミどもよ。もう終わりか? これでは、退屈で、あくびが出てしまうな」
カイヴァー・ドレークが、心底つまらなそうに嘲笑う。
彼は、その右手を、ゆっくりと天にかざした。
その手のひらの上に、空間そのものが、ぐにゃりと歪み、やがて、光さえも飲み込む、漆黒の特異点が生まれる。
「ブラックホール……ですって!? こんな至近距離で、そんなものを……!」
リーベが、絶望的な声を上げる。
あんなものを放たれれば、この一帯は、神殿ごと、空間の彼方へと消滅するだろう。
だが、俺は、諦めていなかった。《解析瞳》による直接的なスキャンが阻害されているなら、俺自身の魂格、その演算能力の全てを使って、活路をこじ開けるまでだ。
「(リーベ、聞こえるか! 奴が作り出しているのは、完全なブラックホールじゃない! 擬似的な重力崩壊を、魔法で無理やり維持しているだけだ! ならば、その魔法を司る魔力の流れを、逆方向に中和させれば……!)」
俺は、脳内で、瞬時に、逆重力フィールドの構築理論を組み立て、その設計図を、リーベの頭の中に、直接、送り込んだ。
「(なっ……! この理論は……! ですが、できます! やってみせます、ユウト先生!)」
リーベは、俺の無茶な要求に、しかし、絶対の信頼で応えてくれた。
カイヴァー・ドレークが、漆黒の球体を、俺たちに向かって放つ。
その瞬間、リーベの展開した、無色透明の逆重力フィールドが、それを迎え撃った。
二つの相反する巨大な力が激突し、空間が、ガラスのように、メキメキと音を立てて、ひび割れていく。凄じいエネルギーの奔流が、俺たちの体を打ち据えた。
「なっ……!? 私の魔法を、中和しただと……!?」
カイヴァー・ドレークが、初めて、純粋な驚愕の表情を浮かべた。
その一瞬の隙を、俺たちが見逃すはずがなかった。
「オリビア、立てるな!」
「……ったりめえだ! この程度で、くたばるアタシじゃねえ!」
地面に倒れていたオリビアが、獣のような咆哮と共に、再び立ち上がる。口の端から血を流しながらも、その瞳は、全く死んでいない。
彼女は、カイヴァー・ドレークが驚愕している、その懐へと、再び、神速で飛び込んでいった。
今度は、ただの攻撃ではない。仲間が作った、千載一遇の好機を、絶対に無駄にはしないという、決死の覚悟を乗せた、一撃だ。
激しい格闘戦が、再び、始まる。
だが、カイヴァー・ドレークは、即座に体勢を立て直し、その身に、強力な斥力フィールドを展開した。
「小賢しい真似を……!」
オリビアの拳が、その不可視の壁に阻まれ、弾き返される。
リーベは、先ほどの魔法で魔力を大きく消耗し、ふらついている。アステラとカリスタの攻撃は、依然として通用しない。
万策、尽きたか。
誰もが、そう思いかけた、その時だった。




