第5話:これが俺のやり方だ。社畜式リスク管理と完璧な問題解決
そこで俺たちを待っていたのは――。
「……これが、シューティングスター号?」
目の前に鎮座する船を見て、俺は思わず呟いた。
流線形とはお世辞にも言えない、ずんぐりとした船体。かつては白かったであろう装甲は、宇宙空間の過酷な環境に晒され続けた結果か、薄汚れた灰色に変色し、あちこちが凹んだり錆びたりしている。まるで、スクラップ置き場から拾い集めた部品を無理やり繋ぎ合わせたような、オンボロ宇宙船だった。
「ひ、ひどい……」
隣でアステラが素直すぎる感想を漏らすと、オリビアの顔がカッと赤く染まった。
「し、失礼な! こいつは見た目よりずっとタフなんだ! 数々の修羅場を潜り抜けてきた、歴戦の勇士なんだぞ!」
「その勇士も、今はドックで休息が必要なように見えますが……」
冷静にツッコミを入れるリーベ。
俺は無理やり船に乗り込み、コクピットに収まった。内部も外見に違わず年季が入っており、配線が剥き出しになっている箇所すらある。本当に飛ぶのか、これ。
「行くぜ、野郎ども! しっかり掴まってな!」
オリビアが威勢よく操縦桿を握る。
次の瞬間、ガコン、と嫌な音を立てて船体が激しく揺れた。シューティングスター号は、まるで喘息患者の咳のような断続的な噴射音を響かせながら、なんとか惑星の重力圏を突破。目的のデブリ帯へとワープした。
***
眼前に広がるのは、無数の宇宙船の残骸や小惑星が、墓標のように静かに漂う危険な宙域だ。かつてここで繰り広げられたであろう激しい戦闘の跡が、生々しく残っている。
「よし、やるか。慎重に、だが手早く済ませるぞ」
俺たちがデブリの回収作業を始めようとした、その時だった。
船のすぐ側で爆発が起きた。
ゴウン! という腹に響く衝撃音と共に、機体が激しく揺れる。一瞬だけ慣性制御が乱れ、体がシートに強く押し付けられた。ブリッジには、魔力が焼けるような、鼻をつくオゾンの匂いが微かに立ち込める。
「敵襲!? なんでこんな場所に!」
リーベが悲鳴に近い声を上げた。
魔導水晶盤には、何かの物体が1つ、こちらに猛スピードで迫ってくるのが映し出されていた。依頼情報にはなかった、予期せぬトラブルだ。
「くそっ、どうするんだいユウト! あいつら、こっちを獲物だと思ってるぞ!」
「落ち着け、オリビア。パニクるな」
パニック寸前の二人に対し、俺は驚くほど冷静だった。
社畜時代、突然の仕様変更やクライアントからの無茶振りは日常茶飯事だった。この程度のトラブル、連日の徹夜と休日出勤が確定するプロジェクト炎上に比べれば、そよ風のようなものだ。
俺は《解析瞳》で、敵船の情報を瞬時にスキャンする。
【海賊船(旧式)】
武装: 低出力プラズマ砲×2
装甲: 標準的なチタン合金(一部に修復跡あり、耐久性に難)
解析結果: 魔導防壁の魔力循環システムに構造的欠陥。特定の角度からの衝撃に対し、極端に脆弱。魔導炉の冷却効率が悪く、高出力での連続稼働は不可能。
「(なるほど、見えた。ポンコツなのはこっちだけじゃないらしい)」
俺は脳内で完璧なオペレーションを組み立て、矢継ぎ早に指示を飛ばす。その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「オリビア、あの巨大なデブリの裏に隠れろ! 敵の死角に入るんだ!」
「リーベ、船の魔導炉の出力を瞬間的に最大まで上げろ! 敵の追尾魔法を誤作動させる!」
俺の的確な指示に、二人は戸惑いながらも即座に従う。
オリビアの神業のような操船で、シューティングスター号は巨体の残骸の影に滑り込む。同時にリーベが魔導炉の出力を操作し、敵の追尾を撹乱した。
敵船は俺たちを見失い、無闇にプラズマ砲を乱射している。魔力の無駄遣いだ。
「今だ! オリビア、敵の背後に回り込め!」
「おうさ!」
シューティングスター号がデブリの影から飛び出し、一気に加速。敵の弱点である魔導炉が搭載された船体後部が、完全に無防備に晒される。
「リーベ、主砲、出力30%でいい! 敵の魔導炉を正確に狙え!」
リーベがターゲットをロックし、主砲を発射する。
放たれた光弾は、綺麗な直線を描き、吸い込まれるように敵船の魔導炉に命中した。
海賊船は小さな爆発を起こし、推進力を失って宇宙を漂う鉄屑と化した。
「やった……! やったわ!」
リーベが歓声を上げる。
俺は航行不能になった海賊船に通信を繋ぎ、社畜時代に培った営業スマイルとは真逆の、不敵な笑みを浮かべて言った。
「積荷を全部置いていけ。そうすれば見逃してやる」
こうして俺たちは、最小限の消耗で海賊を撃退し、おまけに奴らの積荷まで手に入れることに成功したのだった。
これが俺のやり方だ。社畜式リスク管理と、完璧な問題解決。
俺の第二の人生は、どうやら退屈とは無縁のものになりそうだ。




