第49話:「うるさい。仲間とのディナーに間に合わなくなるだろ」
シューティングスター号のブリッジに、突如、巨大なホログラムが投影された。
それは、禍々しい漆黒の鎧に身を包み、威圧的な玉座にふんぞり返る、一人の男の姿だった。その鎧は、まるで生きているかのように、暗い光を吸収し、脈動しているように見えた。兜の隙間から覗くその瞳は、宇宙の深淵そのもののような、冷たく、そして狂的な光を宿している。
彼こそが、この大艦隊を率いる長――カイヴァー・ドレーク。
同時に、宇宙空間で戦うアステラとカリスタのヘルメット内にも、その映像と音声が転送される。
『――聞こえるか、聖域のネズミどもよ』
カイヴァー・ドレークの、芝居がかった、ねっとりとした声が、ブリッジに響き渡る。
その声が聞こえた瞬間、アステラは宇宙空間で静かに拳を握りしめ、その瞳に宿る怒りの炎を、さらに燃え上がらせた。過去の記憶が、彼女を苛んでいるのだ。
カリスタは「下劣ですわ……」と吐き捨て、リーベは俺の隣で、冷静に敵の情報を分析し始める。オリビアは、操縦桿を握ったまま、「で、要件は何なんだい?」と、不遜な態度を隠そうともしない。
俺は、思念通信で、アステラのバイタルサインが乱れているのをライブラからの報告で察知し、冷静に声をかける。
「(アステラ、気にするな。ああいうのは、自分の言葉に酔ってるだけの、小物だ。俺たちがやることは、何も変わらない)」
俺の声に、アステラはこくりと頷き、少しだけ落ち着きを取り戻した。
カイヴァー・ドレークは、俺たちのそんな様子など知る由もなく、己の壮大な演説を続けた。
『我こそは、カイヴァー・ドレーク! 歪んだ世界の調和を正し、宇宙に真の秩序をもたらす者なり! この宇宙は、偽りの平和に満ちている! 我々は、その偽りを破壊し、力による真の解放を、全ての生命に与えるのだ!』
宇宙の真理がどうの、世界の解放がどうのと、壮大な言葉を並べ立てる。俺は、腕を組んだまま、黙ってその茶番を聞いていた。
やがて、彼の長い演説が終わった瞬間、俺は、心底どうでもよさそうに、こう切り出した。
「なるほど。理解した。で、その壮大なビジョンとやらは、俺らの理念と競合するし、何より、君のプレゼンは結論が最後に来るタイプで、非常に分かりにくい。評価はDマイナスだ」
俺の言葉に、カイヴァー・ドレークは、一瞬、何を言われたのか理解できないといった表情で、固まった。
俺は、そんな彼に、決定的な一言を言い放つ。
「悪いが、お前のくだらんエゴに付き合う時間はないんだ。こっちは、仲間とのディナーっていう、この世界で一番大事なアポイントがあるんでね。さっさと終わらせて帰らせてもらうぞ」
聖なる戦いを、「くだらんエゴ」とまでこき下ろされ、カイヴァー・ドレークの顔が、怒りで真っ赤に染まっていく。
「こ、小賢しい口を……! 後悔させてやる! 貴様らごと、その忌々しい聖域を、宇宙の塵へと消し飛ばしてくれるわ!」
ついに激昂した彼は、玉座から立ち上がり、絶叫した。
「旗艦主砲、古代魔導兵器『アビス・ゲイザー』、起動! 目標、聖域中央ブロック! 魔力充填開始! あの忌々しい聖域全てを無に還すのだ!」
その命令と同時に、ライブラの絶叫が、俺の頭に響き渡った。
『ユウト様! 危険です! 旗艦から、聖域全体を覆うほどの、絶望的な魔力反応を観測! このままでは、聖域の魔導防壁が……!』
魔導水晶盤には、敵旗艦の一点に、星系が飲み込まれるほどの、巨大な魔力が収束していく様子が、映し出されていた。
どうやら、ラスボスは、相当、お怒りのご様子だ。




