第48話:大規模宇宙艦隊戦! 元社畜のプロジェクトマネジメント能力、舐めるなよ!
シューティングスター号のブリッジは、かつてないほどの緊張感に包まれていた。
魔導水晶盤には、絶望的な数の敵艦隊を示す赤い光点が、まるで画面を埋め尽くす赤いインクの染みのように広がっている。敵は、聖域本体、宇宙空間に展開するアステラとカリスタ、そして、遊撃部隊である俺たちのシューティングスター号という三つのターゲットに対し、それぞれに最適化された攻撃――小型戦闘機によるドッグファイト、近距離用の雷撃魔法、そして対拠点用の高出力長距離魔法――を、波状的に仕掛けてくる。まさに、多次元飽和攻撃。こちらの思考と対応のリソースを、物量で完全に圧殺しようという、正攻法にして、最も厄介な戦術だ。
だが、俺の心は、不思議なほどに静まり返っていた。
目の前の光景は、もはや俺にとって、混沌とした戦場ではない。
無数のタスク、複数のプロジェクト、そして、限られたリソースが複雑に絡み合う、巨大な「プロジェクト炎上案件」だ。そして、それを完璧にマネジメントすることこそ、俺が社畜時代に唯一、極めたスキルだった。
「ライブラ、メインの魔導水晶盤を五分割しろ。第一画面に全域マップ、第二にアステラ、第三にカリスタ、第四にシューティングスター号の状況、第五に敵旗艦の動向をリアルタイムで表示させろ!」
俺の指示に、ライブラが即座に応答する。
『了解。戦術表示モードに移行します』
ブリッジの魔導水晶盤が分割され、戦場の全てが、俺の眼前に可視化される。無数の情報が、俺の脳内で瞬時に処理され、最適解へと再構築されていく。まるで、この混沌とした戦場が、俺だけに見える巨大なチェス盤に変わったかのようだ。
「よし、これより、対『深淵』プロジェクトを開始する!」
俺は、不敵な笑みを浮かべて、高らかに宣言した。
「納期は最速、目標は完全勝利、予算(魔力消費)は最小限に抑える! いいな、お前ら!」
「「「了解!」」」
仲間たちの頼もしい声が、思念通信を通して響き渡る。
「タスクを割り振る! アステラは主砲担当! 俺が指定した座標以外には、絶対に攻撃するな! 魔力の無駄遣いは許さん!」
「リーベは防衛兼デバフ担当! 船の魔導防壁維持を最優先しつつ、敵戦闘機部隊に魔力減衰フィールドを仕掛けろ!」
「オリビアは回避機動とヘイト管理! アステラとカリスタに向かうはずだった戦闘機を、可能な限りお前の操縦で引きつけろ! 船は最強の盾であり、囮だ!」
「カリスタは遊撃隊! お前の役目は、敵の攻撃網に風穴を開けることだ! アステラを狙う雷撃魔法、船の防御を抜けようとする戦闘機、目についた敵を片っ端から斬り捨てろ!」
「そして、ライブラ! 敵のデータ解析と、各員の魔力消費率の進捗報告を、1分ごとに俺に報告しろ!」
それは、もはや戦闘指揮ではなかった。
ブラック企業で鍛え上げられた、異常なまでのマルチタスク処理能力と、プロジェクトマネジメント能力。俺は、複数のプロジェクトを同時に管理する凄腕マネージャーのように、冷静沈着に、しかし、神速で指示を飛ばしていく。
戦場が、俺の意のままに動き出す。
オリビアのシューティングスター号が、まるで挑発するかのように敵戦闘機部隊のど真ん中に突っ込み、その注意を一身に引きつける。その神業的な操縦は、敵の攻撃を掠めさせもしない。そして、引きつけられた戦闘機の群れに、リーベの放つ「領域創造:魔力減衰フィールド」が突き刺さり、敵機の魔導炉を次々と機能不全に陥らせていく。
「私の間合いですわ!」
カリスタが、宇宙空間を縦横無尽に駆ける。その聖炎の剣は、アステラを狙う雷撃魔法を切り裂き、シューティングスター号の防御網を抜けようとする戦闘機を、一刀両断にする。彼女は、もはや一人の騎士ではない。一騎当千の剣士として、敵の攻撃網を、内側からズタズタに引き裂いていく。
そして、アステラ。
彼女は、俺が指定した座標だけを見つめ、静かに、しかし着実に、その身に宇宙の魔力を収束させていく。カリスタが作った敵陣の穴、シューティングスター号が作った一瞬の隙。その全てが、彼女の射線へと繋がっていく。
「星光の爆砕!」
彼女が放つ中出力の光の爆発が、寸分の狂いもなく、敵艦隊の最も密集した座標に着弾する。派手な機動力はない。だが、その一撃は、敵の前衛部隊を、確実に宇宙の塵へと変えていく。
敵の司令部は、混乱の極みにあっただろう。
個別の部隊を撃破しようとしただけなのに、なぜか、全ての攻撃が、完璧な連携によって無力化され、反撃され、そして、先鋒部隊が、瞬く間に壊滅していく。
『ありえない……。奴らは、まるで、一つの生き物のように動いている……!?』
敵艦の司令官が、そう戦慄する中、ついに、業を煮やした『深淵』の長が、動いた。
敵艦隊の頂点に君臨する、巨大な旗艦から、俺たちのシューティングスター号に向けて、直接、通信回線が開かれたのだ。




