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第43話:カリスタの葛藤と克服。「破邪の聖炎」の本当の使い方

「……さて、と。最後はお前だ、カリスタ」


俺が声をかけると、カリスタはびくりと肩を震わせ、居心地悪そうに視線を逸らした。


アステラ、リーベ、オリビアが、それぞれの壁を乗り越え、新たな力をその手に掴みつつあるのを、彼女はずっと見ていた。その瞳に浮かぶのは、焦り、嫉妬、そして、自分だけが取り残されているという、エリートとしてのプライドが許さない、屈辱の色。


彼女の課題は、他の三人よりも、ある意味で根深い。


彼女の力、『破邪の聖炎』は、威力だけならアステラの光魔法にも匹敵する。だが、その炎は、あまりにも制御が難しく、荒々しい。仲間がいる戦場では、敵だけでなく、味方さえも焼き尽くしかねない、諸刃の剣だ。


そして何より、その力を制御すべき彼女自身の心が、最も大きな問題を抱えていた。


「まずは、小手調べだ。あそこに見える、あの小さな岩。あれだけを、お前の炎で破壊してみろ。いいか、絶対に、周囲の壁や床を焦がすなよ」


俺の言葉に、カリスタはカチンときたようだった。


「なんですって!? この私を、誰だと思っているのですか! そんな赤子のような芸当、できて当たり前ですわ!」


彼女は自信満々に剣を構え、その切っ先を小さな岩に向ける。


だが、その心は、焦りと、「他の者たちにできたことが、私にできないはずがない」という、無意味なプライドで満ちていた。


彼女が放った炎は、確かに岩を粉砕した。だが、同時に、制御を失った余波が、周囲の壁や床を大きく焦がし、黒い煤の跡を残した。


「なっ……!?」


カリスタが、信じられないといった表情で、自分の失敗を見つめている。


俺は、そんな彼女に、静かに、しかし厳しく問いかけた。


「どうした、お嬢様。赤子のような芸当も、できないのか?」

「う、うるさいですわ! 今のは、少し、調子が悪かっただけですのよ!」

「強さとは、なんだと思う、カリスタ?」


俺は、彼女の言い訳を遮り、本質を突く。


「ただ、やみくもに全てを焼き尽くす炎が、本当に『強い』と言えるのか? 荒れ狂う山火事が、誰かを守れるか? 違うだろ。本当の強さとは、その炎を、自在に操り、守るべきものを守り、斬るべきものだけを斬る、その『制御』の力にあるんじゃないのか?」


俺は、アステラたちの方を指さす。


「見ろ。アステラは、自分の光を、仲間を照らす道標に変えようとしている。リーベとオリビアは、正反対の力を、互いを高め合う翼に変えた。彼女たちは、自分の力が、自分だけのものではないと、理解しているからだ。このパーティにおいて、お前の力は、お前だけのものではない。俺たちの力の一部だ。そして、その一部が暴走すれば、俺たちは全員、破滅する」


俺の言葉は、彼女のプライドを、容赦なく切り刻んでいく。


「お前は、ロゼッタ王家の姫なのだろう? 王とは、民を守る存在じゃなかったのか? その力を制御できず、自らの民さえも危険に晒す王が、どこにいる。お前が目指すべきは、全てを破壊する暴君じゃない。その力で、仲間を、そして、いずれはお前の民を守る、真の『女王』であるべきだ」


その言葉は、まるで雷のように、カリスタの心を貫いた。幼い頃、父に同じようなことを言われた記憶が、脳裏をよぎる。あの時は、ただ反発しただけの言葉が、今、重く、そして温かく、彼女の胸に響いた。


カリスタは、わなわなと唇を震わせ、その碧い瞳から、大粒の涙を、ぽろぽろと零し始めた。それは、悔し涙だった。だが、それ以上に、自分の未熟さが原因で、ゴーストシップの時のように、また仲間たちを危険に晒してしまうかもしれないという、恐怖の涙だった。


やがて、彼女は、その場に崩れるように膝をつき、嗚咽(おえつ)を漏らしながら、震える声で言った。


「……教え、て……ください……! わたくしは、どうすれば……。どうすれば、皆さんと、対等に戦える、本当の『仲間』に、なれますの……!?」


それは、彼女が、エリートとしての仮面を脱ぎ捨て、ただ一人の、不器用な少女として、初めて俺に助けを求めた瞬間だった。


俺は、そんな彼女の前にしゃがみこみ、その涙を、優しく拭ってやった。


「よく言った。それこそが、お前が『女王』になるための、第一歩だ」


俺は、彼女に、新たな訓練法を授けた。


それは、彼女の聖炎を、ただ放つのではなく、その剣に、まるで刀身の一部であるかのように、薄く、そして極限まで高密度に纏わせる、というものだった。


破壊の奔流を、全てを切り裂く、一本の刃へと、変えるのだ。


それは、これまでの彼女の戦い方とは、全く異なる、絶大な集中力と、精密な魔力制御を要求される、至難の業だった。


カリスタは、涙を拭い、再び剣を握りしめた。


その瞳には、もう、焦りも、見栄もない。


ただ、ひたすらに、仲間たちの隣に立つにふさわしい、本当の強さを求める、真摯な光だけが、宿っていた。


俺たちのパーティが、真に一つになるまで、あと少しだ。


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