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第42話:リーベとオリビアの連携訓練。二人で一つの翼となれ

「よし、その調子だ。じゃあ、次は……」


アステラの訓練が無事に一段落したのを見届け、俺は、少し離れた場所で固唾を飲んで俺たちの訓練を見守っていた、次の問題児たちへと視線を移した。


「リーベ、オリビア、お前たちの番だ」


俺の声に、二人はびくりと肩を震わせ、緊張した面持ちで立ち上がった。

彼女たちの課題は、アステラとはまた違った意味で、根が深い。

リーベの力は、空間そのものに干渉する、あまりにも繊細で知的な「領域創造」。対して、オリビアの力は、肉体の限界を超えて荒れ狂う本能的で荒々しい「獣神化」。その性質は、水と油。光と闇。あまりにも正反対だ。


リミッターが外れた今、リーベの思考は、意図せずして周囲の空間を歪ませ、予期せぬ魔法フィールドを出現させる。オリビアの力は、加速するGに彼女自身の肉体が耐えきれず、自壊しかねない。

この二つの力を連携させるなど、普通に考えれば不可能に近い。精密機械の組み立てを、活火山の火口でやろうとするようなものだ。


「まずは、やってみろ。オリビア、獣神化して、あの柱の周りを全力で走り続けろ。リーベは、オリビアの動きに合わせて、彼女の体に負担がかからないように、支援フィールドを展開して動きの補助をしろ」


俺の指示に、二人は頷き、訓練を開始する。

オリビアの体から、猛獣のようなオーラが立ち上る。

「うおおおおおっ!」

獣神化した彼女は、残像が見えるほどの速度で、目標の柱の周囲を駆け抜ける。

その動きに合わせて、リーベが必死に支援フィールドを展開しようとするが――。


パリンッ!


まるで薄いガラスが砕けるように、リーベが展開したフィールドは、オリビアの速度とパワーに耐えきれず、一瞬で霧散した。


「くっ……! 速すぎて、追いつけない……!」

「ちっ、こんなもんかい! アタシのスピードに、お前の魔法はついてこれねえんだよ!」


オリビアが、苛立ちを隠せない声で叫ぶ。その言葉に、リーベの眉がピクリと動いた。

今度は、リーベがオリビアの動きを予測し、あらかじめ進路上にフィールドを展開する。だが、オリビアの動きはあまりにも野性的で、予測不能だ。彼女がフィールドに触れた瞬間、魔力の流れが乱れ、フィールドは再び制御不能に陥った。


「だから、言ったでしょう! もっと規則的に動いてくださらなければ、私のフィールドは維持できません!」

「んだと!? アタシは、アタシのやり方で戦う! それに合わせるのが、サポーターの役目だろうが!」


案の定、二人の間には険悪な空気が流れ始める。

俺は、やれやれと首を振りながら、二人の間に割って入った。


「そこまでだ。二人とも、頭を冷やせ」


俺の言葉に、二人ははっとしたように口を噤む。


「いいか、お前たちは根本的に勘違いしている。リーベ、お前はオリビアを無理やり自分のルールの中に閉じ込めようとしている。オリビア、お前はリーベのサポートを、ただの補助輪か何かだと思っている。違うんだ」


俺は、地面に一本の線と、その周りを回る円を描いた。


「オリビア、お前の『獣神化』は、ただ速くて力が強いだけじゃない。その圧倒的な運動エネルギーは、お前の周囲の空間に、強力な魔力の『流れ』を生み出している。お前自身が、一つの嵐の目になっているようなものだ。だが、その流れはあまりにも荒々しく、制御できていない。だからお前の肉体にも過剰な負荷がかかる」

「……っ」

「リーベ、お前の『領域創造』は、その荒れ狂う魔力の流れを観測し、それを安定させ、進むべき『道』へと変えるための、完璧なレールだ。お前がやるべきは、オリビアの動きを予測することじゃない。彼女が生み出す魔力の流れを読み取り、その流れに沿って、最適なレールを敷いてやることなんだ」


俺は、二人の顔を交互に見て、言った。


「お前たちがやるべきは、相手に合わせることじゃない。互いの力を利用し、一つの現象として『同期シンクロ』することだ。オリビアが風を起こし、リーベがその風を竜巻へと昇華させる。お前たち二人は、二人で一つの、止められない力になるんだ」


俺は、新たな訓練を課した。

まずは、単純なリズムの同期から。オリビアは、一定のリズムで直線を往復するだけ。リーベは、その動きに合わせて、フィールドを脈動させるように展開・収縮を繰り返す。

最初は、ぎこちなかった二人の動きが、次第に滑らかになっていく。


「そうだ。リーベ、オリビアの筋肉の収縮、魔力の流れを感じろ。オリビア、リーベのフィールドの圧力を、風の流れのように感じろ。言葉じゃない、魂で対話するんだ」


やがて、二人の間に、確かな一体感が生まれる。

オリビアの動きが、リーベのフィールドによって、さらに洗練され、鋭くなっていく。

リーベのフィールドが、オリビアのパワーによって、さらに強固で、しなやかなものになっていく。


「今だ! 二人で、あのゴーレムの残骸を破壊しろ!」


俺が叫ぶ。

オリビアが、獣神化して一直線に突撃する。彼女の周囲に発生した魔力の渦を、リーベが創り出した螺旋状の美しい魔力フィールドが完璧に捉え、増幅させる。それは、もはや彼女を縛る枷ではない。彼女をさらなる高みへと押し上げる、風の翼だ。


オリビアの拳が、ゴーレムの残骸に叩き込まれる。

そこに、リーベのフィールドが収束し、増幅されたエネルギーが炸裂した。

キィン!という甲高い共鳴音と共に、螺旋状の魔法フィールドが眩い光を放つ。それはもはや単なるエネルギーではなく、二人の魂が奏でる協奏曲だった。


轟音と共に、ゴーレムの残骸が、跡形もなく消し飛んだ。


「……やった」

「……ええ」


オリビアとリーベは、互いの顔を見合わせ、そして、初めて、仲間として、心からの笑みを交わした。

その光景に満足げに頷きながら、俺は、訓練の間、ずっと壁際で腕を組み、複雑な表情でこちらを見ていた、最後の問題児へと、向き直った。


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