第4話:訳ありの天才たちとの出会い。「君たちの才能、俺に投資しないか?」
アステラと出会って数日が過ぎた。
彼女の記憶は戻らないものの、持ち前の天真爛漫さですっかり元気を取り戻し、今では俺の後ろを子犬のようについて回るようになっていた。問題は、俺の懐事情だ。一人分の稼ぎで二人分の食費と宿代を賄うのは、さすがに厳しい。
「ユウト、お腹すいたー!」
「はいはい、今行くから待ってろ」
本格的に金策を考えなければならない。
この世界のクエストは、その多くが宇宙での活動を前提としている。つまり、高収入を得るには宇宙船が必要不可欠だ。
「船、か……」
俺はアステラを連れて、再びギルドの酒場へと向かった。
船を持っているクルーを探し、交渉してみるつもりだ。
酒場は昼間から活気に満ち溢れていた。
屈強な傭兵たちがエールを飲み交わし、テーブルではカードゲームに興じる者たちの歓声が上がる。その喧騒の中、俺はあるテーブルに目を留めた。いかにも訳ありげな二人組がいたからだ。
一人は、尖った耳を持つエルフの女性。艶やかな緑色の髪を知的な雰囲気でまとめ、テーブルに広げた複雑な魔導回路の設計図を前に、深いため息をついている。
もう一人は、荒々しい茶色の毛並みと、感情に合わせてぴくぴくと動く尻尾を持つ獣人の女性。鍛え上げられた腕を組み、仏頂面で虚空を睨んでいる。その姿は、まるで獲物が見つからず苛立っている雌豹のようだ。
ちょうどその時、二人のもとに、別の冒険者パーティのリーダーらしき男が、依頼書を片手に近づいていくのが見えた。
「よう、オリビア。お前の腕は確かだが、ちっとは周りを見やがれ。お前の無茶な操縦のせいで、船の修理費がいくらかかったと思ってんだ!」
「へっ、アンタの船がポンコツなだけだろ。アタシの操縦についてこれねえ方が悪い」
「なんだと!?」
「それに、そっちの技師さんよぉ」
男はエルフの女性に矛先を向ける。
「あんたの理論は確かにすげえかもしれねえが、コストがかかりすぎんだよ! 採算が合わねえって、何度言ったらわかるんだ!」
「私の理論の価値が、あなたのような方には理解できないでしょうね」
エルフの女性は、冷たく言い放った。男は顔を真っ赤にして去っていく。
なるほどな。
俺は《解析瞳》で、彼女たちの情報を探った。
【リーベ】
種族: エルフ
職業: 魔導技師
状態: スランプ。自身の革新的な魔導理論を実証するための研究資金が底をつき、途方に暮れている。伝統を重んじるエルフの学会では異端扱いされ、孤立している。
課題: 理論が先進的すぎて、コストと安定性の問題から実用化に至らず、誰からも理解されない。
【オリビア】
種族: 獣人
職業: 操舵士
状態: 不満。自身の神業的な操船技術を発揮できる船と、それを理解できる船長に巡り会えず、才能を持て余している。愛船『シューティングスター号』の修理費にも困窮中。
課題: 操縦技術が神業的すぎて、並の船では機体が耐えられず、並の船長では彼女の動きを予測・指示できない。
「(ビンゴだ。これ以上ないくらいの人材じゃないか)」
才能はある。だが、それを活かす環境と、理解者がいない。その結果、宝の持ち腐れになっている。
非効率だ。あまりにも、非効率すぎる。
社畜時代の俺なら、この「リソースの無駄遣い」という状況を、絶対に見過ごせなかっただろう。
俺は口の端に笑みを浮かべ、二人のテーブルへと迷いなく向かった。
「よう。ちょっといいか?」
「……なんだい、アンタ」
獣人のオリビアが、値踏みするような鋭い視線で俺を睨みつける。その隣で、エルフのリーベは設計図から顔も上げない。
「君たちの才能、俺に投資しないか?」
「はあ?」
俺の突拍子もない言葉に、オリビアが眉をひそめる。リーベもようやく顔を上げ、怪訝そうな表情を浮かべた。
「俺には壮大な計画がある。古代の『遺失された鋼鉄の聖域』を探索し、一攫千金を狙う計画だ。そのためには、君たちのような優秀な技師と操舵士が必要なんだ」
もちろん、聖域探索の計画なんて今考えたハッタリだ。さっきギルドの依頼リストで見かけた、一番儲かりそうなクエストを口にしただけだ。だが、その言葉には確信を込めた。
「聖域、だと……? 正気かい、アンタ。あそこを目指して生きて帰れた者がいないっていう、魔の宙域だぞ」
「だからこそ、ロマンがあるだろ? 俺には、それを可能にする算段がある」
俺は自信満々に言い放つ。
当然、無一文の若造の戯言を、彼女たちが信じるはずもなかった。
「悪いが、お遊びに付き合ってる暇はないんでね。他を当たってくれ」
「まあ、待て。もちろん、ただでとは言わない」
俺は掲示板を指さした。
「あそこに、高難度の宙域デブリ回収依頼がある。まずはあれを共同で受注しないか? 俺のプラン通りにやれば、君たちの船の修理費と、君の研究資金の足しくらいにはなるはずだ。それで俺の実力を示そう。いわば、お試しミッションってやつだ」
俺の言葉に、リーベとオリビアは顔を見合わせた。
他に当てもないのだろう。半信半疑ながらも、その瞳にはわずかな興味の色が浮かんでいた。
「……いいだろう。どうせこのままじゃジリ貧だ」
オリビアが、挑戦的な笑みを浮かべて言った。
「アンタの実力とやら、見せてもらおうじゃないか」
こうして俺は、一癖も二癖もありそうな天才二人を、半ば強引に仲間に引き入れたのだった。
完璧なニート生活への道は、少し遠回りになるかもしれないが、どうやら退屈している暇はなさそうだ。




