第34話:聖域深部に眠る巨大クリスタルと、予期せぬ出会い
カリスタの聖炎によって光のベールが砕け散ると、その向こうには、これまでとは全く異なる空気が流れる通路が口を開けていた。ひんやりとした、しかしどこか神聖で、澄み切った空気が俺たちの頬を撫でる。それは、まるで数千年の間、誰の侵入も許さなかった聖なる場所の、最初の呼吸のようだった。
「……行こう」
俺の短い言葉を合図に、俺たちは固唾を飲んで、その未知の領域へと足を踏み入れた。
通路は緩やかな下り坂になっており、壁や天井は、継ぎ目のない滑らかな未知の金属で覆われている。足音だけが、荘厳な静寂の中に吸い込まれていった。
どれくらい歩いただろうか。やがて通路は終わりを告げ、俺たちは息を呑むほどに広大な、巨大なドーム状の空間へと辿り着いた。
そこは、まるで神を祀るための大聖堂のようだった。
天井は遥か高く、ドーム全体が夜空のように淡い光を放ち、無数の光の粒子が星々のように瞬いている。空気が、違う。これまでの無機質な回廊とは比べ物にならないほど、清浄で、そして濃密な魔力で満たされている。空間の中央には、天と地を繋ぐ柱のように、途方もなく巨大な、一本の水晶体が鎮座していた。
それは、ただの水晶ではなかった。
透明な結晶の内部には、銀河や星雲を思わせる複雑な模様が絶えず明滅し、まるでそれ自体が一個の生命体であるかのように、ゆっくりと、しかし力強く脈動している。その表面には、俺たちがこれまで見てきた古代文字や幾何学模様が、川の流れのように浮かび上がっては消えていく。膨大な、あまりにも膨大な情報が、この水晶体の中に眠っているのだ。
「すごい……。なんて、美しい……」
リーベが、魔導技師としての知的好奇心も忘れ、ただ一人の少女として、その神秘的な光景に魅入られている。
「ユウト……。なんだか、懐かしい感じがする。あの水晶、私を呼んでる……」
アステラは、胸元をぎゅっと押さえながら、うっとりとした表情で呟いた。彼女の『星のささやき』が、この水晶体が放つ膨大な魔力と共鳴し、心地よい安らぎを感じているのだろう。
「フン、大きいだけの石ころですわね。ですが……まあ、少しは、見応えがありますわ」
カリスタは、扇で口元を隠しながらも、その碧い瞳は隠しきれない畏怖と興奮に揺れていた。オリビアも、ただ黙って、その圧倒的な存在感を前に、警戒を解かずに佇んでいる。
俺は、そんな仲間たちの反応を背に、ゆっくりと巨大な水晶体へと歩みを進めた。
近づくにつれて、ビリビリと肌を刺すような魔力の圧力が強くなる。だが、不思議と不快感はない。むしろ、アステラが言ったように、どこか懐かしく、引き寄せられるような感覚があった。
俺は《解析瞳》を発動させる。
だが、脳内に流れ込んできたのは、いつものような整理されたデータではなかった。
【■■■■■■■】
解析不能。
解析不能。
情報量が許容量をオーバー。システムに致命的なエラーが発生する可能性があります。即座に解析を中断してください。
「(ダメだ、読めない……! いや、違う。情報が多すぎるんだ。俺の脳が、この水晶が持つ情報の奔流を、処理しきれない……!)」
まるで、コップ一杯の水で、大海を受け止めようとするようなものだ。
だが、俺の本能が、理性が発する警告を無視して、さらに奥へと進めと叫んでいた。
俺はこの水晶に、触れなければならない。
自然と、俺の右手が持ち上がる。
仲間たちの制止の声が、遠くに聞こえる。
だが、もう俺には、目の前の水晶しか見えていなかった。
そして。
俺の指先が、ひんやりとした水晶の表面に、触れた、その瞬間だった。
世界が、白く染まった。
水晶体が、これまでとは比較にならないほどの眩い光を放ち、ドーム全体が激しく震動する。俺の体を通して、宇宙の創生から終焉までの、全ての情報が流れ込んでくるかのような、凄まじい感覚。
「ユウト!」
仲間たちの悲鳴が響く中、光が収束し、俺の目の前に、一体のホログラムが、静かに姿を現した。
それは、長い銀髪を揺らし、どこか儚げな雰囲気を纏った、一人の美しい少女だった。




