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第3話:星のささやきを聞く最強の聖女、アステラとの出会い

薬草採集のクエストは、驚くほど簡単だった。


《解析瞳》を使えば、目的の薬草が放つ微弱な魔力反応を、まるでレーダーのように探知できるからだ。他の新米冒険者が一日がかりで集める量を、俺はわずか一時間ほどで集め終えてしまった。


「楽勝だな。これなら一日で一週間分の宿代は稼げる。完璧なニート生活への道は、実に順調だ」


鼻歌交じりでギルドへの帰路についていた、その時だった。


ズウウウウウウウンッ!


突如、森全体が激しく揺れるほどの轟音と衝撃が襲った。


驚いて身をかがめると、少し離れた方角から、黒煙がもくもくと立ち上っているのが見えた。鳥たちが一斉に飛び立ち、森が不気味な静寂に包まれる。


「(なんだ? 墜落か?)」


面倒事の匂いがぷんぷんする。


社畜時代に培われた危機管理能力が、脳内でけたたましく警報を鳴らしていた。「関わるな」「見て見ぬふりをしろ」「君子危うきに近寄らず」と。俺が目指すのは平穏なスローライフだ。トラブルに自ら首を突っ込むなど、愚の骨頂。非効率の極みだ。


……頭では、そうわかっていた。


わかっていたのだが、目の前で発生した「問題」を放置できないのも、また、悲しい社畜の性だった。転生という非日常を体験したばかりの心は、退屈な日常を嫌うように、未知の刺激を求めてもいた。


「……ちょっとだけだぞ。状況確認とリスク分析だけだ」


誰に言うでもなく言い訳を呟き、俺は結局、好奇心と、そして染み付いた問題解決への衝動に負けて現場へと向かった。


木々をかき分け、煙が立ち上る方角へ進むと、そこには信じられない光景が広がっていた。


小型の宇宙船が、地面に深いクレーターを穿ち、無残な残骸と化している。流麗だったであろう船体は見る影もなくひしゃげ、あちこちから火花が散っていた。立ち上る黒煙が目に染み、焦げ付くような匂いが鼻をつく。


その瞬間、頭上を鋭い影がよぎった。


見上げると、戦闘機のような鋭角的なデザインの小型艇が、一機、高速で飛び去っていくところだった。船体には、不気味なドクロのエンブレムが描かれている。海賊だろうか。撃ち落とした獲物を確認し、去っていったというところか。いや、違う。その動きには、どこか慌てたような色が見える。


遠くから編隊を組んだ宇宙船が接近してきている。おそらく、この宙域の警備船に見つかったというところか。


煙が風に流され、視界が晴れる。


そこで俺は、息を呑んだ。


宇宙船の残骸のそばに、一人の少女が倒れていた。


風になびく、月光を溶かしたかのような美しい白銀の髪。健康的な褐色の肌。その白い装束は所々が焼け焦げ、肌には痛々しい擦り傷が見える。だが、そんな過酷な状況にあっても、彼女の存在は、まるで穢れを知らない宝石のように、神秘的な輝きを放っているように感じられた。薄手の動きやすい装束から覗く手足は、しなやかで、かつ強靭に鍛えられていることが一目でわかった。


俺は駆け寄り、その傍らに膝をつく。

「おい、大丈夫か!?」


返事はない。気を失っているだけのようだ。だが、このまま放置すれば、森の獣に襲われるか、あるいは先ほどの海賊が戻ってくるかもしれない。


こんな場所に長居は無用だ。俺は覚悟を決め、少女を慎重に背負い上げると、急いでその場を後にした。


街に戻り、宿屋の一室に彼女を寝かせる。


改めて間近で見る少女は、人形のように整った顔立ちをしていた。安らかに眠っているように見えるが、その眉間には苦悶の跡が微かに刻まれている。


俺は、彼女の正体を探るべく、《解析瞳》を発動させた。


【アステラ】

種族: 星の民(末裔)

状態: 記憶混濁(物理的、及び精神的ショックによる)。魔力循環に異常な亢進が見られる。極度の魔力過敏状態。

特異体質: 『星のささやき』。宇宙に遍在する高密度魔力場との常時接続。これにより、規格外の魔力感知能力と身体能力を発揮する。

潜在能力: 光魔法(ランクEX(きかくがい))。身体強化魔法(ランクEX(きかくがい))。


「(なんだこの、歩く戦略兵器みたいなスペックは……)」


EXランクなんて、前世でやりこんだゲームなら間違いなくバランスブレイカーとして扱われるぶっ壊れ性能だ。しかも「星のささやき」? よくわからないが、とんでもない才能の持ち主であることは間違いない。


「……ん」


その時、ベッドの上の少女が小さく身じろぎし、ゆっくりと瞼を開いた。


星空の煌めきをそのまま閉じ込めたような、美しい赤い瞳が、不安げに俺を捉える。


「……ここは?」

「俺が借りてる宿の部屋だ。森で君が倒れてたから、運んできた」

「……あなたが、助けてくれたの?」

「まあ、そんなとこだな。気分はどうだ?」


俺がそう言うと、彼女――アステラは、警戒心が解けたように、ふわりと花が綻ぶように微笑んだ。


「ありがとう。……えっと、あなたは?」

「俺はユウト。君は?」

「私……? 私は……」


アステラは眉をひそめ、記憶の糸をたぐり寄せるように首を傾げた。だが、その瞳はすぐに悲しげに揺らぐ。


やはり、記憶が混乱しているらしい。


「思い出せないなら、無理しなくていい。ゆっくり休めば、そのうち思い出すだろ」

「うん……。ユウト……」


アステラは安心したように、俺の名前を小さく、確かめるように呟いた。


そして、まるで暗闇の中で唯一の光を見つけたかのように、俺の服の袖をぎゅっと、小さな手で握りしめてきた。


「(これは……とんでもないのに懐かれたかもしれない)」


俺の平穏なニート生活計画に、早くも暗雲が、いや、超大型の台風が接近してきたのを感じずにはいられなかった。


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