第28話:英雄たちの休日と、次なる戦いへの誓い
ゴーストシップでの激闘から数日後。
俺たちは、船体の修理と、消耗した物資を補給するため、賑やかな中継惑星『オアシス』に立ち寄っていた。
この星は、様々な星系を結ぶ交通の要衝であり、多種多様な種族が行き交う、活気に満ちた場所だ。巨大なドームに覆われた都市には、最新の魔導技術で作られた高層ビルと、古き良き時代の面影を残す市場が、不思議な調和を保って共存している。
「よし、それじゃあ、二手に分かれるぞ」
俺は、久しぶりの地上に、どこか浮足立っている仲間たちに向かって、言った。
「リーベとオリビアは、船のパーツを探しに、ジャンク街へ。俺とアステラ、カリスタは、食料や薬品の買い出しだ。夕方になったら、街で一番美味いと評判の、あのレストランで落ち合おう」
「「「了解!」」」
リーベとオリビアは、早速、目を輝かせながら、お目当てのパーツが眠っていそうな、マニアックな地区へと消えていった。
俺は残された二人を連れて巨大な中央市場へと向かう。
「うわあ! すごい人! ねえユウト、あれは何のお店?」
アステラは、初めて見るものばかりで、興味津々といった様子だ。
一方、カリスタは。
「な、なんですの、この人混みは……! 埃っぽくて、騒がしくて、下品ですわ……!」
彼女は、眉をひそめ、扇で鼻と口を覆っている。王家の姫君として、無菌培養されてきた彼女にとって、この庶民の活気と熱気は、未知との遭遇、そのものなのだろう。
だが、そんな彼女も、色とりどりの果物や、不思議な生き物の干物を売る露店、そして、大道芸人の見せる魔法の曲芸に、次第に、その瞳を奪われていく。
「……まあ、少しは、見応えがありますわね」
俺は、そんな彼女の、子供のような横顔を、微笑ましく思いながら、見ていた。
ふと、一つの露店が、俺の目に留まった。
そこには、星の光を閉じ込めたかのような、小さな青い宝石がはめ込まれた銀細工の髪飾りが、並べられていた。
「……カリスタ」
「な、なんですの?」
「ちょっと、じっとしてろ」
俺は、その髪飾りを手に取ると、カリスタの、美しい金色の髪に、そっと、それを挿してやった。
「なっ……! あ、あなた、いきなり、何を……!」
カリスタの顔が、茹でダコのように、真っ赤に染まる。
「フン、お前には、これくらい、質素な方が、似合ってるんじゃないか?」
俺が、わざと、ぶっきらぼうに言うと、彼女は、わなわなと唇を震わせた。
「し、質素ですって!? この、ロゼッタの薔薇と謳われたわたくしに、なんてことを……!」
彼女は、そう言いながらも、その手は、恐る恐る、自分の髪に挿された、小さな髪飾りに、触れていた。
「……べ、別に、嬉しくなんて、ありませんからね! ですが、あなたが、どうしてもと言うのなら、仕方なく、着けていて差し上げますわ! 感謝、なさい!」
そのツンデレ全開の言葉に、俺とアステラは、顔を見合わせ、思わず、吹き出してしまった。
その夜。
街で一番と評判のレストランに、俺たち五人は、集まっていた。
テーブルには、この星の名物料理が、所狭しと並べられている。
オリビアとリーベは、お目当ての、超高性能な魔導パーツを手に入れたと、上機嫌だった。
アステラは、市場で買った、不思議な味のするフルーツを、幸せそうに頬張っている。
そして、カリスタは。
彼女は、何も言わなかったが、その金色の髪には、俺がプレゼントした、小さな青い髪飾りが、星のように、きらりと、輝いていた。
俺たちは、グラスを、高々と掲げる。
「俺たちの、新しい船出に!」
俺が言うと、四人が、最高の笑顔で、唱和した。
「「「「乾杯!」」」」
カチン、と軽やかな音が響き、グラスの中の泡が弾ける。レストランの喧騒、美味い料理の匂い、そして、目の前で笑う仲間たちの顔。この何気ない全てが、今は何よりも尊いものに感じられた。俺たちの和やかな会話が、オアシスの夜空に、どこまでも、明るく、響き渡っていった。




