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第27話:鋼鉄の棺からの脱出

ゼノンが宇宙の闇へと消え、自動修復魔法によってブリッジの割れたガラスが再生された、その直後だった。


船全体が不気味な赤い光に包まれ、これまで聞いたことのない、断末魔(だんまつま)のような甲高い警報音が鳴り響いた。


「(ユウト先生! 危険です! ゼノンの置き土産です! 船の魔導炉が、意図的に暴走させられています!)」


リーベからの思念通信が、俺の脳内に直接響き渡る。


「(船が爆発するまで、あまり時間がありません!)」


「ちっ、最後の最後まで、面倒な奴だ!」


俺は悪態をつきながら、即座に指示を出す。これは、失敗が許されない、タイムリミット付きの緊急撤退プロジェクトだ。


「リーベ、一番近いカーゴベイのハッチまで船を回せ! 爆発に巻き込まれるなよ!」

「オリビア、アステラ、カリスタ、行くぞ! ここから一番近いハッチまで、全力疾走だ! 道中の海賊兵と警備ゴーレムは、なぎ倒していく!」


俺の号令に、三人が力強く頷く。


俺たちは、ブリッジから飛び出し、シューティングスター号が待つ、船の反対側へと、決死の脱出を開始した。


船全体が悲鳴のような軋みを上げ、壁の亀裂からは赤い蒸気が噴き出している。時折、船のどこかで起きる小規模な爆発が、足元を激しく揺さぶった。通路は、ゼノンが見捨てた海賊兵や、再起動した警備ゴーレムで溢れかえっていた。だが、もはや、俺たちの敵ではなかった。


「どきな、鉄屑ども!」


オリビアが先陣を切り、その獣のような膂力(りょりょく)で、ゴーレムの分厚い装甲を、紙のように打ち抜いていく。


「みんな、道を開けるよ!」


アステラが、広範囲に光の波動を放ち、海賊兵たちをまとめて吹き飛ばす。


「わたくしの前に立つなど、不敬ですわ!」


そして、カリスタ。


彼女は、先ほどゼノンに負わされた肩の傷を押さえながらも、その瞳には、一切の迷いもなかった。聖炎を纏った彼女の剣は、まるで流星のように閃き、的確に、敵の急所だけを貫いていく。


それは、もはや寄せ集めのパーティではなかった。


俺という指揮官の脳と、四人の少女たちの強靭な肉体が、完璧に一つになった、究極の戦闘集団。


俺たちは、爆発と崩壊が始まった船内を、一つの意志を持った、巨大な生命体のように、駆け抜けていく。


「見えた! あのハッチだ!」


オリビアが叫ぶ。


その先には、宇宙空間へと続く、巨大なカーゴベイのハッチと、その向こう側で、健気に待機している、シューティングスター号の姿が見えた。


俺たちは、最後の力を振り絞り、ハッチへと飛び込む。


俺が最後尾で飛び乗ったのを確認し、リーベが、即座にシューティングスター号のエンジンを全開にした。


その直後。


俺たちの背後で、偽りの船は、音もなく、巨大な光の華となって、宇宙空間に咲き誇った。


凄まじい衝撃波が、シューティングスター号を襲うが、オリビアの神業的な操縦が、それを完全にいなしていく。


ブリッジに、安堵のため息と、荒い呼吸だけが響き渡る。


誰もが、疲労困憊だった。


だが、その表情は、達成感に満ちていた。


やがて、カリスタが、おずおずと、俺の前に進み出た。


彼女は、負傷した肩を押さえながら、これまで見せたことのない、素直な瞳で、俺を見つめていた。


「……助けてくれて、ありがとう、ございました」


そして、彼女は、アステラたちにも向き直り、深々と、その気高い頭を下げた。


「皆さんの足を、引っ張ってしまいましたわ。ですが……次は、必ず……! わたくしも、この船の、本当の仲間として、戦ってみせますわ!」


その姿に、もう、見栄やプライドはなかった。


オリビアが、ニヤリと笑い、彼女の背中を、バンと、力強く叩く。


「へっ、当たり前だろ! 次は、もっとマシな援護、期待してるぜ!」

「オリビア! カリスタは怪我してるんだから!」

「ふふっ、頼りにしていますよ、カリスタさん」


『深淵』の脅威を、その目的の一端を、肌で感じた俺たち。


この旅は、もはやただの宝探しではない。


宇宙の未来を懸けた、俺たちの戦いなのだ。


決意を新たにした俺たちは、全ての始まりの地、『遺失された鋼鉄の聖域』へと、再び、その針路を取るのだった。


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