表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/60

第26話:狡猾なるゼノンと指揮官の覚悟

「わたくしは、ゼノン。以後、お見知りおきを。……と言っても、貴方がたが、わたくしの名を覚えている時間は、そう長くは、残されていませんがね」


『深淵』の幹部、ゼノン。


その優雅な物腰とは裏腹に、彼が放つ魔力圧は、これまでの敵とは比較にならないほど、冷たく、そして強大だった。


ユウトとカリスタは、完全に、袋のネズミだった。


「古代兵器『星喰らい』……。あなたたちの目的は、それですのね」


カリスタが、剣を構えながら、ゼノンを睨みつける。


ゼノンは、心底楽しそうに、肩をすくめた。


「おやおや、もうそこまで調べ上げましたか。感心、感心。そうですよ。我々は、この歪んだ宇宙を、一度、更地に戻すのです。そして、我々『深淵』に選ばれた、優れた種だけが生き残る、真に調和の取れた、美しい世界を、創造するのですよ」


その狂気に満ちた演説の間も、俺の思考は、止まっていなかった。


ハッキングは、まだ終わっていない。あと少し。あと少しで、この船のシステムを、完全に掌握できる。


「カリスタ」


俺は、キーボードを叩きながら、背後の彼女に、静かに、しかし、有無を言わさぬ口調で、告げた。


「時間を稼げ。俺が、この船のシステムを、完全に掌握するまで、誰も、俺に近づけるな」


それは、非戦闘員の自分を守らせるという、指揮官として、あるまじき命令。


だが、今のこの状況で、勝利を掴むための、唯一にして、最善の策だった。


カリスタは、一瞬息を呑んだ。だが、彼女は、その指示の意図――自分を信じ、全てを託すという、ユウトの覚悟を、瞬時に理解した。


「……フン、仕方ありませんわね。あなたに死なれては、寝覚めが悪いですから!」


カリスタは剣を水平に構え、その刀身に黄金の炎を纏わせる。ブリッジの冷たい空気が、彼女の放つ聖なる熱気で揺らめいた。


海賊兵たちが、雄叫びを上げて一斉に襲いかかってくる。前衛の二人が構えるのは、魔導障壁。その後ろから、三人が火炎魔法を連射してきた。


「小賢しいですわ!」


カリスタは、迫り来る火炎弾を、最小限の動きでいなし、弾き、そして切り裂く。炎を纏った彼女の剣は、まるで優雅なダンスを踊るように、死の軌跡を描いていく。一瞬の隙を突いて前衛の一人の懐に飛び込むと、盾ごと胴体を真一文字に焼き切った。


だが、敵は一人ではない。一人が倒れれば、即座に後方の兵がその穴を埋める。その連携は、ただの烏合(うごう)(しゅう)ではないことを示していた。


そして何より厄介なのは、後方で優雅に佇むゼノンだった。


「おっと、そこはがら空きですよ、お姫様」


カリスタが二人目の盾兵を崩そうとした、まさにその瞬間。ゼノンの指先から放たれた、針のように鋭い風魔法の刃が、彼女の右肩を正確に狙って飛来した。


「くっ……!」


攻撃を中断し、咄嗟に剣で弾くカリスタ。だが、その一瞬で、海賊兵たちは体勢を立て直し、再び彼女を包囲する。


ゼノンは、直接戦闘には加わらない。だが、彼の魔法弾は、常にカリスタの攻撃の起点、動きの繋ぎ目、呼吸の合間といった、最も効果的なタイミングで、最も嫌らしい場所へと撃ち込まれる。それは、彼女の華麗な剣技(けんぎ)の流れを、的確に、そして無慈悲に断ち切っていく。


じりじりと、しかし確実に、カリスタは追い詰められていく。肩で息をし、額には玉のような汗が浮かぶ。聖炎の輝きも、徐々に勢いを失い始めていた。


「(このままでは……! ユウトは、まだですの!?)」


焦りが、彼女の剣筋を、わずかに鈍らせる。その一瞬の隙を、ゼノンが見逃すはずがなかった。


彼の唇が、愉悦の笑みに歪む。


その時、俺のハッキングが、完了した。


「――終わりだ」


俺がそう呟くと同時に、ブリッジ内の人工重力発生術式じんこうじゅうりょくはっせいじゅつしきが、停止した。


ふわり、と、全てのものが、宙に浮き上がる。


突然の無重力状態に、訓練されていない海賊兵たちは、完全にバランスを崩し、混乱に陥った。


その直後、ブリッジの天井にあるメンテナンスハッチが、内側から、凄まじい力で、吹き飛ばされた。


「お待たせ、ボス!」

「ユウトー!」


現れたのは、ゴーレムを倒し、無重力のダクト内を突き進んできた、アステラとオリビアだった。


形成が、完全に、逆転した。


「……やれやれ。どうやら、今日のところは、幕引きのようですね」


ゼノンは、舌打ちすると、少しも慌てることなく、自らの、機械仕掛けの魔導義腕(まどうぎわん)を、ブリッジの強化ガラスに、叩きつけた。


バリン! という轟音と共に、ガラスが粉々に砕け散り、船内に、真空の嵐が吹き荒れる。


「うわっ!」


俺たちは、咄嗟に、床のコンソールや、手すりに、必死にしがみつく。


だが、体の大半が魔導具で構成されているゼノンは、真空の中でも、平然と立っていた。


「今日は、ご挨拶まで。この船は、くれてあげますよ。せいぜい、この鋼鉄の棺桶で、宇宙の藻屑(もくず)となるがいい」


彼は、そう言い残すと、宇宙空間へ身を躍らせ、待機させていた小型艇に乗り込み、悠々と去っていく。


直後、砕け散ったガラスは、船の自動修復魔法によって、光の粒子が集まり、再生を始めた。


俺たちは、一瞬、安堵した。


だが、ゼノンの、最後の言葉が、俺たちの脳裏に、不吉な影を落としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ