第24話:暴かれる密輸計画と招かれざる客
口論を続けながらも、俺たちは、ブリッジへと続く最後の通路を、進んでいた。
やがて、俺たちの目の前に、ひときわ大きな扉が現れる。そこには、「BRIDGE」という、俺にも読める文字が、刻まれていた。
扉を開けると、そこは、船の中枢にふさわしい、広大な空間だった。
正面には、巨大な魔導水晶盤が、漆黒の宇宙を映し出し、その周りを、無数のコンソールが、扇状に取り囲んでいる。船内は静まり返っているが、計器類だけは、今も淡い光を放ち、生きているかのように明滅を繰り返していた。
「……ここが、ブリッジですのね」
カリスタが、ゴクリと喉を鳴らす。
俺は、口論の続きも忘れ、すぐさま、メインコンピュータのコンソールへと向かった。
「さて、と。この船の秘密を、丸裸にしてやろうじゃないか」
俺は、コンソールの前に立つと、ハッキングを開始した。
いつ敵が来るとも知れないこの状況で、俺の心は不思議なほど静かだった。社畜時代、常に締め切りに追われていたせいか、極限状況の方がむしろ集中できる。
この世界のコンピュータは、魔導回路と魔石を用いた記憶媒体を組み合わせた、ハイブリッドなシステムだ。だが、その根本的なロジックは、俺がいた世界のコンピュータと、何ら変わりはない。
俺の指が、目にも留まらぬ速さで、コンソールのキーボードを叩いていく。
《解析瞳》が、複雑な護封魔法や、魔法的な防壁の構造を、瞬時に見抜き、その脆弱性を、俺に教えてくれる。
「信じられませんわ……。わたくしの王家の船に施されている、最高位の防護魔法障壁ですら、これほどの複雑さはありませんでしたのに……。あなた、一体何をしているのです? その指の動き……まるで、魔法とは全く違う理屈で、この鉄の塊をねじ伏せているようですわ……」
カリスタが、俺の背後で、信じられないといったように、呟いている。
やがて、最後の護封魔法を突破し、俺は、この船の、全ての航行記録へのアクセス権を、手に入れた。
「ビンゴだ」
俺は、魔導水晶盤に、次々と情報を表示させていく。
航行記録、通信ログ、そして、積荷の目録。
そこに記されていたのは、俺たちの予想を、遥かに超える、恐るべき計画だった。
「……なんだ、これは……」
この船は、やはり、『深淵』に所属する、偽装コンテナ船だった。
そして、これから、この宙域で、ある「積荷」を、受け取る予定になっていた。
その積荷の名は――『星喰らい』。
かつて、古代の戦争で使われ、たった一撃で、一つの惑星を、その生命ごと、完全に消滅させたとされる、禁断の古代魔導兵器。その、パーツの一つ。
『深淵』の目的は、ただの略奪ではなかった。
宇宙の各地に眠る、古代兵器のパーツを収集し、それを、復活させようとしているのだ。
俺が、その事実に戦慄した、その時だった。
ブリッジの入り口から、芝居がかった、しかし、底冷えのするような、優雅な声が、響き渡った。
「おやおや、迷子のネズミさんたちかな? 人様のお宅で、随分と、楽しそうだねぇ?」
俺とカリスタは、はっとしたように、振り返る。
そこに立っていたのは、貴族のような優雅な出で立ちの、しかし、その瞳の奥に、蛇のような冷たい光を宿した、一人の男だった。彼がそこにいるだけで、ブリッジの空気が鉛のように重くなったのを感じた。海賊兵たちの殺気とは違う、もっと知的で、底の知れない悪意が、俺たちの肌をぴりぴりと刺す。彼の背後には、武装した海賊兵が、十数人、ずらりと並んでいる。
「わたくしは、ゼノン。以後、お見知りおきを。……と言っても、貴方がたが、わたくしの名を覚えている時間は、そう長くは、残されていませんがね」
『深淵』の幹部、ゼノン。
彼は、まるで、舞台役者のように、優雅に、一礼した。
その顔には、獲物を追い詰めた捕食者の、絶対的な自信に満ちた笑みが、浮かんでいた。




