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第23話:指揮官の機転と姫君の焦燥

「(ブリッジを目指す……言うのは簡単ですけれど、一体どこにあるというのですの……!)」


俺と二人きりで、薄暗く冷たい通路に取り残されたカリスタは、内心で悪態をついた。


先ほどまでの絶体絶命の状況で、ユウトが見せた冷静沈着な指揮能力。それは、彼女のプライドを酷く傷つけると同時に、心のどこかで、今まで感じたことのない種類の安堵感を覚えさせていた。だが、それを認めることなど、ロゼッタ王家の姫として、断じてできるはずがなかった。


俺たちは、無言のまま、迷路のような通路を進んでいく。


やがて、俺たちの目の前に、分厚い隔壁扉が、行く手を阻むように立ちはだかった。扉には、複雑な魔導回路が刻まれた、厳重なロックが施されている。


「行き止まりですわね。どうするのです?」

「待て。少し調べる」


俺は、扉に近づき、《解析瞳》でその構造をスキャンし始めた。


だが、カリスタは、そんな俺の悠長な行動に、苛立ちを募らせていた。アステラやオリビアと分断され、いつ敵に襲われるとも知れない状況。一刻も早く、この不気味な船から脱出したい。そして何より、この男の前で、これ以上、無力な自分を晒したくはなかった。


「(わたくしだって、やれるということを見せてやらなければ……!)」


焦りと、功名心(こうみょうしん)。それが、彼女の判断を狂わせる。


「まどろっこしいですわ! こんなもの、わたくしの聖炎で!」

「待て、カリスタ! 早まるな!」


俺の制止の声も聞かず、彼女は剣を抜き、その切っ先を扉のロックへと向けた。


だが、彼女が聖炎を放とうとした、その瞬間だった。


ギイイイイイイイイッ!


船全体に、耳をつんざくような甲高い警報音が鳴り響いた。


同時に、俺たちの周囲の壁や天井が、音を立てて開き、その暗がりの中から、無数の赤いモノアイが、一斉にこちらを向いた。


「なっ……!?」


格納されていた、何十体もの警備ゴーレムが、一斉に起動したのだ。


「しまった……! あの扉、物理的な衝撃を感知すると、警備システムが作動するトラップだったのか!」

「ひっ……!」


カリスタが、息を呑む。


狭い通路を埋め尽くさんばかりのゴーレムが、金属の軋む音を立てながら、一斉にこちらへと迫ってくる。ガン、ガン、ガン、と、無慈悲な足音が壁に反響し、まるで一つの巨大な鉄の塊が迫ってくるかのようだ。赤いモノアイの光が、すぐ背後まで迫っている。


「おい、どうするのですか、ユウト!」

「どうするもこうするも、逃げるんだよ!」


俺は、カリスタの腕を掴み、今来た道を引き返すように、全力で走り出した。


背後からは、無数のゴーレムが、地響きを立てながら追いかけてくる。


「こ、この……! わたくしの聖炎で、あんな鉄屑ども……!」

「馬鹿野郎! こんな狭い場所で大規模魔法を使ってみろ! 俺たちごと、蒸発するぞ!」


俺の怒声に、カリスタはぐっと言葉を詰まらせる。


絶体絶命。このままでは、袋小路に追い詰められ、嬲り殺しにされるだけだ。


だが、俺は、ただ逃げているだけではなかった。


走りながらも、俺の《解析瞳》は、通路の壁にある、別の扉の電子ロックの構造を、高速でスキャンしていた。


「(……見えた! あの扉のロック、魔導回路の構造が旧式だ! パワー供給ラインの、あの一点さえ破壊すれば……!)」


「カリスタ! あの扉だ!」


俺は、前方に見える、一つの扉を指さす。


「あの扉の、ロックパネルの、右上隅! そこに、お前の聖炎を、針のように絞って、撃ち込め! いいな、絶対に、それ以外の場所には当てるなよ!」

「……! わ、わかりましたわ!」


カリスタは、一瞬ためらったが、俺の真剣な瞳を見て、覚悟を決めた。


俺たちは、扉の前で急停止し、振り返る。


すぐそこまで、ゴーレムの軍勢が迫っていた。


「今ですわ!」


カリスタの剣先から放たれた、一条の聖なる炎が、寸分の狂いもなく、ロックパネルの右上隅を貫いた。


バチッ、という音と共に、扉のロックが解除される。


俺は、全体重をかけて扉を押し開き、カリスタと共に、部屋の中へと転がり込んだ。


そして、すぐさま扉を閉め、内側からロックをかける。


直後、扉の向こう側から、ゴーレムたちがぶつかる、凄まじい衝撃音が、何度も、何度も、響き渡った。


「はあ……はあ……。な、なんとかなった、みたいですわね……」


カリスタが、床に座り込み、安堵のため息をつく。


俺は、そんな彼女を、じろりと睨みつけた。


「……で? これは、一体、誰のせいだったかな、お嬢様?」

「なっ……! わ、わたくしのせいでは、ありませんわ! あなたの指示が、的確でなかったのが悪いのです!」

「どの口が言うか!」


一息ついた途端、俺たちは、互いの責任をなすりつけ合う、子供のような口論を始めた。


だが、そのやり取りは、先ほどまでの絶望的な状況を忘れさせてくれる、どこか心地よい響きを持っていた。


俺たちは、まだ気づいていなかった。この共同作業と、くだらない口喧嘩が、二人の間の氷を、少しずつ、溶かし始めているということに。


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