第21話:波乱の船出と鋼鉄のゴーストシップ
カリスタという、一筋縄ではいかない新たな仲間(という名の、極めて扱いの難しい爆弾)を乗せ、シューティングスター号は再び星の海へと乗り出した。聖域へと向かうワープ航行中の船内は、しかし、穏やかな空気とは程遠い、奇妙な緊張感に包まれていた。
「ちょっと、操舵士! この揺れはなんですの!? わたくし、船酔いしてしまいますわ!」
「あぁ!? 文句があんなら歩いて行きな、お嬢様! こっちは最短ルートをぶっ飛ばしてやってんだ!」
「なんですって! あなた、王族であるこの私に……!」
ブリッジでは、カリスタとオリビアが一触即発の睨み合いを繰り広げている。カリスタにしてみれば、この質素で揺れの激しい「鉄屑」での旅は、何もかもが我慢の限界を超えているらしかった。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。ね?」
「ユウト先生、紅茶はいかがですか? 少し気分が落ち着くかと」
アステラがオロオロと仲裁に入り、リーベがやれやれといった表情で俺に紅茶を差し出す。俺は、こめかみを押さえながら、深くため息をついた。
「(……チームマネジメント、最優先課題だな)」
このままでは、聖域にたどり着く前に、船内で戦争が勃発しかねない。俺は、社畜時代に培ったスキルを総動員し、彼女たちにそれぞれの役割とタスクを明確に割り振ることで、なんとか表面的な秩序を取り戻した。
そんな波乱の船出から数日が経過した頃。
聖域までの長い航路の途中、俺たちは休息と物資の補給のため、とある無人の資源惑星が浮かぶ宙域で、ワープアウトした。ここは、主要航路から外れた、ただ静かなだけの場所のはずだった。
「ユウト、ちょっといいですか?」
ブリッジで航路の再計算をしていた俺に、リーベが緊張した面持ちで声をかけてきた。
「どうした?」
「……奇妙な信号を、キャッチしました。通常の救難信号ではありません。極めて高度な暗号化が施された、指向性の通信です。どの記録媒体にも、登録されていません」
メインの魔導水晶盤に、リーベが捉えた信号の波形が表示される。それは、不規則で、しかし、明らかに人工的なパターンを描いていた。
「発信源は?」
「あの小惑星帯の、向こう側です。ですが……ユウト先生、これは、罠かもしれません」
リーベの懸念はもっともだ。こんな場所で、正体不明の信号を発するなど、怪しい以外の何物でもない。
だが、俺の《解析瞳》は、その信号の奥に、無視できない可能性を見出していた。
この複雑な暗号化パターンは、古代文明の技術体系に酷似している。そして、それは、俺たちが追う『深淵』が使用する暗号キーとも、僅かに類似していた。この信号は、俺たちをおびき寄せる餌であると同時に、彼らが仲間へ送る狼煙である可能性が高い。
「(危険か、あるいは、宝の山か……)」
俺の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
平穏なニート生活は、もはや銀河の彼方だ。ならば、このスリルを楽しまない手はない。
「よし、行ってみよう。危険なら、すぐに引き返せばいい」
俺の決断に、オリビアが獰猛な笑みを浮かべ、カリスタは「あなた、命知らずですのね」と呆れ顔を見せた。
シューティングスター号は、ゆっくりと信号の発信源へと、その機首を向けた。
小惑星帯を抜けた先、俺たちの目に飛び込んできたのは、その巨体だった。
全長数千メートルはあろうかという、巨大なコンテナ船。だが、その姿は異様だった。船体のあちこちが損傷し、魔導炉の稼働反応も感じられない。通信を呼びかけても、返ってくるのは虚しいノイズだけ。生命維持反応もゼロ。これほどの巨体が、完全な沈黙を保っている。その静けさが、逆に俺たちの肌に粟を立たせた。まるで、巨大なクジラの骸が、宇宙を漂っているかのようだ。
「幽霊船……」
オリビアが、ゴクリと喉を鳴らす。
俺は、この鋼鉄の幽霊船が、俺たちを新たな冒険へと誘う、危険な招待状であることを、確信していた。
「リーベは船に残れ。万が一の時は、お前が俺たちの命綱だ。いつでも動けるようにしておけ」
「はい、ユウト先生!」
「よし、他の三人は、俺と一緒に行くぞ。何が潜んでいるか、わからんからな。気を引き締めていけよ」
俺たちは、覚悟を決め、鋼鉄のゴーストシップへと、静かに潜入を開始した。




