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第12話:プライドを粉砕され、涙目の金髪お嬢様(切り札も不発)

時が、止まったかのように感じられた。


アステラの蹴り足が起こした風圧で、カリスタの完璧にセットされた金色の縦ロールが、ふわりと無様に揺れる。


水を打ったような静寂が演習場を支配し、やがて審判のどこか呆然とした声が、ドーム内に響き渡った。


「しょ、勝者! ユウトパーティ!」


その言葉を合図に、アステラは静かに脚を下ろし、俺のもとへ駆け寄ってくる。


一方、カリスタは、何が起こったのか理解できないというように、ただその場に立ち尽くしていた。その宝石のような碧い瞳は大きく見開かれ、焦点が合っていない。やがて、その完璧な顔が悔しさに歪み、縁にじわりと涙が浮かんだ。


「ありえ、ない……。この私が……こんな、どこの馬の骨とも知れない田舎者に……」


完膚なきまでに敗北した。


ロゼッタ王家の血筋も、エリートとしての輝かしい経歴も、揺るぎない自信も、その全てが、今この瞬間、音を立てて粉々に打ち砕かれたのだ。


俺はゆっくりと彼女に歩み寄り、慈悲も同情も含まない、純粋な事実だけを静かに告げた。


「君の戦術は、教科書通りで読みやすかったよ。お疲れ様」


その言葉は、打ちひしがれた彼女の心に、追い打ちをかけるには十分だった。カリスタはわなわなと唇を震わせ、何かを叫ぼうとしたが、結局言葉にならず、ただ悔しそうに俯くだけだった。その肩は、小さく震えている。


俺たちは、そんな彼女を尻目に、意気揚々と演習場を後にした。


その夜。


俺たちは祝勝会と称して、再びルクスのレストランに集まっていた。テーブルには、この星系で獲れたという珍しい魚介の料理や、泡の立つ酒が並んでいる。


「それにしても、痛快だったな! あの金髪お嬢様、最後は泣いてたぜ!」

「ええ、あの方、プライドだけは人一倍高そうでしたものね。いい薬になったんじゃないかしら」

「ユウトの指示、すごかった! 本当に全部お見通しなんだもん! かっこよかったよ!」


オリビア、リーベ、アステラが、興奮気味に今日の戦いを振り返る。仲間が褒めてくれるのは、悪い気はしない。


そんな中、俺は次の行動計画を口にした。


「さて、明日にはルクスを発つ。噂の『深淵』とやらを調べるために、サターン星系に向かうぞ」


俺の言葉に、祝杯をあげようとしていたオリビアが待ったをかけた。


「待ちな。サターン星系は、銀河でも有数の危険宙域だ。まともな航路図もなけりゃ、小惑星が密集していて操縦も難しい。おまけに、最近じゃ『深淵』の連中のせいで、海賊の巣窟になってる。いきなり突っ込むのは無謀だよ」

「じゃあ、どうする?」

「まずは、この宙域の首都惑星『ハライソ』へ向かうのが定石だ。あそこなら、最新の星図も手に入るし、物資の補給もできる。それに、金さえ払えばどんな情報でも手に入れてくれる、腕利きの情報屋もいるはずさ。急がば回れってやつだよ」


なるほど、経験者の意見はもっともだ。俺の《解析瞳》は万能だが、未知の領域では情報がなければただの宝の持ち腐れだ。


「わかった。じゃあ、明日の朝一でハライソに向けて出発する。異論はないな?」


全員が頷くのを確認し、俺たちの次なる目的地は決まった。


翌朝、シューティングスター号のコクピット。


俺は、オリビアが座る操縦席の隣――本来ならナビゲーターや副操縦士が座る席に、当たり前のように腰を下ろした。


「……なんだい。アンタ、そこが定位置のつもりかい?」


オリビアが、俺の顔を覗き込み、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて言う。


「ああ。お前の神業操縦を、特等席で拝ませてもらうさ。ナビは俺がやる。俺の指示に、お前がついて来れるならな」

「へっ、面白いこと言うじゃないか。せいぜい振り落とされないようにしな、ボス」


軽口を叩き合いながら、俺たちは新たな目的地へと旅立つ。


プライドを粉砕された金髪お嬢様の涙を思い出しながら、俺は宇宙の広さに思いを馳せるのだった。この銀河には、まだまだ俺の知らない強敵や、面倒くさいお嬢様が山ほどいるのだろう。そして、それはつまり、俺の退屈しない日々が、まだまだ続くということだ。


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