かつて、彼方の妖精使い 〜なんかよくわからないうちに妖精が見える目をもらったので、とりあえずダンジョンで無自覚無双したいと思います〜
三話分を一気に短編にしたので、休み休み読んでくれると幸いです。
いっぱいポイントがあれば、連載化するかも
この世界は残酷だ、そうは思わないだろうか。
少なくとも、僕は思う。
誰もが、自分の利益を必要とし、他人と比べあい、競い合い、強いものと弱いものを分類する。
運命は無く、お金の損得のみ、容姿に年齢に、あまりに利己的な物差しで、この世界は成り立っている。
僕、聖沢陽太も、他人に左右されてばかりの人生だった。
容姿が優れているわけでもない、勉強ができるわけでもない、運動に至っては皆無。
コミュニケーションはからきしで、友達なんてできたためしはない。
僕は、歳の割には幼い顔立ちをしているらしい。
年上の人には偶に言い寄られたりしたが、それが周りの気に食わなかったらしく、イジメの対象になった。
それから、小中高大と、まともな学生生活は送れず、やがて社会人に成った。
友達がいなかったため、勉強をする時間は会った……どうにか、中堅クラスの大学に行ける程度の学力鹿付かなかったが。
それでも、周りを見返そうと、勉強を頑張ってはいた。
だからといって、一番を取れるわけでも、まして容量の悪い僕は結局、勉強が得意にはなれなかった。
そして、上京し、そこそこの大学に、何の目標もなく入学した。
これまで、語れることはかなり少ない。
普通の人なら、どんな人間と絡み、どんなことに力を入れ、どんな趣味を持ち、どんなことを目指したか、という事が存在する。
だが、僕の歩んできた人生など、精々400文字詰めの原稿用紙が辛うじて埋まるくらいだ。
趣味は愛犬の散歩────実家を出てからはしばらく会っていない。
力を入れたことは勉強────ただし、どれだけ打ち込んでも学年の首位にすら入れない。
人間関係────家族くらいしか心を許せる人間は居なかった。
年上から好かれる?確かに、何人か仲良くなった人は居たかもしれない。
だが、全員下心が透けて見えた。
僕の見た目しか見ていない、いくら人との関りに飢えているからと言って、自分の中身を見ていない人に自分の中身を晒せるものだろうか。
贅沢な悩みかもしれない、けれど心を許せる人間というのは損得や利害を無視して行動できるというのが、僕の絶対条件なのだ。
家族から離れて、本当の意味で一人になってしまった。
そして、僕が大学に入学した辺り。
既にネット上で話題になっていたダンジョンによって、世間は大混乱に陥っていた。
当初は、ラノベや漫画の中でしか存在しないものが、現実に現れたことが話題になり、無許可でダンジョンに入る人が多発したらしい。
僕自身、というか世代的にもダンジョンに一度は興味を持つというのが、一般的だった(ネット調べ)
当時は、肝試し感覚で友達とダンジョンに潜るなんてこともあったらしい。
友達の居ない僕は当然できない、というかそういうことするのって大体陽キャだし。
ただ、危険性がはっきりと日本政府から発表され、大々的に封鎖されてからは、ほぼ無人であった。
内部の調査が行われ、はっきりと空想、想像上の怪物、モンスターが跋扈していることが判明。
一般人の立ち入りは瞬く間に法令違反になったし、ダンジョンの保有者は国家になった。
────だが、そこで予期せぬ災害が起こった。
ダンジョン震、ダンジョンが発生することで起きる都市直下型大地震に、政府が対応に割かれている中、ダンジョンのモンスターたちが氾濫したのだ。
氾濫、文字通り倒されなかったモンスターが、ダンジョンの外に出始めたのだ。
ダンジョンの外にモンスターは出ない、無理矢理出すことはできても、自分から出ようとは絶対にしないという結論は正面から打ち砕かれた。
日本政府はその結果に対応するために、ダンジョンに入りモンスターを狩る冒険者を制定することに決める。
これも、当時は凄まじい冒険者ブームを引き起こし、当然当時の若年層のなりたい職業No.1は冒険者になった。
実際、冒険者を制定することは、各国が定めたUDN(|United Dungeon Nation《国際ダンジョン連盟》)の規定によって定められている。
UDNに加盟していない国などもあるが、一旦除外しよう。
そんなこんなあって、ダンジョンに憧れを持った世代に生まれた僕も、冒険者になりたいと思ったことはある。
だが、実際冒険者になるということはパーティーを組まなければならない。
さらに、冒険者には不正防止などの理由で、配信が義務付けられている…………まず、人前に出るだけで、過呼吸の木偶になってしまう僕には不可能だ。
それに大学で、周りに冒険者をやっている人も何人かいたが、全員陽キャであった。
つまり、冒険者にはコミュ力が必須!(※諸説あり)
そんなことが出来るわけがない。
一人で冒険者になっても、精々スライムに挑んで、服をとかされて社会的に死ぬとかだろう。
そして、そのまま良く分からないイメージビデオに出演させられ、ネットのさらし者になるのだろう。
だから、僕が大学を卒業し、就職したのがダンジョンの用品を扱う会社であることは、決して未練とかではない。
────未練ではない……たぶん。
■□
「────ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。陽太君はいつも頑張ってるから、つい助けたくなるの……あ、私いいお店知ってるんだけどこのあと一緒にお昼でも──」
「いえ、お気持ちはありがたいですが、遠慮させていただきます」
そう言って、僕は、営業先の会社のエントランスから足早に立ち去る。
時刻は、昼過ぎ……社会で働く企業戦士たちが、ひと時の休息と腹を満たすために飲食店に集う時間帯。
僕とて同じく、ご飯を探し求め取引先会社近くを彷徨っていた。
通り過ぎる、新卒であろう社会人の集団を横目で見る。
僕も、本来であれば同期とかと笑いながら昼飯をかきこんでいただろうか。
────いや、全然思い浮かばない。
むしろ、トイレでご飯を食べているのがよっぽど似合う。
否、実際会社でご飯を食べるときはほぼそうしている。
なぜか?当然、どこでご飯を食べていても同期やら上司からも……特に同性から嫌悪を向けられるからだ。
ついでに、会社の年上の人たちも寄ってくるので、彼女たちを狙っている方たちからさらに目の敵にされるとい悪循環が完成する。
小中高とこういう生活を送っていると、人の感情や仕草に敏感になる。
過剰といってもいい。
人込みで歩いていても、自分に向けられている感情は大体理解できる。
…………好奇、無関心、敵意、嫌悪、殺意すらある。
無論、僕に同情してくれる人もいる。
だが、そういう人は、僕に関わるとろくな目に合わないことも分かっているため、無視を貫いている。
それでも関わってくる人も、大体は僕が心を閉ざし、やがてこっちに関心を失う。
────まさしく、どうしようもない負のループだ。
「カレーもいいな。けど、匂いがなぁ。どうせなら、適当なカフェでも…………」
そう、周りに聞こえない程度の独り言で、人混みへの恐怖を誤魔化す。
どうして、こういう性格になったのだろう。
それは、当然自業自得なのだ。
もう少し、僕が誰かに積極的に話しかけにいくだけで違う人生を歩めたのではないか。
イジメもある、内向的な性格で、陰気な態度になってしまうのも仕方ない。
それでも、前に進む道もあったのではないか…………最近は、特にそう葛藤している。
────だが、これまでの経験が、拒絶され、輪から跳ね除けられ、排斥され続けた自身の全てが、その考えを否定する。
どうせ、無駄だ。
どうせ、どれだけ行動しても、結局は、理外や損得に絡めとられる。
期待できる段階はとうに超えている、すでに僕は────
「まぁ、一人でも…………」
諦めはついている。
『────可能性が君を見逃さない!未知の冒険が君を待っている!!』
そう呟くと、ビルの壁面のディスプレイが目に入る。
そこには、煌びやかな、まるでこの世界のものではないような、人たちが映っていた。
冒険者、それも上澄みであるA級冒険者たちであろう。
おそらく、ダンジョン省が配信の切り抜きを編集して作ったPVで、冒険者募集の広告なのだろう。
出てきている何人かは何度か見たことのある、ダンジョン省の広告塔の冒険者だ。
ダンジョン省は、UDNの定めた規定に則った政府直轄のダンジョンと冒険者の管理を行っている省庁だ。まあ、噂によるとUDNと日本政府の調停役や潤滑剤のような役目も担っているらしい。
恐ろしいモンスターを、剣で、銃で、斧で倒していく冒険者たち姿は圧巻だ。
そんな場面を見て、やはりそれは僕とはかけ離れた別の世界だと感じる。
「────やっぱり、無理だよ」
そう、軽率に憧れられるのは小学生まで。
一般的に知られているだけで、冒険者の年間死亡率は一割。
つまり、世界で二百万人いるとされる冒険者の、年間死亡者数は二万人ほど。
煌びやかな世界であり、上位になると月収が億を超える彼らだが、代償は大きい。
僕が居た大学でも冒険者になって、死んだ人もいる。
そんな命がけの役職に、何の取柄もない僕が成れるわけがないのだ。
でも、冒険者になれば、きっと友達も────
「────おーい、陽太くん~!!はぁ、はぁっ」
そこまで考えた時、僕は遠目に走ってくる人、取引先に勤めている宮下さんが目に入る。
どうやら、ここまで僕を追ってきたらしく、息を荒げていた。
宮下さんは胸部が豊満なため、滅茶苦茶揺れており、周りの男たち全員が凝視していた。
「え、何ですか?宮下さん、急に…………」
まさか、昼ご飯を断られたから、報復に来たとか?
そうでなくとも、すでに会社から離れているため、こちらを付けてきたとしか思えない。
「ぜひゅ……ごほ──はぁはぁ、も、無理……社会人に、させる運動じゃない…………よ……」
そう、駆け寄った僕に、そう膝を抑えてどうにか呼吸を整える宮下さん。
ただ、その手には封筒があり、見おぼえがあった。
「忘れ物を届けに来てくれたんですか?」
「…………え、ええそうよ……あの、陽太君……水ある?あ、あっちにカフェがあるから入らない?」
少しだけ疑ったことを後悔したが、やはり宮下さんも抜かりない。
というか、息も絶え絶えなのによくそんなにつらつら言葉がでますね。
だが、宮下さんも割と策士だ、この状況だと僕は断りにくい。
「あ、えと、じゃあ…………その、いいですよ────」
「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって(……計画通り)」
どこかで見たことのあるゲスい笑みを浮かべる宮下さん、いや普通にバレてますよ────
────瞬間、地面がせり上がる。
『────っ!?』
否、それは自分が地面に倒れているという方が適切だ。
突如として、世界が揺れた……立っていることすらできずに僕はへたり込んでしまう。
周りの人も皆同様に、恐ろしい揺れを感じたため行動不能になっていた。
一部の人は、瞬時に建物の外に出ていたが、最近の建築物はダンジョン震にも耐えれる超耐震構造が基準なので心配はないだろう。
かくいう僕も、東京に来てから何度もダンジョン震を体験しているため、そこまで恐怖心はない。
────が、ここで誤算が一つ起こってしまう。
────ガコォン、と地面から鳴り響く破砕音。
工事現場などで聞くような解体音が、地面から鳴り響きやがて、パキパキと亀裂が広がる音がした。
地震自体は轟音で、それを抑えて聞こえてくる破裂音に似た地鳴りが徐々に近づいてくる。
既に、嫌な予感が走っていた。
というよりも、亀裂は既に目に見えて広がっており────宮下さんのへたり込む地面を割いていた。
「────っ」
言葉は無い。
ダンジョン震は数秒の出来事、故に僕は判断をする時間も、迷っている時間すらない。
だが、それでも僕はきっと、ここで見捨てれば後悔するのだろう。
一瞬、だが僕にとっては数十秒、宮下さんにとっては永遠に近い時間をもって────裂け目が近づく。
地震の最中、立っていられるはずもない僕は、跳ねる大地を踏みしめて走り出す。
道路には裂け目が広がり、横目に見た裂け目の奥は真っ暗で、落ちれば死ぬだろう。
だが、宮下さんは逃げることは出来ない…………なら、かわりに僕が────
────歩みはフラフラ、だが確かな覚悟を持った進みは宮下さんへと到達する。
「────っ」
ドン、という体当たりの音、僕の力では突き飛ばすことはできない、どうにか体当たりで亀裂から逃がす。
亀裂が、僕に到達し、重力による浮遊感が体を襲う。
そして、上を見上げると宮下さんと視線が交差するが、言葉は無い。
ただの取引相手、それも一か月にも満たない関係。
────確かに、その透き通った鏡面の瞳には、安心した僕の顔が映っていた
そして、絶望した彼女の顔は、僕の瞳には映らなかった。
□■
『────おいおい、何安らかに眠ってやがる。起きろよ?まだお天道様は元気だってのにさ』
ここは、天国?地獄か?
いや、天使にしては随分と、口が悪そうだけど…………
『あんな鳥人間と一緒にするな。オレは……そうだな、地獄の門番かもな?』
「───そうなると、僕は……地獄行き?やっぱ、先週の信号無視が悪かったのかな」
言葉を出す、口を動かす。
確かに、神経から通う感覚が、今を現実と認識させてくれる。
『んなので地獄落ちって、随分とノーテンキだな……ともかく、無事か?少年』
「んんと、たぶん…………というか落ちた筈なんですけど?」
『ああ、偶然ダンジョンが生成される前にここにたどり着いたんだぜ、お前。んで、落下死する直前にこのオレが受け止めたってわけさ』
どうやら、背に伝わる硬い感触は、石造りの床らしい。
どうにか生き延びたらしい、何とまあ偶然があったものだ。
それに、話しかけてくる声は、なんだか脳内に直接語り掛けてくる気がした。
「え、超絶イケメンのオジサンですね」
そして、起き上がり声の主へと視線を向けると、そこには壮麗の美丈夫がいた。
その様相は異国のもの、大昔のファラオと言われても納得するほど、華美ではあるが過剰ではない控えめさとその内に秘めたる上品さを孕んだ衣装を身にまとっていた。
その輝きについ、口に出た麗句が零れてしまった。
『────そうかそうかありがと。んじゃ、早速一ついいか?』
「え、あ、はい。何ですか?」
そして、彼は軽く笑みを浮かべ、労うような表情で口を開く。
彼の在り方はまるで、自身の心にしみるようで、その言葉も聞いているだけで心地が良かった。
「起き抜けに悪いが、交渉させてくれ。お前の力が必要なんだ」
さらに、彼はこちらを試すように、さらに続けて言った。
────全身が透けて発光している壮麗の美丈夫は、口を開く。
「────オレの復活を手伝ってくれ。代わりにお前の願いを一つ叶えてやる」
悪魔のような邪悪な笑みを纏った美丈夫は、こちらを覗き込むように言う。
妖艶で、挑発的で、嗚呼…………まさしく、この世を統べる覇者のような雄大さ、偉大さを纏ったまさしく魔王の威容だ。
されど、それに挑む勇者は、その申し出を──────
「いいですよ。全然、何でもします!」
『ハ、まあそう疑うでない…………もう少し考えて──────え?』
────。
──────っ。
──────────っ?
「いいですよ。全然、復活……誰でもしたいですもんね」
『──────』
突如、彼の中に沸き上がった感情は、様々で言葉に列挙すれば、膨大であった。
だが、確かに目の前の少年は────無償で、無承知で、貴賤もなく────
『──────いや、ちょっとは反抗なり、疑問を呈するなりするでしょ!?オレ、王の貫禄丸つぶれなんじゃがッ!!?』
そして、無音の墓所に、こだまするほど色々なキャラとか矜持とかをかなぐり捨てた彼の、全てを統べる王の叫びが響いたのであった。
■□
「──────なんか、変な感じですね」
『オレが言いたいことなんだが?こういうのって、もっと疑うのがお決まりだろ?』
そう、目の前のスケスケなオジサンが言う。
と言っても、疑うも何も…………彼には害意がないのだ。
それで、色々疑わなかったのもあるが、このオジサンを一目見て思った。
「あ、その……何というか、初めて会った気がしないというか、安心する実家感があるというか」
『ああ?褒められてんのか、これ。悪い気はしねぇが』
「実家の愛犬のワカメに似てて…………」
『もはや犬じゃねぇか!?しかもメスぅ!?せめて、人間の男にしろよ!!』
何が不服か、目を剥いて、先ほどの貫禄が嘘のように、声を上げるオジサン。
「──────オジサン、ワカメは僕の家族ですよ?馬鹿にしたら駄目です。あとオスです」
『おおう、よくわからんが凄まじい殺気だな…………ワカメなのにオスなのか』
そう、某国民的アニメのワカメと違い、うちのワカメはオスだ。
そう、僕がわかめスープを食べているときに名付けたのだが…………ってそんなことはどうでもいい。
「と、ともかく…………やっぱり変です。僕、家族以外でこんなに話したこと無いし。ペッ〇ー君にも無視されたし」
『あ?んだよ、別にただの相性なんじゃねぇか?オレも、前世じゃ色々あったし。威厳とか立場とか抜きにここまで、対等に話したのは久しいな。うん、てかペッ〇ーにすらそれって相当だな』
オジサンは何かの社長だろうか、そうでなくともこんな普段なら目を合わせすらしない人に、ここまで話せるのは…………
「あの、それで願いのことなんですけど……あ、あの、そのぉ?えっと」
『…………唐突だな?急カーブにも程がある……って、人と話すのが苦手だっけ。ゆっくりでいいよ、別に』
そう、ついつい先走りがちになってしまう話を、オジサンは丁寧に宥めてくれる。
だが、それでも嬉しくなって頬が緩んでしまう。
ここまで、親身に人の話を聞いてくれる人は初めてかもしれない。
「その、と、友達が欲しくて…………」
『……友達?え?〝何でも〟の願いがそれなの?人間それでいいの?代償とか、そういうのは放置かよ。ま、いいけど…………いや、そうか。それがお前の願いか』
そう、ちょっとひいたかと思えば、困惑した表情となり、そして最後に神妙な顔になった。
「え、だ、駄目ですか……?やっぱり、シェン〇ンにも限界が…………」
『どんだけ、自分が友達作るのを無理難題と思ってんだよ……舐めんな、それぐらいオレなら余裕だぜ』
ちょっと不安であったが、どうやら可能であったみたいだ。
これから地球に来る宇宙人のことも知れるらしい。
「あ、ありがとうございますっ!」
『いや、お前、オレの復活にも協力しろよ?』
「…………ふっ、かつ……?」
『やっぱり聞いてなかったのか……ま、いいか。ともかく……フハ、お前なら──至れるかもな』
何を言っているか分からないが、どうでもいい。
ともかく、友達だ、友達百人だ!
『百人もか?まあ、無理とは言わんが』
「こ、心が読めるんですか!?」
『ここに入って来た奴のことは大体ななんでも……』
そういうオジサン。
なんだか、とても恥ずかしい、独り言を知らない人に聞かれた気分だ。
だが、ダンジョン震で死にかけていたのに、凄まじい躍進だ。
『とにかく、んじゃ早速友達作りの第一歩だ────俺を倒せ』
「──────え゜!?」
『なんだその、イルカ見たいな声……大丈夫だ、触れるだけですぐに倒せる』
ま、待って…………せっかく、オジサンと知り合えたのに、お別れなんて嫌だ!
「で、でも……」
『俺の要求はすんなり呑んだくせに、こういうのは駄目なのかよ』
「せっかく、友達に…………」
『────フ、オレを友達というか。ならば、猶更大丈夫だ。オレは一生お前の中で生き続ける。友達作りも手伝ってやる』
そう、優しい目をするオジサン。
だが、僕はそれでも動けない、いつまでたっても変われない、それが運命なのかもしれない。
「──────」
『…………はぁ。いいか?お前が踏み出さないと、友達など夢のまた夢だ。必要なのは勇気だ──────そうでないと、親友のオレは見限っちまうな?』
その言葉に目を見開く。
そう、そうなのだ…………結局、自分を変えるのは自分だけ。
どう、誘導され、どう転んでも────起き上がるのは自分だ。
少なくとも、親友と言ってくれた、発破をかけてくれた彼の期待を裏切ってはいけない。
「────分かった…………本当にありがとう、オジサン」
『ハ、良いってことよ!あ、オジサンってのはちょっと嫌だがな!?』
────そして、僕は、オジサンへと一歩を踏み出し、彼の体に触れる。
『────さぁ!拍手喝采、万来の歓声を上げよ!!世界は、ここに新たな王の誕生を言祝ぐだろうッ!!嗚呼、お前はこの世で初のダンジョン踏破者だ!さぁさ、人類────震撼せよ』
そして、荘厳さを保った祝詞のような宣言と共に、彼の体は崩れ去り、墓所の壁は崩れ落ちていく。
何を言う間もなく、僕は眠るように意識を落として────
■□
「────はぁ、また新規のダンジョン…………ホントに勘弁してほしい」
────ダンジョン省庁、ダンジョン震対策課観測室。
そこは、昨今増え続けるダンジョンの出現に伴うダンジョン震の予測、そして避難指示や各消防省庁への指示だしから、ダンジョン震の被害への対処、補填などを一手に担う課である。
その中でも観測室にデスクを持つ、彼ら……ダンジョン震予報を仕事とする予報士は、特殊な立ち位置だ。
基本的には、省庁の職員として扱われるが、冒険者のライセンスも持っている。
《魔素収束》というスキルを取るために、ライセンスを取らされた哀れな職員である。
無論、補填や昇給などはあるものの、実質警報扱いであり、他の職員から哀れみの目で見られている
「別に、ダンジョン震の予測機器はあるんだし、帰ったらどうですか?」
そう、聞いてくるのは先ほどぼやいた男の斜向かいに居た、眼鏡の女性である。
呟いた男は、その発言に心底呆れたような視線を向ける。
「あのな、『予測くんMark.Ⅱ』は結局、精度に限界があんだよ。あと、コスパの問題。《魔素収束》はメートル単位で予測できる。オンボロくんは精々キロメートル単位なんだよ。お分かり?」
そう、《魔素収束》はほぼピンポイントで約一時間後のダンジョン震を予測できる。
だが、あの『予測くんMark.Ⅱ』は十分前で半径1キロ円内のどこかに起こる、という事しか分からない。
さらに、常時稼働すればかなりの魔石を食う、一日稼働で約一億ほどの出費を政府が認める筈もなかった。
そんな《魔素収束》のデメリットは、探知範囲が半径10キロメートルのみで、Mark.Ⅱは100キロメートルは探知可能ということぐらいだ。
「しかも、《魔素収束》の探知範囲は、人海戦術で、網のように配置して抑えてるとか、正気かよ」
「ぼやくくらいなら、『天球錬成』に直訴すればいいのでは」
「おま、現役の人間国宝に直訴できるか。それにあの人、ネーミングセンスを弄られただけで、五日も研究開発出来なかったらしいし」
そう、『予測くんMark.Ⅱ』は『天球錬成』という二つ名を持つ、日本が誇る人間国宝の錬金術師が作ったものだ。
命名も彼女が行ったらしいが、そのセンスは致命的だ。
まあ、それを弄った同僚のせいで、研究開発が止まり、五日間で十億以上の損害が生じたらしいのは、わりと有名な話だ。
「ともかくだ。俺は帰りたくても帰れねーんだよ!上からは休日すら、省庁で過ごせって意味不明なこと言われるし。こっちでいても、ダンジョン震が起こらねーと、何もできないから、雑務や書類整理押し付けられるし!!あまつさえ、ダンジョン震が起これば関係各所との連携やら対処やらを任される。公務員が憲法十六条を守れなくてどうすんだ!まじで、過労死すんぞ!!」
男は、これまでの鬱憤を吐き出すように、捲し立てる。
「知りません。こっちだって、結局課長の補佐なんですから」
「────なぁ、伊佐木ぃ?お前も《魔素収束》を「嫌です」──けっ」
そう、不自然で気持ち悪い表情でそう口を開いた男に、部下が否をのしつけて返す。
「ちっ、まあ口じゃなくて手を動かすか。厄介だな、ギリギリ探知範囲外の六本木で起こるたぁな」
「課長が言い出したことでは。まぁ、確かに他のカナリ──げふんげふん、予報士の探知範囲との境界の針の穴を通すようなダンジョン震ですから」
「あ?おま、俺のことカナリアって言いやがったな!?ふざけんな、俺がどんだけ滅私奉公してきたかを、なあ!」
そこで、議論は白熱する。
ちなみにいえば、『予測くんMark.Ⅱ』の稼働時間外でもあった。
そして、そんな探知不能の偶然が重なった場所と時間に現れたのがあのダンジョンだ。
「気のせいです。ところで、ダンジョンの入り口は未発見でしたよね」
「露骨な話題逸らしだな…………ああ、出現した亀裂に吸い込まれた数人が行方不明で、入口は見つからなかった」
そう、じゃれ合っているようだが、キーボードから一切手を離さない彼らは器用に書類を片付けつつ雑談をする。
「…………もし仮に、ダンジョンの意思が人を意図的に取り込んだとすれば」
「ああん?おま、そんな陰謀論信じてやがんのか?ダンジョンに意思があるっていう、ネットの陰謀論好きが騒ぎ立ててるだけだろ」
無論、ダンジョンが現れた理由は日々の研究でも議論には上がる。
だが、ダンジョンに意思があるというのはあまりに飛躍し過ぎた考察だ。
「いえ、ただ…………少し、出来すぎのような気がして……」
「フ、まあ亀裂に取り込まれた人間は既に死亡扱いだ。調査でも、死体は見つからない……取り込まれたのは間違いないな」
そう、ダンジョンは生物意外を数時間動かしていなければ取り込む性質を持つ。
実質的に、ダンジョンに人工物を立てることは不可能だ。
「ま、個人の主義主張はどうでもいいよ。どうせ色々考えるのは上だ」
「課長は生涯課長でしょうし、昇進には興味ないですよ」
「あ・の・なぁ!!」
そういうと、軽口を叩き合う二人。
その様子は公務員とは思えない。
しかし、それも当然、すでに彼らは度重なるダンジョン震で二徹状態である。
無論、彼らの上司部下を無視した関係は、すでに課内でも名物と化している。
こう見えて、彼らも仕事が出きるので、文句を言う人間は居ない。
────が、ここにきて彼らに水を差す人間が一人。
「────あのぉ?」
「ああ?あ、なんでしょうか?」
そう、流れでけんか腰で返してしまい、慌てて態度を正す男は、こちらに報告してきた職員に向き直る。
「亀裂の下にされたダンジョンなのですが────先ほど、急に消滅しました」
「…………マジ?」
かくして、彼らはまた仕事が増えるだろう異常事態に、口角をヒクつかせることしかできなかった。
□■
────謎のオジサンに出会い、良く分からないままに彼を倒した翌日。
『──────へぇ、結構いい家住んでんじゃねぇか』
「普通に、いるんですね?」
そう、あの後オジサンを倒し、気絶していた僕は目が覚めると近くの路地裏に居た。
しかも、お別れだと思ったオジサンは普通にいる、僕にしか見えないらしいが。
日付を見ると、なんと亀裂に落ちてから、一週間も経っていたのだ。
そして、僕は死亡した扱いを受けているので、役所に行って色々と事情を説明し、手続きで一日が終わった。
さらに、残念なことに死亡者扱いで、既に会社には籍が無かった。
僕の事を嫌っている部長が慣例やら何やらを無視して、無理矢理除籍したらしい。
唐突に職を失い、呆然とする僕に脳内にいるオジサンが言い放った言葉は────
『──ちょうどいいじゃねぇか。会社は辞めて冒険者になってもらうつもりだったしな』
この言い草である。
まあ、確かにそうなるとは思っていたが、実際無職になってみて不安が凄い。
『そりゃ、オレは亡霊であり、あのダンジョンのボスだからな。倒されたお前に、取りつくのは当たり前だろ』
「何がそりゃ、なのか分からないです。というか、怨霊だったんですか?」
『そっちに引っかかるのかよ…………ま、あそこはオレの墓場だったし』
そう、微妙な顔でそう、カミングアウトするオジサンだが、危険な発言ではある。
もしかして、ホラー映画みたく呪い殺されるのでは?僕。
『今のオレはお前の脳内でしか存在できないから、お前を害したりは出来ねぇよ』
「良かった…………てっきり、最終的に精神を乗っ取られるのかと」
『そんな寄生虫みたいな奴じゃないからな、オレ!?』
そう、発言を聞いて一応はほっとする。
と言っても、まだ疑問は解決してはいない。
「じゃあ、と、友達作りはどうするんです?」
『ああ、ちゃんと考えてある。でも、その前に、オレたちは友達だ、敬語はやめてくれや』
「う、うん……わかった」
そう言われると、人生初友達なのでどうしていいか分からない。
敬語を使わないだけでなんだか、むず痒い。
『────よっし、んじゃ早速友達作りに行きますか!!』
そして、僕たちは意気揚々と家を出発したのだった──────
「──────でも、なんでギルドなの?」
そして、電車を乗り継いでたどり着いたのは、新宿御苑にある冒険者の総本山であるギルドであった。
『ん?正式名称はダンジョン省庁じゃねぇのか?』
「それは、ネットでの通称がそのまま一般で使われてて──そんなことはいいけど!なんでギルドなの!」
『なんでも何も、ギルドへ行って冒険者になるって最初から言ってただろ?』
そうか、そうだった!
いや、でも本当によく考えたら、何故友達を作るのに、冒険者になる必要があるのか。
『お前な、考えてもみろ。今から無職で友達を作るのは話題が足りない』
「ふむふむ」
『そんで、オレが一番知ってるのはダンジョンの事だ。んで、冒険者には何がある?』
──────配信、そうかなるほどオジサンは天才かもしれない!
配信して、僕の友達を募集すれば、直ぐに友達百人どころか千人はできるだろう。
『さて、分かったなら早速ギルドに入って冒険者登録をしろ。お前、入口でブツブツ言ってるからめっちゃ目立ってるぞ』
「あ、え──────分かった」
そして、周りを見ればこちらを胡乱な目で見ている通行人たち。
危なかった、目立ってしまうところであった。
あれ、でも配信すればさらに目立つのでは?
ともかく、友達を作るために冒険者登録するぞ……そう、僕は心の中で気合を入れた。
■□
「──────あのねぇ、ボク……冒険者になるにはもっと大きくなってからじゃないと無理なの」
意気揚々と向かったギルドのカウンター、市役所の窓口のような場所だが、必要書類を持っていけば冒険者に馴れる場所。
大抵は美人のお姉さんが受付をしているらしい。
顔採用なのかは諸説あるが。
そして、当然の如く子供と間違えられる。
スーツじゃなくて私服だし、こういう扱いは依然馴れている。
故に、僕は当然持ってきていた切り札を出す。
「────ぼ、僕は大人で、22歳です!こ、これがしょう、こです……」
最初に声を張り上げ、息が続かなくなった。
初対面の人に話かけれたんだ、一歩前進だ。
まあ、年上の美人とは話馴れている、というか営業では良く行かされたからそんなに緊張はしないのだが。
「……………………え?」
僕が出したのは、運転免許証であった。
どちらにせよ、マイナンバーとか各種書類は出さなければいけないのだが、こうするのが一番早い。
市役所に行った後で、ラッキーであった。
「あの、駄目でしょうか?」
お姉さんは長い沈黙を貫き、困惑の表情を浮かべるだけであった。
ここまでしても、門前払いされることもごくたまにある。
「………………………………え、いや、はい。理解しましたでは印鑑証明書を──」
さらに沈黙の中、何故か上の空になったお姉さんは各種手続きをしてくれた。
顔が赤い、いや震えてる?大丈夫だろうか、体調でも悪いのか?
そして、三十分後、僕は遂に冒険者ライセンスをゲットした!
「──────えー、それでは私ダンジョン探索課、従業員のサカモトが冒険者活動及び、制度についてご説明をいたします」
「はい、よろしくお願いします」
そう言われると、丁寧にお辞儀をする。
つい、社会人時代の癖が…………あ、もちろんメモも取ってます。
「まずは、冒険者のランクから、下から順にE、D、C、B、A、そしてSがございます。そして、陽太様はEランクからのスタートになります」
「ふむふむ」
大体、調べたとおりだ。
冒険者には、スポーツの段位のような階級がある。
まず、駆けだしのE級。
ダンジョンの1層から5層が適性階層とされている。
次に、いっぱしのD級。
6層から10層までが適性階層、アマチュア冒険者なんて呼ばれている。
そして、中級者のC級。
11層から15層が適性階層、ここまで来れば一般的にはプロ冒険者扱いだ。
第一の壁たるB級。
15層から20層が適性階層、ここで大体の冒険者はふるいにかけられる、CからBに成れる冒険者は一握りだ。
最後に冒険者としての到達点のA級。
20層以降が活動階層、あの日にみた広告にも出ていた最上位の冒険者で、全ての冒険者の至れる最上位の等級。
S級は、これらに縛られない異次元の存在で、国が保有する切り札。
人間爆弾、指向性のある核、なんて呼ばれ方をしており、その存在や詳細などはあまり分かっていないらしい。
「昇級は、冒険の実績と監査を経て実施されます。要求条件を満たせば陽太様もすぐにD級に成れるでしょう」
「なるほど」
彼女の言葉はたぶん正しいのだろう。
EからDに上がるには最短一か月で昇級できると、ネットに書いてあった。
筋が良ければDへ、悪ければEに残留して昇格を狙うか、大体は辞めるらしい。
「次に、アイテムの換金ですが、モンスターを討伐すると落とすアイテムの内、魔石は全て換金、アイテムは検査すれば持ち出しは可能でございます」
「へー、そうなんですか」
これは知らなかった。
話によると、魔石は外に出しても使い道がなく、モンスターがドロップするアイテムも大体はモンスターの部位らしく使い道が無い。
故に、大体はギルドが買い取りを行っており、希少なアイテムはオークションにも出せるようだ。
「ですが、スキルオーブ、秘伝書、ポーション、碑文などは自由に持ち出すことが可能です。基本的に、こちらが買い取りを申し出るようにはしておりますが」
スキルオーブなどは、使用時間に制限があり、過ぎると割れてしまうし、ポーションなどは探索者自身が使うからであろう。
秘伝書や、碑文は何故かは分からない。
まあ、素材自体を欲しがる生産職の人はいるし、自分で取ったアイテムで魔道具を作成する人もいるだろう。
「そして、配信についてですが……原則行ってもらうようにお願いしております。どうしてもいやな方は、ヘッドライト型のカメラで録画を行い、探索後に提出してもら決まりです」
「………………カメラでの録画で」
………………
………………………………
………………………………………………いや、待って、言い訳をさせてくれ。
そんな、このチキン野郎!みたいな目で見ないでオジサン。
分かっているんだ、配信をやろうと寸前までは思っていたんだ。
でも、何故か、口が、勝手に!僕のせいじゃない、頭の中の悪魔が……!!
『精神鑑定の必要もなく、チキン野郎だな』
申しようもございませぇん…………………
「どうかしましたか?」
「い、いえ何でも。ところで、機材とかのレンタルみたいなのは………」
「もちろんございます。では──────」
各種説明、レンタルの契約、支払いなどを終えた僕は、更衣室へと向かう。
──────そして、遂に………すべての準備は整った。
いざ、ダンジョンへ!
配信もね……………いつかね、するよね、多分。
あ、オジサン、すみません、ホントに絶対友達作るんで!
■□
レンタルした剣に、カーボンファイバーの装備。
そして、ヘルメットに装着したカメラを携えて、僕はダンジョンの第一層へと向かっていた。
意外と重いし、体力を使うので、もうすでに汗をかいてきた
「(んで、ダンジョンに入ったはいいんだけどさ。本当に大丈夫?僕、運動とかからっきしなんだけど)」
ダンジョンに入ってから、偶に人とすれ違うため、心の中でオジサンと会話する。
よく考えたら、心の中にしかいないイマジナリーオジサンに話しかけるって凄い字面だ。
『ん、ああ、問題ねぇ。本来なら、配信して強く成って有名になれば一発なんだが………』
「(ま、まあ流石に配信は一足飛びかなぁ、って探索に馴れてからの方が良いかなって)」
『ま、スライムに棒振れってのも無理か』
謎のことわざを口走るオジサン、そうだよ、ボク、スライム。
悪いスライムだよ(断言)
『とにかく、ステータスを確認しろ』
「(あ、うん、さっき教えてもらった奴だよね)ステータス!」
別に口に出す必要はないが、雰囲気は大事だ。
〈ステータス〉
【名前】聖沢陽太
【ジョブ】『妖精使い』(下位)
【レベル】『0』
《HP》8/8
《MP》11/11
《STR》4
《END》8
《INT》11
《DEX》7
《AGI》5
《LUC》18
-割り振り可能ステータス-
『0』
【スキル】
-■■■■■-
《■■■》
-レジェンド-
なし
-エクストラ-
なし
-エピック-
《鈍感》
-レア-
《妖精術Lv.1》
-ノーマル-
《料理Lv.1》《魅了Lv.1》《使役Lv.1》
【称号】『年上キラー』
-割り振り可能スキルポイント-
『0』
「なにこれ」
つい、声に出てしまった。
実際、僕はダンジョンの攻略ウィキ、様々な情報が事細かに乗っているサイトを見たことはあるが、それでも不可思議なことが多い。
『んだ?そんなに不思議なもんか。妖精使いとか、俺を倒したから得れたジョブだろ』
「(でも、サカモトさんの話だと、最初にジョブを選んで、スキル取得とかステータス割り振りとかやらなきゃいけないんじゃ)」
そう、自らの身体能力に影響するステータスは、ポイント制で、それぞれの能力に割り振れる。
ジョブも、最初に取得可能なものが表示され、それを選ぶ、一度選ぶと選びなおしはできない。
スキル取得は更に、今後の冒険を左右する重大なものだとサカモトさんが言っていたはず。
『あー、オレがやっといたわ。どうせ、ヨウタの方はそこまでいらないし』
「(え!?ちょっと楽しみにしてたのに!)」
そうらしい、というか普通に早速害が出たよ、オジサンっ………
まあ、とはいえ、僕の目標はダンジョンを楽しむことではなく、友達作りだ。
仕方ないと割り切ろう。
『んじゃあ、早速だな』
「(いや、この黒塗りの奴はなに?)」
そう、それなのだ。
ネットで、大体の〈ステータス〉の仕組みは理解している。
だが、この黒塗りになっているものは聞いたことも見たこともない。
『配信も出来ねぇ、軟弱者には教えませーん』
「(ぐぅの音もでない!ま、ステータス勝手に取るのも駄目でしょうが!)」
そう、言い合っている内に、一層への階段を降り切り、遂にダンジョンの第一層へと足を踏み入れた。
■□
そして、新宿ダンジョン第一層……………森林エリアと呼ばれる、深い森に脚を踏み入れる。
新宿御苑にあるダンジョン、通称ワイルドエリア型のこのダンジョンは、分かりやすい階層で区切られていない。入口の奥に進めば進むほど階層も進んでいく、そういうダンジョンだ。
主に、自然動物型のモンスターがほとんどで、それ以外のモンスターはどこのダンジョンでもいるスライムくらだ。
『今度こそ、説明する時だ。お前のジョブは「妖精使い」要するに、妖精を使役するジョブだ』
「なんか、こう………強いのか弱いのかよく分かんないね?」
辺りに冒険者は居ない。
故に、普通に話している。
『ああ、そうだな。オレが以前持ってたスキルだ。お前に譲渡したが、使い方は良く知ってる』
「なるほど、ポケ〇ンだね!」
『法務部に怒られるぞ』
そう、オジサンはきちんとツッコミを入れてくる。
ん、そういえばなんで知ってるんだろう。
「ポケ〇ン知ってるの?死んでたのに」
『一言余計だが、ああ。現代知識は大体頭にある………ともかく、お前がやるべきことは…………………妖精を探すことだ!!』
そう、言い放つオジサン、だが実際どうやって探せばいいのだろう。
図鑑に載ってたりしない?生態系とか。
『こ〇と図鑑かよ。捕まえ方載ってる本なんてねぇ、けど………たぶん、お前ならむしろあっちから──────』
『──────すんすん、なにかイイ匂い!』
『──────くんくん、凄いイイ匂い!』
そして、僕の頭上から現れたのは、水の塊と風の塊に顔が付いた────まさしく、妖精であった。
■□
──────坂本雫はショタコンである。
されど、それを他者が知る事はほとんどない。
それは自身の受付嬢としての矜持であるし、社会人としての生命線でもある。
そういう本を嗜んでいるし、妄想だってする。
だが、現実と創作はきっちりと分けているのだ。
──────そのはずだった理性は、今日この日を以て全て打ち砕かれてしまう。
全てはあの幼い顔立ちに低い慎重、そしておずおずと見上げるその表情が、私を狂わす。
そして、何より──────合法なのだ。
別に何がと言う訳ではないが二十歳を超えた社会人なのだ。
ならば、チャンスはある────否、チャンスしかない!!
そして、無垢なその外側も内側も、私色に…………
「坂本さん、今の子可愛いかったっすね………って、聞いてないな」
何か、後輩が話しかけてきたが、今は妄想で忙しいのだ。
とはいえ、無視するのは流石になので返す。
「ん、里山さん何か用かしら?」
「いや、そんな何もなかったような顔しても無駄っすよ。涎垂れてます」
「じゅる、と、ともかく邪魔しないでよね」
こちらを責めるように眉を顰める里山さん、彼女は私の趣味嗜好を知っている。
職場では一番仲がよいのも、里山さんなので仕方がない。
「公私混同も大概にしてくださいっすね。私も、先輩から犯罪者を出したくないんで」
「べ、別に何もしないわ………陽太君には」
「には、ってなんすか。というか、勝手に名前呼びだし」
そう、さらに、こちらにジト目を向けられる。
実際、こう見えて割と自制心が足りない方だと自覚はある。
里山さんがストッパーになってもらうことはしょっちゅうだ。
「ふふ、別に法に触れることはしませんから安心して」
「なんも安心できないっすよ。法の抜け穴突くって、完全に思考が犯罪者じゃないですか」
「大丈夫よ、同意があれば合法なの」
「ううーん、これはオジサンがやれば完全にアウトっすね。美人でもギリ許されないような気も」
完全に正気度を減らしている坂本に里山はため息をつく。
「でも、だって未成年ならともかく、成人してるのよ!」
「ま、まあ、陽太君の容姿を見れば、そう思うのも分からなくないっすけど………」
そう、里山とて、あの可愛さには少しドキッとさせられた。
とはいえ、坂本ほどではなかったが。
「──────陽太君は私のものだけど?」
大真面目にキリっとした顔で、とんでもないことを口走るおそらく、一番仕事が出来る先輩に里山はため息をついた。
「そもそも狙ってないし、先輩も別に陽太君の何でもないっすよ?」
「────やっぱり、アイテム換金の時に多めに渡そうかなぁ?」
「普通に業務上横領っす」
「私の財布からだから、個人贈与なのでセーフよ」
ぐ、犯罪者はこういう法律には目敏い!
そう、自身の忠告を聞いていないフリをする彼女に食って掛かる。
「でも、ママ活っすね。陽太君が触れ回れば、社会人として終わるっすよ」
「理由はどうにでもなるし、陽太君はそんなことする人間じゃないし。それに、相手は成人だから、社会的にも理由を付けたただの援助。今時で言えば推し活の一環かしら?」
──────そう、理路整然と語る先輩は、目の中の光を失っていた。
ああ、うん………どうか、この坂本先輩を裁く法を制定してください。
里山は静かに、初めて神に祈ったのであった。
あと、陽太君、逃げて………
■□
──────〝彼〟が冒険者登録をして、三時間後。
冒険者登録窓口が閉じるギリギリに、その人はやって来た。
黒髪ロングに、溢れんばかりの胸部。
大和撫子でありながらキャリアウーマンの表情を醸し出す、スーツの女性。
本来、彼女のような人間は冒険者登録にはめったに来ない。
だが、彼女は別に、なんの変哲もないただのOLであった。
特筆すべきことは何もない、まさしくただ冒険者登録をしに来た一般人。
対応に当たった里山は、それでも彼女と瞳を合わせて背筋をゾクリ、と震わせる。
──────目が、死んでいた。
光の無い、全てを吸い込む漆黒の瞳を彼女はこちらに無造作に向ける。
里山は直感する、ああ、この瞳には既視感がある。
そう、偶に坂本さんが見せる目であり、そうだが普段は普通の受付嬢であり、目には光がある。
「────私、冒険者になりたいんです」
平坦で何の抑揚もないその声は、されどその目線がかち合い、顔を青くしてしまう。
里山は目線を逸らすためについ俯いてしまい、そして彼女の名前が目に入る。
──────宮下夏帆、身分証明書にはそう書かれていた。
あと、別作品やってます。タイトルとリンク↓
剣と魔術の空想現界 〜創作キャラとその他諸々が参加するデスゲームに一般人の俺が巻き込まれたらしい〜
https://ncode.syosetu.com/n6710ir/




