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第55話 美しい声の女の子 さな

 美しい声の女の子 さな


 きっときみは幸せはなれます。さな。わたしとお友達になってくれて、ありがとう。


 さなは心を込めて、きちんと手書きの文字を書いて、いっぱいの愛を込めて、グラスにお手紙を書くことにしました。

 声を文字にすることは、ずっとさなが病気になって喋れなくなってからしていたことでした。(おしゃべりのための画用紙もたくさん積み重なっていました)

 ある日、「はぁ〜。まだ眠いですね。おはようございます。さな」

 と半分寝ぼけたような緑色の瞳をして、グラスは小さなあくびをしながら、さなにそう言いました。

 さなの中には、そんなたくさんのなにげない毎日の風景の中のグラスがいました。

 グラスはいつも笑っていました。

 さなもいつもグラスと一緒にいるときは笑っていました。

 さなはお手紙を書きながら、わたしがずっと笑っていられたのは、きっとグラスのおかげだったんだと思って、幸運のおまじないのある白い花の妖精の女の子のことを思い出しながら、泣いていました。

 グラスがわたしのすぐそばで、いつも笑っていてくれたのは、本当にすごい、すごい奇跡だったのだと、グラスがいなくなってから、グラスのくすくすと笑っているかわいらしい顔と声を思い出しながら、さなは思いました。

 さなはお手紙を書きながら、グラスのことをたくさん思い出していました。

 ある日、グラスは「生きているってすごいことなんですよ。だから、さなもすごいですし、毎日、頑張って生きている白いお花のわたしのことも褒めてくださいね」

 とくすくすと笑いながら冗談みたいにして、さなに言いました。


 あのね。夢を見たんです。

 とっても不思議な夢。

 とってもかわいい夢です。

 え? どんな夢が知りたいですか?

 ふふ。

 だめです。

 教えてあげません。

 だって絶対にわたしのことをわたしよりも子供だって、さなはばかにするからです。


 さなはお手紙を書き終わりました。

 さなはグラスへのありがとうのお手紙を枯れてしまったグラスの白い鉢植えのところに置きました。


 さなは病院からもう本当に久しぶりに(十二年の人生の半分くらい)退院をして、自分のお家に帰ることができました。

 さなはグラスの花が咲いていた白い鉢植えを自分のお家に持って帰りました。

 それからもう一度、グラスのお花の種を植えて、グラスのお花を育てて、愛をいっぱいあげて、そしてまたグラスの白いお花はさなのお部屋の中で美しく咲きました。

 でも、そこにはグラスはいませんでした。さなは白いグラスのお花の咲いている真っ白な鉢植えを抱きしめながら、とっても『大きな声』を出して、まるで生まれたばかりの赤ちゃんみたいに、泣きじゃくりました。


 わたしはここにいますよ。ほら。ね。だからいつでも大好きなさなに会えるんです。


 さなとグラスの物語 終わり

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