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第54話 白い花のグラス

 白い花のグラス


 ねえ、思い出したことがあるんだ。

 ずっとむかしのこと。

 忘れてたこと。

 思い出したんだよ。


 さなの病気を治すための難しい『移植手術』は成功しました。

 さなはまだすぐには病院を退院することはできないのですけど、病気は治ったのです。

 これからどんどんと元気になります。

 喋ることができなかったさなは、また病気になる前のように、小さなころのように、喋れるようにもなるのだそうです。(まだ本当に声を出すことはできないけど、練習をすれば声が出るようになるみたいです)

 さなはとっても幸せでした。

 でも、とっても、とっても、悲しいこともありました。

 それは、グラスがいなくなってしまったことです。

 移植手術のあとで、さなが真っ白な病室で目を覚ますと、もうそこにはグラスはいませんでした。

 グラスがいなくなってしまって、さなはわんわんと泣きました。

 グラスがいなくなって、そして、せっかく咲いた美しいグラスの白いお花も、もうすぐ枯れようとしていました。

 花が咲いたあとのグラスのお花の命はとても短いのだそうです。

 そのことを、さなは知りませんでした。

 いつも笑っていたグラスと同じように、いつも上を向いて、元気いっぱいに太陽の光を浴びていて、にっこりと笑うみたいにして、きらきらと白く光っていたグラスのお花は、ぺたりと下を向いて、元気がなくなってしまって、今にも閉じようとしていました。

 移植手術の前の日の夜に、グラスはさなのことを抱きしめてくれました。

 とってもあたたかくて、とっても優しくて、まるでお母さんみたいでした。

「大丈夫ですよ。さな。もう怖くないですよ。怖くない。さななら絶対に大丈夫です」と穏やかな声でグラスは赤ちゃんを寝かしつけているお母さんみたいにして、さなに言いました。

 さなが眠りにつくときに、グラスの真っ白な体がなんだか月の光の中で、透けるようにして、透明になっていったように見えました。

 グラスはさなになにも言ってくれませんでした。

 さなは夢の中でグラスに会いたいって思いました。

 でも、夢の中でもさなはグラスと出会うことはできませんでした。(グラスがさなから見つからないように隠れているみたいに思えました)

 まるで最初からグラスなんて女の子は世界のどこにもいなかったみたいでした。

 でもさなはグラスのことを覚えていました。

 きっと、ずっと覚えているんだと思いました。

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