第51話 さなとグラスの物語 ありがとうございます。愛してくれて。
さなとグラスの物語
ありがとうございます。愛してくれて。
わたしたちに本当に必要なものは、愛です。もちろん、大切なものはたくさんあるけど、一番大切なものは愛なんです。
だから愛を探しましょう。
愛を育てましょう。
わたしたちが子供のころに覚えていて、大人になって忘れてしまったものを、もう一度思い出しましょう。
もし、どこかに落としてしまったのなら、がんばって探して、見つけて、拾いましょう。
それはいらないものではないのですから。
わたしの、一度だけの大切な自分の命を、がんばって生きてみたいんです。……、最後の、本当に最後まで。
とっても短い時間かもしれないけど、生きてみたい。
それがわたしのお願いなんです。(画用紙のある一ページ。かわいらしい子供の文字で)
ずっと街の大きな病院の白いベットの上で生活をしている小学六年生の女の子(小学校には一度も通えていないけど)さながある日の朝、いつものように白いベットの上で起きると、一生懸命お世話をして、大切に育てていた白いお花は人間の女の子になっていました。
お母さんがさなの十二歳の誕生日にプレゼントをしてくれたまだ花が咲くまえのおじぎをしてきるみたいな、白いつぼみの綺麗なお花。
その白いお花の名前は、グラスと言いました。
グラスという名前の不思議な白いお花には(とても珍しいお花なんだそうです)あるお願いが叶うおまじないがありました。それは『グラスの白い花が咲くとお願いが叶う』というものでした。
言葉を話すことができないさなはお母さんに、いつものように画用紙に、ありがとう、と書いて伝えて、グラスのお花を大切に育てました。
白いベットの上からあまり自由に動くことのできないさなは一日中、グラスのお世話をすることはできなかったのですけど、お母さんの買ってきてくれたひまわりのおもちゃのじょうろを使って、お水は毎日あげていましたし、もちろん、同じくらい愛情はたっぷりと与えていました。さなはいつも、元気ですくすくと育っていくグラスを見ながら、にこにこと笑っていました。
お花が咲くといいね。
さながグラスを大切に育てているのは、お願いのためではありませんでした。そうではなくて、元気なグラスがとってもきらきらと輝いて見えていたからでした。
そして、今日の朝。グラスの白いお花が咲きました。
さなの愛をたっぷりともらって、グラスは人間の姿をした白いお花の妖精の女の子になったのでした。
……、それは確かに奇跡でした。(このときは本当に、本当に、びっくりして、目を大きくして、口を大きくあけて、とっても驚いてしまいました)
さなの病室の白いベットの横には白い窓があって、その白い窓のところにグラスの花が咲いている白い鉢植えはありました。
グラスはその白い窓を開けて、優しい春の風の中で、太陽の光に浴びながら、じっと、さなの病室の外に広がっている青色の空の風景をぼんやりと見ていました。
白い肌と白い髪をした、とっても綺麗な緑色の瞳の女の子。(それは思わず、まるで世界の時間が止まったみたいに、一枚の絵画のように見惚れてしまうくらいに、本当に美しい光景でした)
「あ、おはようございます。さな」
驚いて目を丸くしている、白いベットの上のさなの視線に気がつくと、白いお花の妖精の女の子、グラスはさなを見て、くすっと笑いながら言いました。
さなは人間の女の子になったグラスを見て、それはきっとお友達が欲しいってお願いをしたさなへの神様からの素敵な素敵な贈りもの(ギフト)なのだと思いました。