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第50話 奥様とステラ 大好きなハルお坊ちゃんのこと ハルお坊ちゃん。見てください。ほら。虹がすごく綺麗ですよ。

 奥様とステラ 大好きなハルお坊ちゃんのこと


 ハルお坊ちゃん。見てください。ほら。虹がすごく綺麗ですよ。


 ぽんこつメイドロボットの少女ステラと頭のいいハルお坊ちゃんの小さな恋のお話


「ぼくは落ちこぼれなんだ」

 奥様のお屋敷のお庭の大きな森の中にお部屋からこっこりと抜け出して、隠れていたハルお坊ちゃんは探しにきた(髪の毛に葉っぱをつけている)ステラにそう言った。

 隠れることがとても上手なハルお坊ちゃんはすごく見つかりにくいところに隠れていたのだけど、隠れている誰かを見つけることが得意なステラはそんなハルお坊ちゃんを見つけることができた。(ちょっとだけ大変だったけど)

「ステラ。お腹すいた」

 とハルお坊ちゃんは言った。

「はい。おにぎりがありますよ。お坊ちゃん。ハルお坊ちゃんの大好きなツナのおにぎりです」

 ステラはそう言って、手に持っていたお弁当の袋をあけて、おにぎりを取り出した。

 そのおにぎりは朝にステラが早起きをして、(ハルお坊ちゃんがステラの手作りの料理が食べたいって言ったので、料理があんまりできないステラが、こうしてハルお坊ちゃんと一緒に食べるために)握ったおにぎりだった。

「ありがとう。ステラ」

 ハルお坊ちゃんは嬉しそうな顔でにっこりと笑うとステラのツナのおにぎりをもらってぱくぱくと美味しそうにツナのおにぎりを食べ始めた。

 ステラもハルお坊ちゃんと一緒に笑顔でツナのおにぎりを食べた。

 二人はお屋敷のお庭の大きな森の中にある、とっても大きな木の根っこのところに(ここがハルお坊ちゃんのお気に入りの隠れ家だった)一緒に並んで座っておにぎりを食べていた。

 季節は夏で、時間はお昼ごろで、とても眩しい太陽の光がとっても大きな木の緑色の隙間からきらきらと輝いている木漏れ日となって降り注いでいる。

「ぼくはきっと試験に合格できない。お父様とお母様のことをがっかりさせてしまうよ。お姉様だって、ぼくのことを嫌いになってしまうかもしれない。そうして、お家を追い出されてしまうかもしれないんだ。頭の悪い子だって、いならい子だって言われてね」

 と、木漏れ日を見ながらハルお坊ちゃんは言った。

 ハルお坊ちゃんはとっても頭のいい男の子だった。

 生まれたころから、いろんな頭のいいことをたくさんしていて、ハルお坊ちゃんのお父様とお母様、そして(ハルお坊ちゃんのことを溺愛している、とってもお美しい)お姉様は、とっても、とっても喜んでいた。

 そんなハルお坊ちゃんは今度、とっても難しい試験を受けることになった。

 とっても、とっても難しい試験なのだけど、ハルお坊ちゃんのお父様とお母様、そしてお姉様は、ハルお坊ちゃんなら必ず受かると思っているみたいだった。

 でも、ハルお坊ちゃんには自信がなかった。

 だからこうして、お勉強の途中で、お部屋からこっそりと逃げ出して、お庭の大きな森の中にひとりで隠れているのだった。

「ハルお坊ちゃんなら大丈夫ですよ。試験にはきっと合格できます。それにもし試験に合格できなかったとしても、ハルお坊ちゃんのお父様もお母様もお姉様も、ハルお坊ちゃんのことを嫌いになったりしませんよ。大丈夫です」

 とステラは(口元にごほん粒をつけながら)にっこりと笑ってハルお坊ちゃんに言った。

 ハルお坊ちゃんは黙っていて、(ステラの笑顔をじーっと見ながら、口元にやっぱりごはん粒をつけて)もぐもぐとツナのおにぎりを食べていた。

 そんな風にして、お昼の時間の間、ずっと二人は一緒にいて、やがて、いつのまにかうとうととして(お腹がいっぱいになったからかもしれない)お昼寝をしてしまって、やがて三時ごろになると、「お屋敷に帰りましょう。ハルお坊ちゃん」とステラが言って、「うん。わかった」とハルお坊ちゃんは言って、二人は手をつないで、森の中に差し込む太陽の光の中を歩いて、一緒にお屋敷に帰っていった。

 そして少ししてから、とっても、とっても難しい試験を受けたハルお坊ちゃんは試験に合格した。(それも一番の成績だった)

 それからハルお坊ちゃんが奥様のお屋敷から自分の実家であるお屋敷に帰る日の少し前の日に、二人はこっそりとお屋敷のお庭の大きな森の大きな木の隠れ家のところで、一緒にステラの手作りのツナのおにぎりを食べていた。

「今日もいいお天気ですね。お坊ちゃん。なんだか寝たくなっちゃいます」

 とハルお坊ちゃんと遊び疲れて、くたくたになって大きな木の根っこのところに大きな木に寄りかかるようにして、ハルお坊ちゃんと一緒に座っているステラはにこにこしながらそう言った。

 そんなステラに「ねえ、ステラ。ステラは好きな人とかいないの?」

 とハルお坊ちゃんは言った。

「え? 好きな人ですか? いっぱいいますよ。みんな大好きな人たちばかりです」

 とハルお坊ちゃんを見て嬉しそうな顔で笑って(きっと大好きなみんなのことを思い出しているのだろう)ステラは言った。

「ううん。そうじゃなくて、ステラが『恋をしている人』のこと」

 ともぐもぐとステラの握ってくれたツナのおにぎりを美味しそうに食べながらハルお坊ちゃんは言った。

「え? 恋ですか?」

 ときょとんとした顔をしながらステラは言った。

「うん。恋してる人。いるの?」

 とハルお坊ちゃんは言った。

 それから少しして、きゅうに顔を真っ赤にしたステラは(ハルお坊ちゃんの言っていることの意味がようやくわかって)「そ、そんな人はいませんよ! ハルお坊ちゃんのばか!」とあわてた様子で(あたふたしながら)そう言った。


 ハルお坊ちゃんがお迎えにやってきた豪華な車に乗る前に、ステラを手招きすると、やってきたステラにしゃがんでもらって、こっそりと耳元で、「ステラ。大好きだよ」と言って、ハルお坊ちゃんはステラのほほにキスをした。

 みんなびっくりしていたけど、一番びっくりしたのは顔を真っ赤にしているステラだった。だけどハルお坊ちゃんだけはいつも通りの、ステラだけが知っている、いたずらっ子のハルお坊ちゃんだった。


 お坊ちゃん。大丈夫ですか! (心配そうな顔で、おろおろしながら)


 奥様とステラ 大好きなハルお坊ちゃんのこと 終わり

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