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第35話 四季 しき ちょっと。誰、見てるの?

 四季 しき


 ちょっと。誰、見てるの?


 私の命を救ってくれた先生への大切なお手紙 


 拝啓


 先生。お元気ですか? お久しぶりです。先生の弟子の大友(四季)しきです。

 突然のお手紙、申し訳ありません。

 どうしても先生にお手紙を書いてみたいという思いにとりつかれてしまって、こうして筆をとりました。久しぶりに自分の弟子の面倒をみるような気持ちで、先生にはどうかわたしの手紙を読んでほしいと思っています。

 先生がわたしの描いた絵を初めて見たときの言葉を今もわたしは鮮明に覚えています。

 絵を描くときに興味のあるものが大きくなる。あるいは構造が崩れても、そのように描くことは、いいと思う。正直だし、それが絵なんだと思う。とにっこりと笑って、わたしのはじめて描いた絵を見ながら、先生は言いました。

 自由に描いてもいい? いいよ。それが絵を描くってことだからね。と先生は言いました。

 わたしは生意気だったから(今もかな?)そのまま先生に言われた通りに、自由に絵を描きました。とっても、とっても、本当にとっても楽しかったです。(もしかしたら、今までの人生の中で一番楽しかった時間かもしれません)

 心の中で絵が完成するまでは、とても長い時間がかかります。先生はわたしにそんなことを教えてくれたけど、ようやく今頃になってわたしの中で、本当に描きたい絵(描かなくてはいけないもの)というものがわかるようになってきました。本当にこんなに長い時間がかかるものなんですね。とっても驚いてしまいました。(先生には、きっとこんな風に大人になったわたしがびっくりすることをあのころからわかっていたんでしょうね。教えてくれないなんてひどいです)

 あのときに、先生が、そう言ってくれたから、わたしは自分の絵を嫌いにならなくてすみました。本当にありがとうございます。先生。

 絵を嫌いにならなかったことは、わたしの人生において、もっとも大切なことだったと思います。

 先生がわたしの自画像を描いてくださることになったときに、先生はわたしに、私が君の絵を描いたら、君はとても傷つくだろうか? もし君が傷つくのなら描くのをやめる、と言いました。

 幼いわたしは先生に、ううん。描いてほしい。と言いましたね。

 わたしは本当に先生にわたしの自画像を描いてもらいたかったんです。実際に描かれた自画像は今も大切に保管しています。わたしの人生の宝物です。(本当ですよ)

絵の中のわたしはとても気難しい顔をしています。なんだかいろんなことを恨んでいるような、あるいはなにかとても難しいことになやんでいるような、なんだかそんな余裕のない顔をしています。(すくなくとも、幸せそうには見えません)

 先生は容赦なく、わたしの顔を当時のわたし自身よりもきっと正確にその魂のような、内側の心のありようをとらえて、そのまま大きく誇張して描写したのだと思います。みんなはわたしの絵を怖いといっていましたが、わたしは当時からわたしの自画像が大好きでした。先生がまるで本当のわたしを世界でただひとりだけ見つけてくれたような気がして、すごく嬉しかったんです。(だからわたしは泣いてしまったんです。あれは悲しいからじゃなくて、感動した涙でした)

 わたしの娘はわたしの自画像を見て笑います。でもいいんです。あの絵のよさは簡単にはわかったりはしないのですから。

 娘の描く絵を見ていると、なんだかむかしの自分の絵を思い出して、おかしくて思わず笑ってしまいます。

 

 先生。

 お暑い日が続きますけど、どうかお体に気を付けてください。

 先生のご健康を心から祈っています。

 突然のお手紙、申し訳ありませんでした。


 あなたのできの悪い弟子、大友しきより。


 敬具


 ……あ、書き忘れてましたが、わたしには娘が生まれました。名前はすいと言います。大友すいです。今年で五歳になる娘です。(とってもかわいい女の子ですよ)ご連絡が遅れて申し訳ありません。もし、先生さえよければ、娘のすいにも先生のところで絵を学ばせたいと考えています。わたしににて、とても生意気な娘ですが、どうかよろしくお願いします。それとこれはお願いなのですが、もしできたら娘のすいの自画像を先生に描いてほしいと思っています。かさねがさね、どうかよろしくお願いします。


 先生のことを世界で一番尊敬しているかわいい弟子より。先生。愛してます。(手紙の余白にはキスマークがあった)


 落書き


 好きな気持ちを作品の中に詰め込んでみる。好きなものを好きという。自分の好きを表現する。好きな気持ちを誰にも隠さない。(自分自身にも、ね)


 四季 しき 終わり

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