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第31話 黄金の蝶 まっすぐ走る。それだけだ。

 黄金の蝶


 まっすぐ走る。それだけだ。

 

 ……私はその日、全力でこの世界のあらゆるすべてを遮断した。震える両手で耳を塞いで。ぎゅっと強く目を閉じて。……それから、きつく自分の口を閉じて、……そうやって、大好きな自分の声を失って。


 今、迎えに行くよ、待っていてね。


 光ってる。すごく綺麗。


 私がその黄金色に光る不思議な蝶を見つけたのは、ある日の夜の出来事だった。

 月と星のない真っ暗な夜の森の中で、私はその黄金色に光る不思議な蝶を見つけた。

 その蝶はとても小さな蝶だったから、もし夜じゃなかったらその蝶を見つけることはたぶんできなかっただろうと露私は思って、にっこりと笑った。

「あなたは私を心配して迎えにきてくれたの? もしそうならどうもありがとう。でも大丈夫。私は一人でも全然大丈夫なんだからね」と前かがみになって、その蝶を見ながら私はいった。

 黄金色に光る不思議な蝶は深い緑色をした葉っぱにとまっていた。(蝶の明かりで、そのあたりの暗闇だけがぼんやりと露の視界の中に存在していた)

 蝶は逃げるでもなく、またなにをするわけでもなくて、じっとその深い緑色をした雨露で少し濡れている葉っぱの上にじっととどまり続けていた。

「えっと、じゃあ私はもう先に行くね。あなたとずっと一緒にいたいけど、どうしても会いに行かなきゃいけない人がこの先にいるんだ。その人、私の友達なの。世界で一番仲良しの私の親友なんだ」蝶を見ながら、私は言う。

「……まあ、その人は私になにも言わずに消えちゃったんだけどね」

 悲しそうな顔をして、小さく笑いながら私は言う。

「じゃあね、ばいばい。迎えに来てくれてありがとう」黄金色に光る不思議な蝶に手を振りながら、私はずっと動かし続けてきた足をまた再び動かし初めて、真っ暗な夜の闇の中を歩き始めた。

 するとずっと動かなかった黄金の蝶が、急に小さな羽を動かし始めて、ふわふわと真っ暗な夜の中を黄金色に照らしながら(それは人工の明かりではなくて、自然の生み出す小さな星の光のようだった)歩き始めた私のあとをついてきた。

「あなた、私と一緒に来てくれるの?」

 長い特徴的な黒髪のポニーテールを猫の尻尾のように動かしながら歩いていた私は後ろを振り返ってそういった。

 もちろん蝶は私に返事をしたり、喋ったりはしなかったのだけど、まるでそうだよ、とでもいうようにしてふわふわと私の周囲の暗闇の中を(私の顔を黄金色に照らしながら)ゆっくりと飛び回った。

「……どうもありがとう」と私はいった。

「じゃあ一緒に春のところまで行こうね。蝶々さん」とにっこりと笑って私はいった。

 こうして私は真っ暗な夜の中を不思議な黄金色に光る一匹の蝶と一緒に友達のいるところまで歩いて行くことになった。(旅は道連れとも言うけれど、自分についてきてくれる誰かと、……まあ蝶々なんだけど、出会うことができて、本当に嬉しいと私は思った)


 黄金の蝶 終わり

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