第3話 奥様! ずっと愛してます!
奥様! ずっと愛してます!
年老いた奥様と少女のぽんこつメイドロボットステラのお話の続きの続き
ステラにとって奥様との生活はいつも新しい驚きと新しい発見の毎日だった。
でも、うまくメイドのお仕事ができなくて、失敗ばかりしてきて、いつもステラは奥様の前で顔を真っ赤にしていた。(ぽんこつでとっても恥ずかしかった)
こんなことではいけないと思って、ステラはメイドのお仕事を頑張っては、緊張して(体も震えていた)失敗をしていた。
奥様は笑って許してくれたけど、ステラは自分をうまく許してあげることができなかった。(私はなんてだめでぽんこつなロボットなのだろうって思った)
そんなステラに先輩のロボットメイドであるしっかりもののルナは優しく「ステラ。大丈夫。焦らなくていいのよ。あなたならちゃんとお仕事ができる。だからそんなに落ち込まないで。ステラ。あなたが笑顔じゃなくなって、落ち込んだくらい空のような顔をしているとね。それだけで奥様も、もちろん私も悲しい気持ちになってしまうの。それはとっても悲しいことなのよ。ステラ。泣いてもいいの。失敗したことを反省することもいいことなの。でもね。ずっとずっと、暗い顔をしていることはよくないことなのよ。ほら。笑って。ステラ。あなたの輝く太陽なような笑顔を、いつもみたいに奥様と私に見せて」
と言って、まるでお手本のように、いつも真面目できりっとした顔をしてお仕事をしているルナはにっこりと子供みたいな顔で笑った。
「ルナ先輩」
泣いていたステラはそんなルナ先輩の顔を見て、無理やりにっこりと泣きながら笑った。(そんなステラのことをルナ先輩は優しく頭をよしよしって言って撫でてくれた)
ステラはそのときのルナ先輩の笑顔と言葉をずっと覚えていようと思った。
それから少しして、ある事件が起きた。
ずっととっても長い間、奥様にお使えしていたメイドロボットのルナ先輩が、その活動期間を終える日がやってきたのだった。
その日、大きな棺のようなとっても綺麗な(新しいロボットを運んでくる箱のような)回収箱の中に入って横になったルナ先輩は手をお腹の上で組んでじっとしていた。
「ルナ。長い間、本当に、ありがとう」
ルナ先輩の手に触れながらにっこりと笑って奥様が言った。
「こちらこそ。ありがとうございました。奥様。奥様のようなかたにお使えすることができて、ルナはとても幸せなロボットでした」
ルナ先輩は言った。
「ステラ。どこにいるの? あなたの顔も見せて」
こそこそと奥様の背中の後ろに隠れていたステラはルナ先輩の言葉を聞いて、ようやくその顔をルナ先輩に見せた。
ステラは泣いていた。
笑顔になってから、ルナ先輩に自分の顔を見てもらおうと(笑顔の自分のことを覚えていて欲しかったから)思ったのだけど、泣き止むことはできなかった。
「……、ルナ先輩ぃ。ごめんなさい。私、うまく笑えません」
ステラは震えるような涙声で言った。
そんなステラの顔を見て、声を聞いて、くすっと笑うと、ルナ先輩は「ステラ。あなたはとっても素敵なロボットだよ。私なんかよりもずっと、ずっと、とっても素敵。あなたはいつもきらきらと輝いていたわ。まるで太陽のようにね。あなたは自分のことをぽんこつだって思ってるみたいだけど、そんなことはないのよ。ステラ。ありがとう。私ね、あなたに会えて本当によかった。まるで本当の妹のように思っていたわ。さようなら。ステラ。私たち、また、どこかで会えたらいいね」
ルナ先輩はステラを見ながら最後にそう言った。
ルナ先輩はロボット回収会社の車に乗せられて、お屋敷から運ばれていなくなってしまった。
天気は雨で、お外では小降りの雨が降っていたので、ステラは黒い服を着ている奥様のために黒い傘をさしていた。
奥様とステラはルナ先輩を運んでいる車が見えなくなるまで、その場所から動かずにずっと、ずっと、その車のことを見ていた。
「ステラ。お話ししたことがありましたっけ? 私とルナがね。最初に出会ったのは私がまだこんなにも小さかった女の子のときなんですよ」
とふふっと笑って、奥様は自分の腰くらいのところで手のひらを横にしてそう言った。
「奥様からお話を聞くことは初めてです。でもルナ先輩からそのときのお写真を見せてもらったことはあります」
とステラは言った。
「まあ、あのときの写真を? ……、ルナはまだ持っていたのですね」
驚いた顔をして奥様は言った。
それからお屋敷の玄関まで途中の道の上で、奥様は「私はあのときのルナとの写真をもう無くしてしまいました。ひどいご主人様ですね」とひとりごとのように、奥様は震える声でつぶやいた。
我慢しないで、泣いてもいいところ