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第2話 おめでとうございます! 奥様!

 おめでとうございます! 奥様!


 年老いた奥様と少女のぽんこつメイドロボットステラのお話の続き


 ステラは奥様の育てている花園の綺麗なお花がとっても大好きだった。(いつも自然とにこにことした笑顔になってしまった)

「奥様。どうしてこんなにもお花はお美しいのでしょうか?」

「それはね、ステラ。愛を持って育てているからですよ」

 と奥様は言いました。

「愛、ですか?」

 と頭を斜めにしてステラは言った。

 ステラには愛がなんなのか、よくわからなかったからだ。

「ええ。愛です。ステラ。愛を持って育てるから花も人も美しくなるのですよ。もちろんロボットもね」

 とくすくすと笑って奥様は言った。

「愛」

 ステラはじっと鼻がくっつくくらい顔を近づけて、ジョウロで水をかけられて、小さな虹のかかっている、きらきらと輝いている美しいいろんな色の花を見ながらそう言った。(まるでどこかに隠れている愛を見つけようとして、一生懸命になって探しているみたいだった)


 それから少しして、奥様はご自分の自慢の花園から選りすぐりのお花を選んで、それを大きな花束にして、その美しい花束を奥様の一人娘のお嬢様にお贈りした。

 なんでもお嬢様のお腹の中に宿っていた新しい命がご無事にお生まれになったとのことだった。(そのことを奥様から聞いて、ステラもとっても嬉しくなって、二人で抱き合って飛び跳ねたりした)

 ステラは奥様の一人娘のお嬢様にもそのお生まれになった新しい命のお子様にも会いに行ったりはしなかったのだけど(お屋敷で一人でお留守番していた。寂しかった)お屋敷に帰ってきた奥様から写真を見せてもらった。

 そこには美しい笑顔の奥様に似ている女性と優しい顔をした背の高い男の人と生まれたばかりのすやすやと眠っている赤ちゃんと泣いている奥様が写っていた。

 赤ちゃんを見ようと思ってわくわくしていたステラは泣いている奥様の顔をそのとき初めて見て、すごくびっくりしてしまった。

 ステラの前では、奥様はいつも優しい顔でにっこりと笑っていたからだった。

「赤ちゃん。とっても可愛いですね」

 とステラは奥様に言った。

 奥様の泣いている顔を見てびっくりしたことは、奥様にはないしょにすることにした。

 その写真を奥様はステラにくれた。だからその写真は今も、ステラの机の上の写真たての中にあった。


 ある日、ステラは奥様がお散歩がしたいと言うので、奥様と一緒にお屋敷の外にお散歩に出かけた。

「奥様! 奥様! 見てください! 空が本当に綺麗ですよ!」

 とはしゃいでステラは言った。

「ええ。本当ですね」

 くすくすと笑って、奥様は空ではなくて、はしゃいでいるステラに見て、そう言った。

 お外に出ることは珍しいことなので、ステラは嬉しくて仕方がなかった。

 空も緑の森も土色の道も、みんなとっても綺麗だった。

「ステラ」

「はい。なんですか、奥様」

 名前を呼ばれてステラは嬉しそうな顔で奥様を見てそう言った。

「これをあなたにあげるわ。私からの贈り物よ」

 とふふっと笑って奥様は隠していた小さな花束をまるで魔法のように取り出して、ステラにそっと差し出した。(いたずら好きの奥様はきっとうまく花束を隠せるように練習をしたのだろう)

 その小さな赤い花の花束を見て、ステラは目を丸くして驚いた。

「これを私に、ですか?」

 ステラは言う。

「そうよ。いつもどうもありがとう。今日はあなたのお誕生日だものね。ステラ」

 奥様はにっこりと笑ってそう言った。

 確かに今日はステラの誕生日(奥様のお家にやってきた日)だった。

「ありがとうございます。奥様」

 ぽろぽろと泣きながら小さな赤い花の花束を受け取ってステラは言った。

「ステラ。あなたは私の本当の娘のような人です。あなたは私の家族なんですよ。いつも私のそばにいてくれて本当にありがとう」

 と奥様は言った。

「でも奥様。私はロボットですよ?」

 泣きながらステラは言う。

 そんなステラのことを奥様はいつものように優しい顔で笑いながら、黙ってしっかりとステラが泣き止むまで抱きしめてくれた。

 奥様からは、なんだかとっても優しい香りがした。

 それは、隠していた小さな赤い花の花束の香りだったのかもしれない。その優しい香りの中にステラは、花園で奥様と愛のお話をした日からずっと探していた愛を、ようやく見つけたような気がした。


 一番大好きな場所

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