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第16話 とかげのしっぽ。 ……、愛しているって、言ってください。

 とかげのしっぽ。


 月夜の森


 ……、愛しているって、言ってください。


 ある日、みみは村の掟を破って月夜の森の中に足を踏み入れた。それはみみのお母さんを助けるための行動だった。

 みみのお母さんは死にいたる病気になった。

 その病気を治すためには、月夜の森の中に住んでいるという、とかげのしっぽが必要だと、森の中に住んでいる魔女、ききにみみは言われた。(ききはみみと同い年の女の子の魔女で、みみは村のみんなとは内緒で、森の中でききに命を助けてもらったときから、ききと友達になっていた)

 だからみみはそのとかげのしっぽを取りに、真夜中の月夜の森の中に足を踏み入れたのだった。

 それは、とてもとても深い森だった。

 それは、とてもとても暗い、真っ暗な夜だった。

 月夜の森は、その名前の通りに、大きな白い月の明かりが差し込む、比較的夜でも明るい森だった。

 でも、今夜の月夜の森は違った。

 空に大きな白い月は見えなかった。

 空は暗く、真っ暗で、星の光はない。

 森は、完全な闇の中に包まれ、静かに沈黙していた。

 そんな中でみみはききからもらった地図を便りに森の中でとかげを探した。黒い体をしたとかげ。真っ暗な闇の中に同化するようにして、そのとかげは、森の中にある湖の近くの寝床に確かに、いた。

 ……いた。とかげだ。

 みみは思った。

 闇の中に慣れてきたみみの目にはかろうじて、その大きなとかげの体を見つけることができた。

 そのとかげはどうやら木の木陰で静かに眠りについているようだった。(今夜の、月夜の森と同じように)

 ごくん。

 唾を飲み込んでから、みみは身を隠していた草むらから出て行った。

 そうして、『正面からとかげにしっぽをください』と頼むことが、一番安全な方法だとききに言われたからだった。

 みみはそのききの言葉通りに行動をした。(みみはききを信じていた。村のみんなは誰も、魔女であるききのことを信じていはいなかったけど)

『誰だ?』

 とかげが言った。

 そう言ってから、大きな黒い体をした(まるで影が一人で動き回っているようだった)とかげがのっそりと、その巨大な体を起こして、みみを見た。

 目を開けた、とかげの目は、『真っ赤』だった。

 夜の中に二つの赤い瞳が浮かんでいる。(それは恐ろしい出来事が起こることを告げるような、星の光のようだった)その赤い目が確かにみみの小さな体をしっかりと夜の中で、捉えていた。

 ……とかげは、まるで物語の中で読んだことのあるドラゴンのようだった。

 あるいは、それは悪魔のような存在にも見えた。

「お願いがあります」

 震える体と震える声で、みみは言った。

『ほう、願い? 人間のお前が私に願いとは、なんだ? 言ってみろ』ととかげは言った。

 とかげの声はどこかに苛立ちのようなものが感じられた。あるいはみみに夜の眠りを妨げられたことで、とかげは怒っているのかもしれなかった。


「『私にあなたのしっぽをください。その代わりにあなたの欲しいものを一つ、私があなたに与えることができるものなら、なんでもあげます』」

 震える声で、でも、しっかりととかげの赤い星のような目を見ながら、みみは言った。

 その言葉はききから、とかげにあったらそう言えばいい、と言われた通りに言った言葉だった。 

『なるほど。私と魔法の契約をしたい、ということだな?』とかげは言った。

 それが魔法の契約なのかどうか、人間のみみにはよくわからなかったけど、みみはききに言われた通りに「そうです」ととかげに言った。(とかげにそう言われたら、そういえ、とみみはききに言われていた)

 するととかげは嬉しそうに小さな声で笑い出して、『いいだろう。そんな小さな体で、この森の深い場所まで、真夜中の時間に私に会いにやってきたのだ。その願い叶えてやろう』ととかげは言った。

「本当ですか?」

 嬉しそうにみみは言う。

 よかった。これでお母さんは助かる、と思った。(手に入れることが困難なとかげのしっぽは、それだけの価値があり、どんな難病でもたちどころに治る薬になる、と魔女のききは言っていた。みみはそれを信じていた)

『喜ぶのはまだ早い。しっぽはやるが、契約通りに私の欲しいものをお前から、一つもらうことにする。たとえそれが、なんであれ、な』にっこりと笑って、巨大な黒い影のようなとかげは言う。

 ごくん。

 みみは唾を飲み込んだ。

 みみの足は震えている。怖くて、怖くてずっと震え続けている。でも、大丈夫。覚悟をしてここまでやってきたんだ。たとえ、なにをとかげに要求されても私は大丈夫だ、とみみは思った。

「あなたの望むものはなんですか?」みみは言う。

 それは、私の命だろうか?

 ……それとも、私の魂、なのだろうか?

 そんなことを、みみは思う。

 するととかげは、予想外のことをみみに言った。

 それはみみの命でも、魂でもなくて、みみに『ある行動を約束させる』ものだった。

 その行動とは、『これから満月のたびに、この月夜の森の湖の湖畔にある、私の寝床にやってきて、私の話し相手になること』という不思議な願いだった。

「話し相手、ですか?」みみは言った。

『そうだ。話はなんでもいい。そうだな。たとえば、お前の普段の暮らしの話がいいな。今と同じ真夜中の時間にお前はここまでやってきて、それから、そんな話を夜の間、私とする。そしてお前は森が明るくなる朝の時間になって、この月夜の森から出て、村に帰る。それを私のしっぽが、元に戻るまで繰り返す。それが私の願いだ』ととかげは言った。

「しっぽはどれくらいで元に戻るんですか?」みみは言う。

『十年』とかげは言う。

「……わかりました。あなたの願いを私は受け入れます」みみは言った。

 するととかげは『魔法の契約はなった』といい、自分のしっぽをみみの目の前で力任せに引きちぎって見せた。(みみは、その光景を見て、目を丸くして、とても驚いた)


 みみはそれから魔法の契約の通りに、(二十歳の大人になるまでの)十年の間、満月の夜にとかげとお話をすることになった。


 とかげのしっぽ。 終わり

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