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天の星屑〈スターダスト〉  作者: 叶海なつ
第一章 水の流れに乗って
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6.ウォーターロード

「まずは町の方に出ないとね」


 湖を離れた私は、滝に向かっていた。町に出るには、崖を降りなければならない。私の元家は、この町を取り仕切る家で、崖の上、そして大きな池の上に位置していた。町は崖を囲うように広がっていて、町と家は川で繋がっている。家に用のあるものや、町の反対側に行くものは、流れている水の中を、魔法を使って移動していく。私は魔法が使えないので、いつも図書館に行く時は精霊に手伝ってもらって町に降りていた。今回も精霊の力を借りて降りるしかない。私がいた家には、遥か昔の先祖が町から家までの移動のために作ったと言われている魔法の池が存在する。その上に家は位置しているわけだ。そして時が経つにつれてその池はいくつも枝分かれし、現在は四方へ川が流れ、人々の移動手段となり、『ウォーターロード』と呼ばれるほど町の住民の生活に溶け込んでいる。


 森の中の湖や家の池、崖の上には他にも湖、沼、池、単なる水溜りなど、この地域には水が多く存在する。以前町に降りた時に耳にした話では、この町は水の町と呼ばれるほど水と縁があるらしい。


「よし、ぬけた」


  森を抜けて、家があるところまで来た。この町は、幻想界の南端。向かう方角としては北がいいだろう。図書館も丁度北の地域にある。鍵を探しに行く前にさっと本を返却しに行こう。


 町の北側に繋がる川の前までくる。本を抱えながら、目を瞑り、精霊に指示して川の中に飛び込んだ。


「水の精霊、町までお願い!」


 バシャン!!という音とともに、私の体は水に包まれる。目を開けると、水中の美しい景色が目の前に広がる。魔法の池だからか、透明度がとても高く、魚や本来池に生息できない海藻もゆらゆらと揺れていて、池の中なのに、まるで海みたいだ。水の精霊の力のおかげで、水中でも視界がぼやけていないし、息もできる。何回経験しても心が躍る体験だ。


 水中を眺めていたいが、あいにく夜になると図書館は閉まってしまう。そろそろ出発しようと体を滝の方へと向けて、泳ぎ出す。ウォーターロードの水流にさえ乗れば、私が何もしなくても勝手に北側の町に出ることができるのだ。


「では、しゅっぱっーつ!」


 ウォーターロードの水流に乗り、すごいスピードで水中を進む。少し進むと、反対側から中心の池へと向かってくる人たちが増えてきた。家に用のある人はなかなかいないから、きっと他の方角にある町に行くんだろう。向こうもかなりのスピードなので、顔なんかは本当に一瞬しか見えず、誰が誰なのかなんてわからない。まあそもそも町に知り合いなんていないんだけどね。


 水流に身を任せて少し。一分くらいで北側の町に到着してしまった。これが歩いてだとどうだろう。中心の池から崖があるところまで森を抜けて、そのあとに崖を降りないといけないからきっと一日はかかっていただろう。いやぁ、ウォーターロードって偉大だ。


「まずは、本を返しに行こう」


 北側の町には当然のようにウォーターロードが流れている。ちなみにウォーターロードの端は、この地域を囲うように円形になっていて、川の水は最後そこに溜まり、これまた先祖様の魔法の力で中心点である池へと水が戻るようになっている。


 北側の町は他の方角に広がっている町に比べて賑わっている方だ。なんせこの町は幻想界の最南。北が他の地域との交流門になっているのだ。だからマーケットなども頻繁に開催され、旅商人たちが他の地域や世界の食べ物やアクセサリーなんかを売っている。今日も例に漏れず賑やかなマーケットが開催されていた。ちょっと覗きたい気もするが、この世界の通貨であるペナは全くもってないので渋々諦めて図書館へと向かう。


 マーケットをしている通りを抜けて、右に曲がり、住宅を抜けて、少し先。北町の端に図書館はある。北町に住む子供たちは遊びやマーケットに夢中でなかなか図書館を訪れないのか、私がいつ来ても静かで寂しげな雰囲気を醸し出している。


 図書館自体は町にあるにしては大きめで、本もかなり興味深いものが多いと思うのだが……ここの子供たちはもったいないことをしてるよ全く。


「おじゃましまーす」


 重そうな扉を、私は本を抱えたまま片手で開ける。どこか違うところへ行くなら本を返したらまた借りるってことは難しいな。いつ返せるかもわからないし。


 ここの本がしばらく借りられないことにがっかりしながら、私はカウンターの方へと足を進めた。

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