3.人間じゃない!?
「はっ、いやでも待てよ」
拳を強く握りしめてどうにか気を保っていた私はふと一つの案を思いついた。
「寿命がないだけなら、自殺すれば死ねますね!!」
よし!これで解決!
「あ、それは無理よ」
「なんっっで!!」
立ち直ったのにまた崩れ落ちたくなった。矜持にかけてそんなことはしないけれども。
「さっき言ったけれど、ただの天人ではなくて、精霊の加護ましましなのよ、カナは。今までの生い立ちや生き様だけじゃなくて、そのちょっと緑がかった金髪も、キャラメル色の瞳も、精霊が好きな要素が色々あったせいね」
「精霊ってそんな見た目で判断するんだ……」
私の髪は確かに頭の上の方だけ少し緑がかって、黄緑になっている。だが、そこまで気にしたことはなかった。精霊の好みって一体……。
「その精霊の加護の中に、『不死の加護』があるわ。これはあなた自身も、第三者も、あなたを傷つけることは出来るけれど、殺すことはできない加護なの」
「迷惑だな……」
善意で加護を授けてくれてるんだけど、言われてくれ。迷惑だ。死なないなんて何よりも嫌なことをしてくれたよ。
「……人間って、不死になったら喜ぶものだと思っていたのだけれど、カナはそうではないのね」
私の方を見てそう言う女神に私は、ああ、と思った。
人間は、欲深い者が多い。自分がこうしたければ、誰が何と言おうとこうする、それが悪いことでも、自分の目的のためなら何でもしてしまう、そんな自己中心的な人物。勿論、善良な者たちもいるだろう。けど、善良な者にだって、悪い部分というのは存在するのだ。それが人間だから。短所がない人間なんてありえない。
そんな人間の中には、不老不死を願うものが多くいる、らしい。私はよくわからないけれど、本の中の人魚伝説や、魔法薬の記述を見ると、不老不死について書いてあることが多い。それはつまり、求めたものが多くいたということだ。
「なんでそんなことを願うのか、私には全くわかりませんよ」
「そうなの……私も長寿だけど、寿命なんてあまり気にしたことなかったわ」
「たしかに、女神様にはわからないかもしれません」
湖の女神なのだから、きっとずっと昔から、この湖を、この地を見守ってきたのだろう。それに対して、ありがたい、素晴らしいと思う者がたくさんいたはずだ。迷惑だ、いなくていいなんて思う人たちは、きっといない。
「寿命がない、というのは、地獄にずっといるようなものですよ。死という解放がない、生死は生命体の象徴とも言えます。それがないんです。それはもう人ではなく、化け物だ」
目を伏せて、考える。
この世に生きる人たちと、姿形は一緒なのに、決定的に違う存在。そんな存在だったのだ、私は。悲しくて、ちょっと受け入れ難いけれども、何故か納得がいくような気もする、不思議な感覚だ。
「はあ……この話はやめにしましょう!人間じゃないのはわかったので!いやですけど!死なないのも納得はいってませんがわかったので!」
「そ、そう……」
切り替えるように声を大きくして告げる私に、女神様は困惑している。
私が少しネガティブなことを言ったから、それを気に病んでいるのか。どうしようもできないことだし女神様のせいじゃないから気にしなくていいんだけど。
こういうときは話題転換だね!
「というか女神様!私の名前を聞くために湖から現れたんですか?」
「はっ、そうよ忘れるところだったわ!」
本当に頭から抜け落ちていたようで、危ない危ない、と女神様は呟いた。
うん、ちょっと声のトーンも上がった。気にはするけど、一旦置いておいてくれたのだろう。
「ごめんなさいね、忘れてたわ。私、あなたにお願いがあって顕現したの」
「お願い……ですか」
「ええ」
一体なんだろうか。魔法も使えない私にお願いとは。あ、枝打ちとかかな?ここはポカポカしてて木もすぐに育つからね。
「神星界のワールドゲートを開けてほしいの」
……。
…………。
「…………え?」
なんだって……?