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天の星屑〈スターダスト〉  作者: 叶海なつ
第二章 炎が示す道を
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35.勝手に成立してる

 私とコウヤの呆けた声。それを聞いたアエスタースとアウトゥムの不思議そうな声。シン……と辺りが静まる。それは裏腹に、私の頭の中は大混乱して騒動を起こしていた。


 な、なんだ一体今何が起きた??気のせいか、うんきっと気のせいだ私の頭の中なのにコウヤの声が響くわけないじゃないかそうだろう?会話が出来てたなんて気のせいだ、気のせいじゃなかったら最悪だよこんな性格の悪いやつに頭の中覗かれてるなんて!いやあっちの声も聞こえたからほぼ一心同体的な?嫌だな誰かどうにかしてくれ。


『……俺だってお前と思考共有なんてごめんだが??』


「あああああああ~~~~!!!」


「わ、なにどうしたの!?」


「火のこ、お前何かしたか?」


「俺のせいじゃねえ」


「君のせいだが!?!?」


 しらばっくれるコウヤに私は反射で叫んだ。頭の中でコウヤの声がしなければそもそも混乱していない。なに棚に上げているんだか。


「というかお前こそなんかしたんじゃないのか?」


「してませんが!?」


 むっ、とした顔でそう言われる。私が自ら君と思考を繋げたって?そんなわけあるか!


「えっと……さっきから二人は何の話をしているの?」


 私たちの様子を不思議に思ったのだろう、アエスタースが聞いてきた。眼の中にいるけど、アエスタースにコウヤの声は聞こえていないみたいだ。


「なぜか頭の中に、コウヤの声が響いてて」


「同じく。口を開かなくても声は聞こえた。心の声かなんかだろ」


「おや」


 私たちの話を聞いたアウトゥムが声を上げた。もしかして、この現象について何か知っている……?


「どうやら、火のこと水のこで、契約が成立してしまったみたいだね」


「あ?契約?」


 コウヤが聞き返す。私はアウトゥムが言った契約に、一つ心当たりがあった。


「ま、まさか、『冥利の契約』……」


「水のこは知っていたか、知恵の精霊の眼を持っているだけあるな。その通り。お前たち二人の間で『冥利の契約』が成立したんだろう」


 知恵の眼っていうか、アエスタースに教えてもらっただけだけど……と思ったが、知恵の眼=アエスタースなので間違っことは言ってないか、と口に出すのはやめた。

 そんなことよりも。やはり私とコウヤの間で契約が結ばれてしまったらしい。なかなかレアな契約だったと思うんだけど……こうも簡単に結ばれると本当にレアなのかと少し怪しんでしまうな。


「『冥利の契約』ぅ?なんだそれ」


「簡単に言うと火のこ。お前は生き返った」


「は??」


 うん、そりゃあそんな反応になるわ。説明が足りなさすぎる。


「カナの寿命を半分こして、アナタは生きるのよ。カナの運命共同体としてね」


 アエスタースの説明を聞いても、コウヤは信じられない、といった様子だった。いや、信じられない、というか信じたくない、っていう顔かな……?固まっているが、茜色の瞳は不安定に揺れている。何故信じたくないんだろう。


 ああ、ちゃんと人生を謳歌して死んだからか。なのにまた浮世に戻れっていうのは確かに嫌だよね。


『違う』


 違うの?


『お前は嫌じゃないのかよ、寿命が縮むんだぞ。お前の人生だ、俺に半分奪われていいものじゃないだろうが』


 コウヤの諭すような声が、頭に響く。

 

 驚いた。まさか私のことを考えてくれていたなんて。すごく優しい人なんだな。ほかの人にこの本音が聞こえないのが勿体ない。聞こえなかったらただ性格が悪いだけじゃないか。


『うるさい』


 というか、コウヤは私の人生を気にしてくれているみたいだけど、別に気にするようなことじゃない。人ではない私は、知らぬ間に化け物になり、寿命という、死という、生命の証がなくなってしまった。半分に分けたところで、ないものはないのだ。寿命がない以上、時がいくら過ぎたって、私が死ぬことはない。だからそこまで真剣に気にしなくてもいい。


『寿命がない……?』


 そうらしいよ。実感は湧いてないけど、そうみたい。でも、普通の人間とは違うから、気楽に考えてよ。


 そう頭の中で言ったものの。浮世に満足して死んだであろうコウヤに、無限の生を私が与えてしまう。これは、私の中で、大きな罪になるだろう。世界の理から外れた、他者を化け物にする行為。神のつくった契約だが、人一人の命を無限に延ばすのは、神でもきっと許さない。いっそ罰として殺してくれればいいんだけどな。


『別に俺は、浮世に満足して死んだわけじゃない』


 コウヤが言う。


『むしろ逆だろうな。未練しかないまま死んだ。俺は自分を人だと思っていた。けど周りから見たら違った。鬼の血が混じっている、化け物だと。俺の親はどっちも人間なのに俺は鬼の血を持ってた。だから村を壊す化け物だと処刑されたわけだが、鬼人だったせいで冥界に着いた途端地獄に飛ばされた。本当ふざけてるよな。好きに放浪してたらいつの間にか眼に変なのいるし』


 想像できないほどの人生と、苦労の連続だ。その身にどれだけのおもりを背負って生きてきたのだろうか。


 鬼だから、化け物、か。


 好奇心のままに行動し、時に怒り、けれど根は温かい青年。


 私には、人にしか見えないんだけどな。

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