2.湖の女神
「ちょっと何を言ってるの、違うでしょう」
「なにが!?!?」
しっかりと女神様の目を見て名乗り終えたら、何故か否定が返ってきた。
貴女の方から聞いたのに、否定するんですか!?私間違ったこと言ってないんですけど!?
「カナ、という名前なのね。それは初めて知ったし、間違いではないでしょう。名前を知れて嬉しいわ!」
「は、はあ。……ん?ということは」
名前は合っている、でも違うところがある、それって、ただの人間ってところが間違ってるってこと!?
「そうよ、その通り!あなた人間じゃないわ!!」
「心を読まないで!?というか、え!?はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
大声が森に響き渡る。鳥が羽ばたく音も聞こえてきた。ごめんよ鳥さん、けどそんな配慮をしていられないんだ!!
「人間じゃない!?何言ってるんですか!!」
くわっ、と目を見開き私は女神様に詰め寄った。
「見てくださいよ、どっからどう見ても人間でしょう!?うちの親はどっちも人間だったし!!まあ普通の人間と違って私魔法は使えませんけど!?それだけで人間じゃないってことですか!?それはひどくないですか!?差別!差別ですよ!?!?」
「ちょっと落ち着いてちょうだい!」
「落ち着いていられません!私十六年人間でいましたよ、ええ!それなのに人間じゃない!?どこをどう見て言ってるんですか、いつ私が種族チェンジしましたかというかそんなことできるんですか、あ、死んだらできますね。っじゃないですね、私死んでないですし!?つまりどこをどう考えたって人間「一旦止まりなさい!!!」……はい」
女神様にかなり怖い顔で怒られて、私はしぶしぶ喋るのを止めた。納得はいってない。
そのことを女神様はわかっているのか、はあ、とため息をついた後、人差し指を立てて説明し始めた。
「まず最初に言っておくと、あなたは生まれた時から人間じゃないわよ」
「は?」
完全に想定外の言葉を言われ、ポカン、としてしまう。
いやだって、さっき言ったけど、私は生まれて十六年ずっと人間として生きてきた。それが、最初から人間ではなかった……?
「いやじゃあなんなんだよ!!!」
思わず叫んでしまった。しかし誰だって叫びたくもなるだろう。自分が何者なのか、種族すらわからなくなってしまったのだから。
爆弾を落とした女神様は、私がかなり取り乱している様子に目をぱちぱちとさせている。
「自覚がなかったのね、カナは天人……天女ってやつよ」
「天女……本で読んだことがあります、人間よりちょっとすごいやつですよね」
図書館で借りた本に、種族について書かれていた本があった。
この世界は、三世界と呼ばれる三つの世界に分けられている。昔は一つの世界だったんだけど、色々あって分断されてしまって三つに分かれて今の三世界になったみたいだけど。
左の世界、『夜光界』は、妖怪や悪魔、魔獣などが住んでいて、人間は滅多にいない。ここ、右の世界『幻想界』は、主に人間たちと精霊が暮らしている。といっても、人間の暮らしを、精霊たちが見守ってるって感じで、交流とかがあるわけじゃない。そもそも人間で精霊が見える人の方が少ないらしい。そして三つ目の世界、間の世界『神星界』は、星々に見守られた世界で、妖精、エルフ、位の高い精霊などが暮らしているらしい。
三つの世界は分断されたあと、船によってそれぞれの世界を行き来している。各世界にあるワールドゲートを通れば、交流が可能ということだ。まあ今幻想界が交流しているのは夜光界だけみたいだけど。
女神様は私を天女と言った。天女……天人というのは、言ってしまえば天に住むもの……天使や仙人と人間のハーフ、である。他にも鬼人という鬼と人のハーフであったり、歌人という精霊と人のハーフだったりがいる。
「つまり、私の親のどちらかが天に住む人だったってことですか?」
「いいえ?あなたの両親はどちらも人間よ」
「???」
ちょっと何言ってるのかわからない。天人って言ったじゃん!?
「んーと、ちょっと特殊というか、特別というか……それに精霊の加護のおかげで寿命がない、特別な天女でもあるの」
「おかげ、じゃなくて、せいで、の間違いじゃないですか??」
脳内の処理が追いつかない。
今の話をまとめると、私は特殊で、生まれた時から人ではなく天女で?いつもキャッキャッウフフしてた精霊たちの加護のせいで寿命がなくなっている、と。
…………。
「いやふざけんじゃないですよ!!?!!?」
「なんか言葉がおかしいような……大丈夫?」
「大丈夫じゃないです!!!」
寿命がない……だってそれはつまり。
「死なないってことですか!?私!!永遠に生き続けるんですか!?!?」
「まあそうなるわね」
「そうなるわねで済ませていい問題じゃないですよ!!」
あああああああああ〜〜!!!と膝から崩れ落ちて泣き叫びたい。けどそんなことしたら目の前にいる女神にあらあら、とか言われて笑われる気がするから拳を握りしめて耐えた。