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天の星屑〈スターダスト〉  作者: 叶海なつ
第一章 水の流れに乗って
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1.あたたかな日常

 太陽の光が差し込み、ポカポカとあたたかい。裸足になって湖に足を入れ、町の図書館で借りた本を読む。魔法について簡単に書かれている児童用の本だが。


「えー、なになに。『水の操る魔法、初歩の初歩なので呪文はないよ!杖を水に向け、頭の中で作りたいものをイメージしよう!』いや杖なんてないけど?」


 まあその辺にある木の棒でいいか、と湖から足をあげ、その辺に落ちている杖っぽい木の棒を拾う。


 拾った棒をふんふんと振りながら湖まで戻り、湖に杖を向ける。


(イメージ、イメージ……え、なにを?こういうときはとりあえず丸か、球体、球体だ!球体をイメージ!)


 頭の中で水が球体になるイメージ。本にはこうするだけだと書いてあったから出来るはず!!


「いや……全然出来てないし」


 しかし、湖はうんともすんとも言わず、勿論球体になることなんてなかった。


「また失敗かぁ」


 がくりと項垂れる。


(まあ、わかってはいたけど)


 これまで水魔法の他にも、火魔法、花魔法、草魔法、風魔法など、誰でも扱える『共通魔法』と呼ばれる魔法は、全て試してきた。

 けれどいくら試しても魔法が発動することはなく、ただ私が無意味に木の棒を振っているだけ。

 町に本を借りに行けば、五歳くらいの少年たちが風魔法を使って紙飛行機を遠くに飛ばしているのを見るし、森で食べれる植物や木を探していれば、花畑で少女たちが花魔法を使って花冠を作っているのを見かける。

 これはこんな魔法だ、ああやって使えばいいという知識だけが身についていく。いい事なんだけれども。それでも、知識があっても、使えないのが酷くもどかしくて悔しかった。


「私はどうして魔法が使えないんだろう」


 そもそもそこを潰さないとどうにもならない気がする。魔法が使えれば、家から追い出されることもなかっただろう。いや、あんな窮屈な家こっちから願い下げだから全然気にしてないし、その点に関してだけは魔法が使えなくてよかったと思うけど。


 はあ、とため息を吐くと。


 バシャン!!と水が跳ねる。


「うわ!?水の精霊だな!?驚かせるのはやめてっていっつも言ってるでしょ!?……ってああーーー!本が!!」


 私は急いで本を拾った。図書館で借りた本がびしょ濡れになっている。さっき水の精霊が湖の水を跳ねさせたからだろう。いやまあ、近くに置いていた私も悪いんだけど!!


「もーーう!風の精霊、悪いんだけど乾かしてもらえるかな?」


 そう私が言うと、ふわ、と頬を優しい風が撫でる。そしてその風は本の方へと行き、パラパラパラ、と本のページが捲れる音が響く。


 そしてあっという間に本は元通りの状態になった。


「相変わらずすごいね。ありがとう。助かったよ」


 私は本を撫でながらそう言った。


 今いたずらをしたり、本を乾かしてくれたのは、この森に住む精霊たちだ。

 精霊は人のいる町、森、海などなど、いろいろなところに存在する。ただしどこも居心地がいいと判断したところで、自然が崩壊していたり、人間たちが荒れていたりすると精霊は棲みつかないし、いたとしても離れていく。

 私は何故か、精霊たちを感じることができた。私自身魔法が使えないから、何か困ったことがあったら精霊が力を貸してくれていたのだ。けれど森を抜ければ精霊だって変わってくる。ここの精霊たちは多分、私のことを仲間だと思ってくれているから力を貸してくれるんだ。他の精霊たちが私に友好的かと言われるとわからない。だからこそ、自分の身を守るため、魔法を使えるようになりたいんだけど。


「何年経っても魔法は使えないまま、剣の腕くらいあげようと思って練習はしてるけど、相手は精霊だから当たってるかなんてわからないし……」


 せめて剣くらい、と木から大きめの枝を一ついただいて、風の精霊に丁度いい感じに切ってもらった木刀で精霊たちに相手をしてもらって練習はしていた。時々、森に入ってきた悪い魔物を倒したりもしてはいるが、これも精霊たちの手伝いありでの話だし。


 私が六歳の頃、優秀であることを望む私の家庭は、いつまで経っても魔法が使えるようにならない私を見限って、家の裏に広がるこの森に私を捨てた。この森は呪われている、という言い伝えがあるせいで人間は寄りつかない。全然そんなことないと思うけどね、動物たちも精霊たちも優しいし。かれこれ十年、私はこの森で動物や精霊たちと暮らしている。そんな生活の中で、一度だけこの森に私以外の人が来たことがあった。


 確か私が森に住んで二年くらい経った頃。湖で遊んでいたところに、私と同じくらい、もしくは少し年上くらいの少年がやってきたのだ。顔には傷がついていたし服はボロボロ。少しオレンジ色の髪が混じった綺麗な赤髪もボサボサで、何事かと思った覚えがある。少し話して仲良くなり、何故そんなことになっているんだと聞いたら、兄弟と喧嘩したとか何とか言ってた気がする。


 その後も少し話したあと、そろそろ帰る、と少年は言った。負けっぱなしじゃ終わらないそうだ。いや、何か策を考えなければまた負けるのでは?と思わなくもなかったが、闘志に満ちた瞳をしていたので何も言わなかった。その彼に言われたのである。


 「次会ったら、勝負しようぜ」と。


 魔法が使えないとはいえ、負けたくないものは負けたくないので、剣で勝負しようと考えついて今に至るのである。


(今の状態であの少年にあったら……負けるだろうなぁ……)


 ぼやぁ、とそんなことを考える。絶対に負けたくないのに。ただ自分たちの身の上話をして、ちょーっと仲良くなって、勝負の約束をしただけなのだが。


「はあ、ちゃんと魔法を教えてくれる人を探したほうがいいかな」


 ボソ、と私が呟いた時。


 バッシャーーーーーン!!!と、湖から水が噴き上がった。反射的にバッ、と湖の方を向く。


「え、なになになになに!?また精霊のいたずら!?それにしては派手だね!?」


 一人この現象について叫ぶ。どうせまた精霊のいたずらなのだから、返事は返ってこないのだけど。


「あら、そんなに派手だったかしら?」


 湖の方を向いたまま固まる。水飛沫がなくなり、湖全体が見えるようになったと思ったら、そこには女性が立っていた。湖の上に、体が水でできた女性が、こちらを見て笑っているのである。


「どなたですか!?!?」


 どう考えても怪しいったらありゃしないので、バッ、と距離を取り名を尋ねる。


「うふふ、名前ね。色々ありすぎて忘れちゃったわ。一つ言えることは、私がこの湖の女神だということよ」


「湖の女神!?」


 笑ってこたえる女性に私は驚く。え、この湖神様なんていたの??ということは今まで精霊だと思っていたのはこの人だったと……?


「え、ええと、今まで随分と気安く接してしまって……かなり無礼なこともしてきた気がしますし……すみません」


 私の頭の中には、自分が水を操れないからって「これだから水はぁぁぁ!!」と水にあたったり、怒らせればいいんじゃないかと血迷った結果そこらにあった石ころを湖に投げたりした記憶が流れる。


 え、めっちゃ怒ってるってこと!?だから出てきたの!?


「そんなことどうでもいいわよ!」


「え、どうでも……」


「そんなことより!長いことあなたと一緒にいるのに、私あなたの名前知らないのよ!?私は名乗ったんだから、今度はあなたが名乗ってちょうだい」


「ええ……」


「今までの無礼は、それで許すわ」


「ここでそれを引き合いに出すんですか!!」


 この女神様、かなりの自由人というか、わがままなお嬢様みたいというか……お世話になってることも無礼があったことも本当だけど。


 まあ、名乗るくらいならいいか。


「私はカナ。魔法の使えない、ただの人間ですよ」

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