インフレは政権与党にとっての逆風 ←NY市長選挙で極左ポピュリスト勝利の理由(少し不安…)
NY市長に急進左派マムダニ氏 三つの首長選でトランプ氏に逆風
https://mainichi.jp/articles/20251105/k00/00m/030/302000c
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常日頃から「インフレは政権与党にとって逆風」と言い続け、カネ(の流れ)を見れば政治が判るという話をしてきたのですが、今回もまたそうなりました。
今回、米国で行われた選挙はトランプ政権一年間の成果に対する有権者の判断とされ、また同時に来年の米国中間選挙を占うもの…と言われてきました。結果は「トランプ政権はインフレ対策に失敗した。よってトランプor共和党 (←政権与党)にとって逆風」となる結果で終わりました。特にサプライズはない結果です。
ただし中身は少し検討の余地があります。NY市長選挙と他の2つ(バージニア州・ニュージャージー州)の結果は意味が違うからです。
NY市長に選ばれたマグダニは元ラッパーの極左であり、アフリカ生まれのインド系イスラム教徒のようです。反資本主義かつ反イスラエル的言動が目立ち、事実、反シオニズム的言動もあったとされています。他方、2州の選挙においては中道左派穏健派の女性二人が当選したようです。
ここで論議されているのは民主党内での穏健派は極左派との内部分裂であり、極左の強いNYではマグダニが勝利、他は既存勢力系の民主主流派の勝利と今のところ考えられています。
確かにNY市はカリフォルニア市と並ぶ極左のメッカであり、今回のNY市選挙においても「意識高い系女子」いわゆる「KATE」〜反米的・親極左的思考を持つ攻撃的かつ独善的なWoke女史と、インド系・イスラム系市民の支持によって勝利したとのことでした。
得票数を見ると比較的興味深く、NY市有権者の2/3が民主党支持者という「左翼だらけ」の風土ながらマグダニはせいぜい50%くらいしか投票率を獲得出来なかったようで、民主党支持者の中でも極左vsエスタブリッシュの分裂が進んでいたことを伺わせます。逆に言うとKATEと南アジア人らの支持もあってか、無党派の多くがマグダニに入れたために勝てた…という感じのようです。
とはいえここでも2つ話をしなくてはならず、まずは対抗馬たるクオモが余りにもどうしようもない人物で、隠蔽・陰湿・パワハラ・セクハラにしてカネの問題まで抱えるという、日本の某兵庫県知事が可愛く見える程のどうしようもない人物であって、まともな選択肢がなかった…という事と、もう一つはマムダニの主張が「NYにおけるインフレ対策」に特化しており、反トランプ的言動さえあまりなかった…という事が非常に重要かと思われます。
実際、マグダニの政策は「バス無料化」「低所得層の住宅費無償化」「教育費無償化」という、まさにNY市民が日々苦しんでいることに対する(マグダニなりの)回答を提示したことは極めて魅力的だったと思われます。その意味では、富裕層に重課税という事以上に「如何にNY市での生活が地獄か?」ということだったと推察されます。
今後、マグダニがどういう市政を展開するのかは不明で、前述の彼の公約は「ほぼ不可能」とは思うものの、ここでもインフレによりトランプ政権および民主エスタブリッシュメント派という「与党」が負けたと言って良いかと思われます。
ただワイ的には2025年現在、全世界で極右・極左のポピュリズム勢力が台頭していることは結構不安で、ほぼ100年前の世界大恐慌→ナチズムの台頭および全世界のブロック経済化の危険な流れを再現しているようで不気味です。どの世紀でも20年代の10年間は大混乱のDecadeであり、大きな地政学上の問題の発端となることが多い10年なのですが、その殆どが「カネ」の問題と言えます。
1720年代はフランスでミシシッピバブルとその崩壊、英国では南海泡沫事件があり、1820年代は第一次産業革命が欧州にて発生、1920年代は米国バブルとその崩壊による世界大恐慌→世界戦争の流れ。そして現在の2020年代は極右・極左の台頭とグローバリズム崩壊の危機という感じです。
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補足になりますが、1820年代は欧州において科学技術と経済が初めて結びついた時代と言われ、特に重要な時期とされています。シュンペータら19世紀〜20世紀を彩る経済学者らが注目する時代で、それまで蓄積されてきた科学技術の進歩とブルジョワジー社会の勃興と民主化 (非封建主義社会)、フランス革命の収束にともなう欧州人の意識改革だけでなく、英国などが主導した対仏経済制裁などから資金と資本の本質的な意味が理解され、また国家による経済競争と投資概念の確立…という、現代社会の基礎となる考え方が固まった時代と言われています。ワイもそう思います。
加えれば、これから一世紀くらいまでは欧州で大陸間大戦争がない平和な時代であり、このために市民社会が成熟する余裕が生まれた…ということも大事と思われます。なぜなら市民社会 (民間)にカネが蓄積されることになるからです(貧富の格差は残りましたが…)。
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こう考えると各世紀の20年代はカネの蓄積とバブル(とその崩壊)の時代であり、まさにカネで考えて初めて理解できる10年間といえます。これは2020年代でも同様で、1980年代から続く管理通貨制度により、全世界が国債発行をベースに多額の資金を生成し、この結果、それまでの人類史ではありえないほどの経済成長を成し遂げてきた時代である反面、世界の各国政府は返済不能なレベルの多額の債務を抱え、民間は貧富の格差と激しいインフレに悩まされる…という、ある意味単純な、ただそれだけの時代でした。
管理通貨制度が固まった1980年以後、国債増発による民間への資金供給量の飛躍的増加の結果、世界経済全体が指数関数的に増加していったことが判る図
経済産業省「第2節 グローバリゼーションによる世界経済の発展」より
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/2020honbun/i2220000.html
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カネで国家を見れば、そういうことです…m(_ _)m
20世紀はこのインフレの管理の失敗と経済破綻から極右・極左ポピュリストの台頭を招き、挙句1億人が死ぬ大戦争になりました。今後、我々が第三次世界大戦を迎えるかどうかは不明ですが、流れは「悪い」というしかなく、世界経済の中心地であるNY市においても極左ポピュリストが政権を採る…というのは、ワイに言わせれば「右のヒトラー、左のマグダニ」程度の違いでしかありません。
特にワイのようなグローバリスト・新自由主義者にとっては居心地の悪い世界になっています…(T_T)
とはいえ、他の2州においては穏健派女史が勝利しています。これはリベラルにとっての希望と言えそうです。彼女たちが勝利したのは「トランプがインフレ撲滅に失敗した」という、ただそれだけです。実際、彼女たちの選挙戦略は有権者の生活苦に対する問題提起と州政府としての解決策で、特に過激な主張はありませんでした。経済にのみ特化した選挙戦略で、この意味では反トランプ政策といえる選挙戦でした。
なら今後の政治はトランプがインフレにどう向き合い、米国市民の生活苦をどう解決し米国経済をどのように上向けることができるか?…にのみかかっています。極右・極左の台頭はインフレが原因であり、解決できなれけば米国および全世界が厳しい状況になるでしょうね…
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今後の流れですが、インフレは政権与党の宿痾の敵なので米国においてはトランプ政権は非常に苦戦するでしょう。なにしろトランプの経済政策は「全部ダメ」というほど酷いものばかりで、1年経ってもインフレを抑圧出来ず、また市民生活も苦境のままで景気も上向いているのかどうかも微妙で株価だけが上昇している…という感じです。株価は現実には通貨供給量に左右されるため実体経済を反映してるとは言い難く、逆にいえば株価上昇≒インフレの結果と考えるなら、インフレによっていずれ経済成長が見込めるのだから「株価は将来の実体経済を予言する」程度なのかもしれません。現在の株価は世界的に非常に高く、しかも2025年8月くらいから顕著に爆伸びしてるので、「今後ともインフレ成長が続く。つまり物価高に悩まされ、生活苦が数年は続くのではないか?」という予想が一番可能性が高いと思われます。
この状況だとトランプ政権は苦境に追い込まれるのは必至。そもそも中間選挙は政権与党への批判的評価が出やすいとされてます。要するに、与党不利ということです。んで、トランプがインフレ退治に失敗し続けるのならば来年の米国中間選挙はトランプにとって悲惨な結果になるでしょう。上院・下院ともに民主大躍進という結果です。これは十分あり得る未来です。政治はインフレで決まるものであり、カネでみればそうなります。
しかしトランプはもともとバイデンのインフレ政策の失敗による米国市民の生活苦を背景に大統領職に返り咲いたのであり、事実、トランプも「バイデンの失敗」を連呼し続けています。バイデンによって生活が苦しくなり、米国は弱くなった…と言い続けてきたトランプが、中間選挙までの2年間で立て直すことが出来たのか? つまり「インフレ退治に成功したのか?」が来年の中間選挙の争点の全てです。
「玉に付けた傷は磨けば治るが、言葉につけた傷は治らない」とは中国の史記の故事ですが、トランプがインフレを撲滅し米国市民を「約束の地」へと導くことが出来なければ、今度はインフレがトランプを殺しにかかるでしょう。所詮、政治とは経済のことであり、経済とはインフレとの対峙の仕方…に尽きます。国家はカネで考えるべきなのはそういうことです。
無論、ワイは心の優しい新自由主義者なので、マグダニ氏にもトランプ氏にもエールを贈りたいと思っています。両人とも、利口なポピュリストであることを祈りたいものです。
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【2025年11月22日補足】
トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談-「多くの点で見解一致」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-11-22/T63JYCKJH6V400
両人ともなかなか利口なポピュリストだったようです(笑
極左と愛国者、民主党と共和党、イスラム教徒とクリスチャンという「越えられない壁」とされていた二人が仲良しになったみたいですw
マムダニ、まずは上々の滑り出し。トランプを手なづけにかかって成功したようです。多分、トランプとしてもマムダニを懐柔出来るものならそうしたい…と考えていたのでしょうね。どちらもなかなかのポピュリストです。
ポピュリストというのは偏狭で狂信的な教条主義者か、さもなければ宗教や政治的な立場・人種や信念などガン無視で自分の利益だけを追求する日和見主義者のどちらかに偏りやすいのですが、彼らは後者の方らしいです。少なくともマムダニは民主党の極左よりもトランプに近い人種のようで、この柔軟さはむしろ米国民主党の極左に必要なのかもしれません(いや、全然良いとは思わないけどさ…)。
マムダニ、なかなかのしたたかさ。政治家としては正解で「魅力的」でもありますね。意外と見どころがあって面白そうな人物です。最初の一歩は100点満点。この後は、ますますお手並み拝見…という感じですかね?
もう一つ。中間選挙1年前からの世界景気を占う米国景気のアナロジーについて少しだけ…
米国政治において大統領及び上下両院で民主・共和の有力勢力が異なる「ねじれ」の状況では株価の伸びは良く、逆に上下両院ともに共和党優位のトリプルレッドもしくは両院ともに民主党優位のトリプルブルーのときには冴えない結果なのだそうです。
ちなみに今はトリプルレッドの状態。投資している人たちにとってはあまり楽しくない1年になるかもですね…




