2025年7月23日(米国時間)に妥結した日米関税交渉における5500億ドルの対米投資についての雑感_φ(・_・
2025年7月23日(米国時間)に懸案だった日米関税交渉が妥結しました。
「米国の指示で5500億ドル投資」 日米関税合意、米側が詳細公表
https://www.asahi.com/articles/AST7S2F7TT7SUHBI00XM.html
要するに対日関税25%を15%に下げる代わりに、日本は米国産の農産物など80億ドル(約1.2兆円)分を買いコメの輸入を75%増やすと明記したという内容で、いつものトランプトレードらしく「トランプが気に入らなかったら25%にするかも」とか「防衛予算増額などは含まれない」とか結構テキトーなままで、さしあたりトランプは支持者相手に…
「日本に妥協させたった(^^)v」
…と自慢したいがための内容になっています。
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とはいえEU諸国は「日本のこのやり方は凄い(゜д゜)!!」と非常に評価が高く、今後、トランプ相手にするときのメルクマールとなるほどの良いディールだったとされています。
コラム:〔BREAKINGVIEWS〕米関税の「ひな形」崩した日本、強気姿勢に海外から静かな称賛 _ ロイター
https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/LLJTKATEMRJRJB6Z4HOYQOA23Q-2025-07-23/
実際、米国自動車業界では「日本が勝った(激怒)」という内容で、また日本でも極右・極左の識者などから「日本の敗北」みたいな事を言われている事を鑑みると「日本にとってメリットはあった」と評価してもよいのではないかとワイも思います。あと赤澤大臣、総理総裁選への道筋が開けたと言えそうです。おめでとうございます。
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また韓国の中央日報には、なぜか日本よりも詳細な交渉内容が書かれていまして…
ペンを取りその場で「4000億→5000億」に書き換えたトランプ氏…交渉写真が話題に
https://japanese.joins.com/JArticle/336712
…ただ中央日報は結構トバし記事書くのでどこまで信用してよいのかわからないのですが、しかし彼らの内容をそのまま信じるのなら、日本の対米投資額は当初は4000億ドルだったものをトランプが即興で5(000)億ドルと書き換えた挙句、さらに500億ドル追加出資させたとか、もともとの(仮)合意文書では対日関税率10%・利益共有50%とされていたものを「トランプ大統領は日本に適用する相互関税率を15%と発表した。パネルに書かれた10%から5ポイント上がった。日本の5500億ドルの対米投資後に米国が得る利益配当と関連しトランプ大統領は米国が90%を持っていくとしたが、これもやはり当初パネルに書かれた50%から40ポイントも上がった」とされ、また自動車・医薬品・半導体関税15%だったものが、ここでも医薬品と半導体の上に「20%」とトランプの指示で書き換えた…とか、「本当、トランプいい加減にしろ(怒」的な話ばかりです。
その他もろもろ日本側が譲歩させられたような内容ばかりですが、そうは言っても本丸だった自動車関税に関しては15%くらいに抑え込めたはずなので、「よいトレードだった」という事なのではないかとワイは思います。いまの円安に加え、米国などでの激しいインフレの結果の労働賃金の爆増を考えれば関税率15%に抑え込めたなら自動車など力のある産業なら、なんとかダメージを吸収できるのではないかと期待させる数字であり、実際、このトレードが成立した直後の日本では日経平均株価が急騰。史上最高値の42000円台に乗せただけでなく、翌日の米国ダウも日本との交渉妥結の内容が良かったことと、今後の他国も日本の強気+大幅な妥協で綺麗に手打ちをするというやり方を見習うのではないかという期待から爆上げになったというのですから、双方にとってGood & Big DEALだったのではないでしょうか?
トランプ爺さんも喜んでくれたみたいですからね(^^)/
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さてさて、一つ気になるのは米国との約束の一つに対米投資5,500億ドル(1$=¥145-なら約80兆円)の投資の約束ですが、ラトニック商務長官曰く「日本の5,500-億ドルの投資先は未決定」だそうです。また時期も決まっていないようです。。要するに「空手形」みたいなものですし、何より金額が約80兆円と大きいために日本でも反グローバリズム+反米に染まっている極右・極左な人たちを中心に…
「日本国内が貧乏なのに米国にカネくれてやるのか…(ꐦ°᷄д°᷅)!!」
…的な意見も散見されます。
ですが実際には、日本は既に官民合わせて毎年100兆円近い規模の投資を行っており、しかも多くが製造業への投資という、まことに米国にとってはありがたい「出資者」と言えそうです。
2024年の対米直接投資額は5兆7,000億ドル、日本が6年連続で首位
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/07/9a037d3e9075944b.html
日本としては、米国への投資は(たとえ円安が続いたとしても)引き続き魅力的であり、結局、「アメリカ」ほど安全な「資産」は無いためにこれだけの投資が続いているものと思われます。なので今回の80兆円の投資約束は結局は果たされるのではないでしょうか? 少なくとも長期的にみれば、80兆円の積み増し対米投資は普通に行われるものと思われます。とはいえ、この約定では日本の政府系から80兆円のカネを出す…と解釈されているようです。日本の全民間からなら80兆円を出すのは数年かければ問題はないとはいえ、政府系となると少し話は別です。
ワイが思いますに、このカネの出所は主に「日本政策投資銀行」「国際協力銀行」などの政府系金融機関かと思われます。これらは国策銀行であり、おそらくは日本政府系金融機関などが保有する日本国債等の債権+債権利回り等のインカム・キャピタルゲイン(←現金)を原資として自社で円建て債や外債 (外国通貨建て債権)を発行、資金調達と供給を行います。
具体的には日本企業に対して債権を発行し(=購入してもらうことで)企業に資金を提供したり、もしくは日本企業が民間金融機関などから融資を受けた時の担保保証をしたりなどを通じて民間による対外投資の支援をするというものです。
特に国際協力銀行は日本輸出入銀行を前身としており、この2社はこれまでに国内外で外債を始めとして多数の資金需要を賄ってきた実績があり、国内金融機関・証券会社だけでなくパリバ・JPモルガン・モルガンスタンレー(モルスタ)・ドイツ銀行やバンカメ(バンク・オブ・アメリカ)等を幹事引受業者としているために、信頼と実績は抜群ということになります。また外債はこの他にも(準)政府系として地方公共団体金融機構というのもあり、ここも結構ポンポンと外債を建ててるので、こちらもこっそりと使われるかもしれません。
要するにこれらの政府系銀行を使って民間の対米投資を促進する…というのが基本かと思われます。
この他にもGPIFや、日銀が保有する国債を原資とする「国債整理基金特別会計」という事実上の国策ファンドからの資金も含まれるのかもしれません。GPIFはワイら国民の年金の一部を原資とし、国内外に広く投資してリターンを得るというものです。既に250兆円規模の資産をもつバケモノファンドです。おそらく世界的にみても最大規模でしょう。
この他に特会があり、こちらは特に謎の多い組織です。我々の税金+国債によって賄われている「一般会計」で、こちらは大体100兆円規模なのですが、これ以外に「特別会計」という謎の予算が存在しています。以前はよく「打出の小槌」といわれたもので、地震や集中豪雨などの大規模災害時に何故かポコッと湧いて出てくる「出所不明のカネ」のことです。こちらは特会法により国会の審議を経ることもなく、しかも250-300兆円近い予算規模になっているという異常なカネの出し入れです。
ワイが思いますに、日銀などが保有している日本国債を基本として、これをダミー会社などに貸付け、この会社や政府系金融機関などが国内外に積極的に投資することでインカムゲイン・キャピタルゲインを得る。そしてこのカネを災害時や緊急予算が必要なときに特別会計枠で突っ込む…という程度のものだと考えています。しかし中身が開示されていないために詳細なメカニズムは推測するしかありません。しかし日本国の最後の防波堤であり、この特別会計のカネがなかったら日本はとっくのとうに破綻していたでしょうね…
日本政策銀行や国際協力銀行などの内国債・外債の運用に長けた金融機関を中心に民間保証を行いつつ、GPIFや特会、そして「攻撃こそ最大の防御」を誇る超攻撃的な農林中金などの政府系の民間金融機関 (←M2会計から外れる金融機関。ゆうちょなど)などの投融資を含めた政府系の全戦力を使って80兆円分の投資をぶっこむんでしょうね。
ただ日本の投資は約半分が産業・インフラ投資であり、これは米国の年金や銀行・ファンドなどへの投資とか不動産や鉱山・農地などの購入割合が低いことから米国にとっても(本来は)歓迎すべき投資になるのではないかと思われます。なので米国からみても「よいトレード」とは思います。特に今回はエネルギーインフラ・半導体など重点項目が設定されているようなので、ここへの投資は願ったりかなったりと思われます。
ただしエネルギーに関しては既に天然ガスなどは(余った分を)他国に売り飛ばしたりするほど余力があったり、米国のシェールオイルが日本の需要に合うのか(オイルの質による)とか、新たにパイプラインを建設するという事業も未だペーパープランなだけでなく環境保護団体がテロまがいの暴力的反対運動している…などのいろいろな問題があったり、半導体ではインテルがコケそうとか、ビッグテックはNVIDIAだよりだとかの、いろいろ不安な要素もあるにはあります。しかし長期的な投資計画を考えれば、やはり米国の市場と成長率・産業力は魅力的でありつづけるのは間違いないかと思われます。
あとワイら個人による対米投資〜eMaxSlimのような投信からダウ、ラッセル1000-3000 (特にラッセル2000)やらFXなどへの投資も含めたらいいとは思います。
ワイに言わせれば円安なのに、インフレ起こしている米ドルを買うのは馬鹿の極み…とは思うのですが、しかし皆さんの旺盛な米国買い・日本売りはとまることはないみたいですから、これも80兆円の中に繰り込んだらいいんじゃないんですかねー??(投げやり
これなら結構あっさりと80兆円の壁は越えられるんじゃないですかね?
しらんけど…
とはいえ米国は現在、コアインフレは落ち着いてきており、その割には金利は高止まりのまま。これに対して日本は多額の国債負担 (特に金利負担)の視点やコアインフレが2%を割り込む準デフレ状態になってる反面、コメ価格などの生鮮食料品と燃料代の高騰による悪性のインフレに悩まされていて日銀が金利の上昇に及び腰になっているということなどから「円安でも米国長期投資の方が魅力的」に写っているのでしょうね。こりゃ石破のせいですわ(爆死
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逆によく聞かれる「外為特会」からの出資は、よほどの緊急事態にでもならない限り実施されないのではないでしょうか? 外為特会は為替介入に使われ、その結果として多額のドル資産を保有するに至りました。このためドル債権(と他の通貨)+現金を保有しているのですが、現在円安であることとドルの金利が高い=ドル債権の価値がインフレ分だけ損失だしているという「含み損」の状態なので、こちらをおいそれと使うということはないのではないかと推察しています。
途中で売却すれば外為特会が損するだけですし、保有していれば米国から年2回の利払い配当がくる。これは複利効果が出るので満期まで保有していたほうがよく、またドルを売り飛ばす、だと…
「日本が為替操作した(ꐦ°᷄д°᷅)!!」
…とベッセント財務長官あたりがトランプに告げ口して、また「関税100%にする」みたいな厄介なことになりかねないので、あまり使わないのではないかと思うんですよね。
外為特会の資料
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/special_account/fy2022/2022-kakuron-4.pdf
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そんなわけでこの80兆円のカネは「日本人が貧乏で生活が苦しいのに日本国民の税金から使われてる」というわけではないと思われます。ただし問題はあります。
たとえば米国での投資が失敗した時、日本政策銀行や国際協力銀行が結果として大損することもあり、そのときには公的資金…つまり我々の税金が投入されることになるかもしれませんし、そうでない場合でも、政策銀行や国際協力銀行が債権を建てる時、あまりに多額になりすぎたり日本の財政状況の悪化などからCDSや金利プレミアムなどの負担が劇的に増加するリスクもあります。
特に外債の場合がそうで、政府が発行する外債よりも政策銀行や協力銀行などの「民間」が発行する債権にはより高いCDSやプレミアムが付くものです。これに加えて世界的なインフレ(=通貨や債権の価値が下落しており、金利が高めになってしまう)や円安、日本の選挙での左右のポピュリズムの台頭による日本への不信・不安から資金調達 (と投資)に余計な負担が増えることも予想され、その結果は全て我々の税金で賄うことになりますから、100%ハッピーとは言えないということです。
なによりトランプが何を言い出すかわからないので、このリスクを考えると「かなり不安」なのも事実なんですが…(爆)
そうは言っても赤澤大臣はよく頑張ったと思います。日米関係が今後ともうまく行くといいとも思いますね。カネや景気に関しては結構不安がありますけどね…
P.S.
ちなみにですが、普通、中央銀行は「金利」と「為替」の番人です。しかし日本は違います。日銀は「金利」しか担当できません。というのも1970年代に円安誘導のために多額の米国債を購入するという為替介入を繰り返したために70年代は年10-30%もの激烈なインフレに見舞われ、挙句、トリクルダウン効果まで生まれて後の狂乱バブルの原因にもなりました。オマケに多額の借金作ってバブル崩壊して死亡…の流れになったために、現在ではこの「債権バブル(崩壊)」の反省から、為替に関しては財務省が指示出しすることになっています(爆)。
いやーねぇ…(^m^)




