国家・政府の存亡は景気が決定し、景気はインフレが決定する ←なぜ高度福祉国家で左派政党が敗北したのか?
【2025/7/17補足】
この内容は2023/4/4に左翼リベラル北欧諸国で相次いで極左・左翼与党が敗北して下野した…という事について論を進めています。この事実にあたり欧米の既存の左翼メディア・オールドメディアでは「極右の勝利」とか「右派の脅威」などと騒いだのですが、その意見は間違いであり「インフレは常に政権与党の逆風」という経験則から「インフレに負けただけ」で政治の右・左は全く関係がないという程度の内容になります。とても重要です。「政治を見るときにはカネで見るべき」ということです。
2024年の米国大統領選挙でトランプ氏が勝利したのも同じで、アメリカが右傾化したからでは「ない」のです。単にバイデン政権のときに物価が2倍〜数倍に値上がりし、下層階級・中産階級はおろかロサンゼルスやニューヨークに住んでいるような高所得層までもが生活苦を感じるほど酷いインフレに苦しめられてきたために「与党以外(←バイデン以外・民主党以外)なら誰でもいい」という、現在の状態を変えてほしい…という切実な願いの結果です。アメリカの場合、トランプ以外に選択肢がなかったからに過ぎないのです。よって2024年の米国大統領選挙は「バイデン(民主党)の敗北」が唯一の正解です。トランプさんや極右があまり調子に乗っていると、四年後は負ける側に立ちかねない…というのがインフレの教える真実です
フィンランド議会選でマリン首相が敗北 保守派が僅差で勝利
https://www.bbc.com/japanese/65159941
つい昨日、フィンランドの長年の夢でもあったNATO加盟が実現したということだったのですが、この外交的大勝利も与党・社会民主党には追い風にはならなかったようです。
この与党の敗北の原因ですが「インフレによる生活苦」←これだけです。
何処の国でもそうですが、選挙は(戦時下の一部の状況を除けば)ほぼ全て国内経済で決まります。今回もそうでした。2020年以後、新コロによる経済的大打撃を金融緩和(≒カネのばら撒き)で救済しにかかったため、結果として著しくカネの市場流通量が増え、「新コロバブル」と言えるような経済下支え効果が出ました。要するにカネをばら撒けばインフレが発生し、インフレは産業国家においては経済成長(好景気)をもたらす。なので新コロバブルが発生した…程度でOKと思われます。
この期間、推定で全世界で1200-1500兆円もバラ撒いたらしく、このため物凄い通過供給量の急増=激しいインフレとなり、このインフレで我々は苦しんでいるということです。インフレのタネを2020年に撒き、現在、この悪の華の収穫をさせられている「地獄の秋」という時期なのです(T_T)
新コロでの経済救済の結果、物価高という当然の結果になりました。これは「貨幣の中立説」からも正しいと思われます。貨幣の中立説とは「カネばら撒けば景気がよくなるとか、いやいや逆に意味ないよ…とかいろんなヤツがいろんな事言ってて上手く行ったり行かなかったりだけど、たった一つのことだけは判っているよ。カネをバラ撒いたら後で必ず物価高になるし、撒かなければデフレになる」という内容です。貨幣の働きは長期的には物価にのみ影響し、その他の事象〜景気や失業率などの政策的課題に対しては「中立=本質的には良くも悪くも作用しない」という事です。
なので現在、酷い物価高なのです…m(_ _)m
そしてインフレは全ての与党にとって逆風です。この単純な経験則があるため、マリンちゃんは死亡しました。確かにもともとコロナの時に酔っ払って裸踊りしたりなど品性に問題があることが疑問視されてきた人物ではあったのですが、今回の選挙では特に関係ありません。というのもフィンランドはここ1年ほど、激しいインフレに悩まされていたからです。TradingEconomicsの情報によれば、ここ1年ほどの間のフィンランドのインフレ率は実に8%超えでした。
https://jp.tradingeconomics.com/finland/inflation-cpi
少し詳しく見てみると、2022年4月に5.7%(←YoY)。これが翌月5月からは一気に7%に上昇。その後、高止まりのまま冬には燃料代の高騰を受けて9%台にまで乗せています。今年になってからもほぼ同水準であり、この生活苦はかなり庶民にとって厳しいものになったと思われます。このインフレによる生活苦が政権崩壊の理由の全てです。
よく「マリン首相はリベラルで…」とか、保守党野党が政権奪還したために「移民問題に疲弊した国民の声ガー…」みたいな言説が聞かれるのですが、そういった政治的な色彩は特に関係ありません。単にインフレが原因だったのです。
野党も大勝利ではなく僅差での勝利だったことから見ても、野党の主張が幅広く支持されたと考えるよりも、現政権の経済政策〜一般人の生活苦に対する支援対策の不足・無能に対する反感…と捉えたほうがよいと思われます。
これは予想できることでした。というのも全く同じ展開だった先例となる国があるからです。
スウェーデンです…m(_ _)m
スウェーデン議会、中道右派の穏健党党首の首相就任承認 政権交代に
https://jp.reuters.com/article/sweden-government-idJPKBN2RD08C/
2022年9月にスウェーデンで総選挙があり、8年ほど政権与党の座にいた左翼・社会民主労働党(アンデション内閣)が敗北。この後に中道右派政権が成立した…という話です。この選挙では左翼政権が敗北し、移民排斥を訴える右派・民主党が躍進。このため、特に移民による犯罪率増加(スウェーデンは刑務所にいる人間の4割が移民)などを背景にした右傾化によるもの…とマスコミで言われていたのですが、そういった政治的な出来事は実は特に関係ありません。単にインフレによる生活苦が与党敗北の主因です。確認のため、スウェーデンのインフレ率を見てみます。
https://jp.tradingeconomics.com/sweden/inflation-cpi
これは酷い…ಠ_ಠ;
2022年4月の段階で6.4%だったインフレ率が翌月から7.3%。選挙直前の8月には10%を超えています。これではスウェーデン人の生活苦はひどいものがあったでしょう。政権与党敗北は当然でした。実際、アンデションは移民に肝要だったわけでもなく、事実、就任当初の国会演説の冒頭で「移民は(スウェーデンの社会福祉に)甘えてないで働け!」と吠えたほどであり、スウェーデンは新コロ時には医療現場の崩壊や予算不足などから(特に老人に対して)カネをかけない「放置政策」を採用してノルウェーなどの近隣諸国から…
感染るから、こっちくんな!!(ꐦ°᷄д°᷅)!!
…とされていた「自称高度福祉国家」です。
長年のインフレで庶民層はカネがなくなっていたのですし、国家としても疲弊していたということです。よって福祉予算も尽きかけていたと考えるべきでしょう。彼らの国内の政治問題はほぼ関係なくインフレの急激な悪化による生活苦が左翼政権崩壊に繋がったと考えるのが正解です。
このスウェーデンで起きていた事が今回、フィンランドでも起きたと言うだけであり、外交や右左の政治問題は実際には政権選択選挙の時にはほぼ無関係であることが今回も証明されたと思います。要するに過度なインフレを抑圧しつつ、景気は良くして失業率の低下とか処分所得の再分配後の「庶民の手取りを増やす」事ができれば与党に居続けられる…ということでした。
両国の選挙の結果は、別に政治的な右派・左派の問題ではなかったということです。単なる物価高の問題でした。でもこの問題が一番重要なんですけどね…
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このことから二つの事が言えます。「2024年の各国の選挙結果」と「高度福祉国家におけるインフレリスク」がそれです。まずは前者について考えてみます。
・2024年アメリカではトランプ政権が復活し、台湾では与党・民進党が敗北する可能性がある
(→結果判定。トランプ政権復活で◎。台湾では民進党勝利で×)
上述のように「生活苦を伴うほどの激しいインフレでは与党は選挙で敗ける」という経験則から世界各国の政権与党は絶望的に厳しい状況に追い込まれることになるはずです。特に2024年は主要国で選挙目白押しの年になります。たとえば米国大統領選挙ですが「バイデン民主党政権大敗北」の可能性が高くなりました。米国のインフレ率は高いままで、まだ暫くは高いままと想定されているからです。
しかも今後、深刻な景気後退さえ予想される異常事態で、この悲惨な状況下でおける選挙では共和党の大統領候補になれればイヌでもネコでも誰でも米国大統領になれるというほどです。ならば共和党で一番支持率の高いトランプが大統領に返り咲く…と考えるのが普通でしょう。外交ではトランプ復活後の世界戦略を今のうちから描いておくことが必要かもしれません。
非常に興味深いのは台湾です。2024年1月に総統選挙が行われるのですが、現在、与野党が拮抗しています。そこで台湾のインフレ率を見てみます。
https://jp.tradingeconomics.com/taiwan/inflation-cpi ←参考資料
すると2022年7月くらいに4%をつけたもののピークアウトし、徐々にインフレ率が下がっています。現在は2.7%を挟んだ動きのようです。インフレを抑え込んでいるという意味では「優秀」なのですが、逆にデフレ化しているとすれば今度は失業率が問題となってきます。景気悪化のためにインフレ率が低下≒失業率増加+不景気ということだからです。そこで今度は失業率を見てみます。
https://jp.tradingeconomics.com/taiwan/unemployment-rate
2022年2Qに3.7%台をピークとして徐々に下降。現在は3.6%くらいにまで下がっています。このデータだけ見るとやはり「優秀」と言えそうです。ということは与党・民進党圧勝〜というのが普通なのですが、しかし台湾の場合、この各種指標をもう一度詳しく検討すべきかと思います。
まずインフレ率ですが、ここ10年くらいは大体1%後半くらいです。驚くべきことに日本とさほど変わらないほど「デフレ化」していたのです。このため単純にインフレ率が低下したから与党優勝〜と考えることはできません。新コロ前のインフレ率と比較すると、現在は2倍も高いからです。この数字は台湾庶民に相当の生活苦をもたらしているのではないかと想像出来ます。「昔に比べて全てのモノの値段が高い」という生活苦を実感してるとしたら、民進党には逆風です。ただし失業率の方は直近7-8年は大体4%中盤だったので、現在はかなり改善されていると考えることは出来ます。良し悪しマチマチです。
もう一つは新コロによる経済的打撃の蓄積の問題です。ここ数年、台湾でも新コロに伴う輸出入の不振や景気悪化・失業の一時的な増加などの累積ダメージがあり、インフレ率・失業率の改善の効果が出てくるまでのタイムラグが存在する事も念頭に置かねばならないと思われます。要するに「今まで苦しかった。ようやく少し出口が見えてきたかも?」という微妙なポジションの可能性があります。このため現在、与野党の支持が拮抗しているのだろうと推察できるのです。よって来年の台湾総統選挙は「世界景気次第」と考えるのがよいと思われます。
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そこで現在2023年1Q終了時での将来展望を概観すると、2023年は後半から年末にかけて米国経済の失速から世界的なリセッションが予想されています。これはインフレ時なのに景気は悪化という非常に厳しい状況に陥るのではないかという不気味な予想です。このタイミングでの台湾総統選挙なので、ワイ的には「現野党・国民党優勢になるのではないか?」と判断しています。この後、世界景気が回復してくれれば民進党も十分勝てると思うのですが、予想通り悪化すれば台湾でも政権交代という流れになりそうです。
加えて、このインフレはかなり長く続くと予想され、世界的なピークアウトは2024-25年、正常化は更に1年後と予想されています。この予想は市場における期待インフレ率が2.5%くらいに戻る(現在はこの1.5-2倍)のが大体そのぐらいと考えられているためで、勿論、さらにずれ込むことはあっても早まることは難しいのではないでしょうか? だとするとインフレが収束するのは予想外に時間がかかり、その間は「インフレは政権与党にとって逆風」のままの状態が続くということです。
世界景気は米国与党およびFRBに大きく依存しているので、バイデン政権およびFRBの「インフレの読み違い」は致命的になった可能性さえありますね…ಠ_ಠ;
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こちらのノベプラの方ではよりグラフィカルに表示できるために各種図表をインサートしたバージョンを提出しています。
https://novelup.plus/story/859734330/948979588
よかったらこちらもご参照ください…m(_ _)m
【補記】
2023年時における米国大統領選挙・台湾総統選挙についても2023年4月の段階で予想していたのですが、結果は米国大統領選挙にかんしては当たったものの、台湾総統選挙に関しては外しています(爆
8ヶ月後の台湾総統選挙を予想するのが難しかった…というよりも、本文でも述べていたように「インフレ率・失業率ともに鎮静化していた」ということだったので素直に民進党勝利といえばよかったかもしれません。とはいえ、中共が国民党などに過度に肩入れし、そのことが台湾人に危機意識を生んだ「逆効果」があったことも考えられますし、なによりも2023/4月時に予想されていた年末の米国不景気というのが「今一つ」だったことも大きいかと思われます。インフレ率・物価は高止まりでしたが、この長続きする物価高で生活苦は進んだものの米国の名目賃金は上昇し続けていた時期でした。このため不景気感はあったものの完全失速していません。この理由ですが、インフレを高止まりに誘導することで景気の失速を避けつつ(物価高によって)景気が徐々に沈静化する「軟着陸」という難しい金融操作を狙い、FF金利を4-5%というかなり高い状況で維持し続けたことが大きな要因と思われます。コレについてはまた別途、検討できればと考えております…m(_ _)m




