最終話 ハーレム帝国ハレムンティア
フェドロとの戦いを終えて世界に本当の意味での平和が訪れた。
ジョージの活躍が世界中に認知されたお陰で、戦後に混乱もなく、比較的スムーズに復興をすることもできた。
そして、フェドロの行いが忘れられないようにその日を『フェドロの日』として設け、歴史にも刻まれたのである。
──そして、1年後。
ゲオルギウス城、街の中心が一望できるバルコニーにて、ジョージは民衆に見守られながら演説を行なっていた。
「──あの日から1年が経過した。
皆もまだ記憶に新しいだろう、数十年と世界中を混乱に貶めたあのフェドロが倒れた日だ」
この演説は世界中に放送されている。
空中にはドローンカメラ型魔導器が飛び、各家庭や職場には、それを移す鏡やテレビのような魔導器が設置されているのだ。それもウィステリアとカレンの類まれなる能力と知能により発明、量産化、一般普及にまで進めてくれたお陰だ。
「……確かにフェドロの行いは悪だ。許してはいけない大きな罪を犯したんだ。
しかし、考えてみてほしい。
……彼は本当に根っからの悪なのか?」
その問いかけに民衆がどよめくが、ジョージは怯む事なくむしろ力強く演説を続けた。
「フェドロの根っこは悪ではなかった!
彼は心が弱かったんだ。その弱さゆえに、力に溺れ、魔性に染まり、世界征服に至ってしまった。
そのキッカケがなければ、止められる人がいれば、弱さを克服できれば……もしくは違う未来が待っていたかもしれない。
……しかし、そうはならずに世界征服は決行され、1年前の決着がつくまで多くの人が苦しんだ」
まだピンときていない人もいるだろうが、ジョージは気にせず話を進める。
「皆に心当たりはないだろうか?
朝眠たくて仕方ないこと、好きな相手がいるが自分には脈なしな事、欲しいものがあるが買えないこと……。
これは一例だが、他にも上手くいかなくて諦めるしかない時があるんじゃないか?
……でもそんな時に。
そんな時にだ。
二度寝しても許されるし給料が減らないとしたら?
脈なしの人を自由に振り向かせられるとしたら?
欲しいものが自由に自分のものにできるとしたら?
それを叶えられる、魔法があったらどうする?」
ジョージが1度目を閉じ、深呼吸をしてゆっくり目を見開く。
「ある男は……嫉妬でいじめられ、好きな人には裏切られ、親は職を失い、一家離散し、その後も悪党に奪われて、最後には挽回するチャンスも与えられずに命を落とした。
そして、生まれ変わった時に、それを挽回できる魔法を与えられたんだ。
最初は静かに生きていた。正しく使った。
……だが、とある日。
かつて己と似た境遇の者と出会ってしまう。己を追い込んだ悪党と似た相手と共に」
民衆は息を飲む。もしそうなった場合、自分は……。
「そう、それがフェドロのキッカケだったんだ。
悪党を倒したが、そのあと過去のトラウマから我を失い、正義の名の下に魔法に溺れてしまった……。
最初は悪党だけだったが、次第に判断力を失い、皆を洗脳してしまえば悪党を生み出さなくて済むと……。
あとは皆の知っている通り。
そう、世界征服し、世界中の人を洗脳していった。
──止められる人はいなかった!」
ジョージの声に熱が入る。
「誰も、そう誰もだ!
誰もフェドロを止められなかった。
だが、責めているわけじゃない。いつでも誰かが助けてくれる状況の方が珍しいんだからな。
だからこそ……考えてみて欲しい。
自分たちは『追い詰められた時、本当に悪人に染まらないのだろうか?』と」
民衆は不安げな顔になった。
完全無欠な人間なんてまず居ないのだから。
「……自信、ないだろ?
俺|もだった」
ジョージが自重気味にフっと笑う。
「1年前にフェドロと戦って思ったんだ。
もしかすると、俺もこうなっていたかもしれないと。
しかし、それと同時に……俺は同じ行いをしないと魂に誓うことができた。
フェドロがその可能性と結果を見せてくれたおかげで、そして記憶に刻みつけるような立ち回りをしたお陰で、俺は追い込まれた時に思い出すことができる!」
拳を握り締め、民衆の心に問いかけるように叫ぶ。
「……もう一度言う!
フェドロの行いは許されない。だが、皆が正しく生きられるよう戒めと教訓を与えてくれたのも事実。
だから、フェドロを『別世界の悪党』と他人事で済ませず、自分が歩んだかもしれない最悪な末路と捉え、より良い一歩を踏み出せるよう胸に刻んでくれ!」
ジョージはそこまで言うと優しい表情になり、穏やかで力強い声で締めくくった。
「今日は『フェドロの日』……。
祝い、悼み、考え、そして生きていることに感謝する日。
……さあ、感謝しよう!
──祝勝パレードの始まりだ!!」
「「「──うおおおおおおお!!!」」」
● ● ●
ゲオルギウス城3階、円卓の部屋。
ここはファミリーが集まった時に一緒にお喋りや食事ができるように大きな円卓が置かれたシンプルな部屋だ。
そして今日、ジョージたち一同は久しぶりに集まってお茶会をしていた。
「──ブルーベリージャムがあうよ!」
「ううん、いちごジャムだって!」
スコーンにはどのジャムが合うかと、口にそれぞれのジャムを付けながらメリーとジェスは言い争っていた。
「私はクロテッドクリームが1番だと思いますよ」
そんな2人に割って入ったのはアメリア。しかし、それは派閥争いを鎮火させるどころか、火に油を注ぐ行為。
「は〜?
いちごだし!
クロテッドクリームなんて、おいしいけど、おいしいだけだし!」
ジェスがムキになってしまい、アメリアのスコーンにいちごジャムを塗り始めてしまう。
「ああ!
私のスコーンが赤く染め上げられて!?」
「ブルーべりーなの〜!
おにいちゃん、きのうまでラズベリーっていってた!
ね、ぷるち!」
「ぷるるっぷ!」
メリーに同調するようにぷるちが元気よく返事をした。
「それでね、メリーはずっとブルーベリーっていってたから、メリーのかちだもん!
あとねあとね、クロテッドクリームはおいしいじゃなくて、とってもおいしいいよ。
アメリアちゃんもたべて〜!」
「あ、メリーちゃんまで!
赤と青と白で、カラフルスコーンです!
……まあ、美味しいからいいですけど」
2つのジャムとクロテッドクリームに溺れたスコーンを、アメリアは美味しそうに頬張る。
「ほら、4人ともはしたないですわよ。
……まったく、ジャムもクロテッドクリームも、ジョージが厳選した一級品なのですから、優劣を付けると作った方もジョージも悲しんでしまいますわ。
ねえ、ジョージ」
「ああ、ウィジーの言うとおりだ。
好きなものと大好きなものはあるだろうけど、全部俺が最高だと思って仕入れて貰ってるから、みんなが喧嘩すると俺は泣いちゃうかもしれないぞ?
だから、みんなで仲良く食べてくれると嬉しいな。分かってくれたか?」
「「「「は〜い(ぷる〜)」」」」
ウィステリアとジョージに諭されると、4人は声を揃えて嬉しそうに返事をした。
ぷるちとアメリアは双子ちゃんにとって、目線を同じくして仲良くしてくれるお姉さんなのだ。
「ジョージ、聞いたかい?」
そこにジョージの母マーシャが嬉しそうに声をかけてきた。
「なにを?」
「シンがね、新婚旅行に魔界へ行ったそうじゃないか!」
「ああ聞いたよ。
ジャバウォックの故郷だから、一度顔を出しておきたいって言ってたな。それがどうかしたのか?」
そう、シンはことが落ち着いてからジャバウォックと仲を深め、先日ついに結婚を果たしたのだった。
「魔界って過酷な環境だそうじゃない?」
マーシャはそう言いながら隣に座るダンに目線を合わせる。
「……マーシャと話し合ったんだ。
魔界で修業するのも楽しいだろうって。ほら、もう平和だし私たちもたまには休暇を ……」
ジョージはそこまで聞くと、状況を察して微笑んだ。
「つまり、転移魔法陣の使用と、魔界への渡航許可だな。分かった。
……でも、あんまりハメを外しすぎるなよ?
一応文化財として保護してる所もあるからな」
「おお、さすがジョージ!
ありがとう」
「これで新しい修業メニューを組めるね。ありがとう、ジョージ」
両親の感謝の言葉にジョージははにかみながら頷き、キャサリンとカレンに声をかけた。
「キャサリン、リッくん。今いいか?」
「良いわよ」
「なにムンちゃん?」
「親父とお袋が修業で魔界へ行きたいそうなんだ。どうにか都合つきそうか?」
ジョージが尋ねると、最初にキャサリンがタブレットを操作してデータを確認する。
「……ん〜、そうね。
修業だと……ルーク荒野あたりが使えそうだけど、今月は魔界ツアーの人が来るね。
もし、急いでないなら来月の頭になら許可を下せそうかも」
「……えっと、ルーク荒野か。いいじゃん。
あそこは広いし適度に高低差もあって良さそ。
それならボクの方は装置を調整するだけだし、いつでも良いよん」
「2人ともありがとう。
……親父、お袋、来月にルーク荒野なら大丈夫そうだけど……大丈夫か?」
「よく分からんが、魔界に詳しい2人のオススメなら私は大歓迎だ」
「ああ、もうワクワクしてきた!
ありがとう!!」
「ああ、それなら良かった」
両親の笑顔を見て心が温かくなる。
その時、こっそり部屋の外で会話をしている声が聞こえてきた。
「──エリンちゃん、自信持って」
「変じゃ……ないかの?」
「ぜんぜん変にゃんかじゃにゃいよっ。
すごく似合ってるし!」
どうやら、イリーナとエリンのようだ。
「わ、分かった!
じゃあ、いくぞ!」
──ばたんっ。
意を決してエリンがドアを開けると──
「お、きれー!」
最初に気がついたメリーが嬉しそうに拍手をする。
「そ、そうかの……?
……ジョージも、そう思う?」
メリーの言葉に照れながら、スカートの裾を摘んでカーテシーをしながらジョージの方を見る。
「ああ、綺麗だ。
まさに、お姫様だな。よく似合ってる」
そう、エリンはお姫様さながらの豪華なドレスを着ていたのだ。ジョージに見せるために。
「本当かの?!
嬉しいのじゃ!」
ジョージの言葉に表情がパッと明るくなり、エリンは満面の笑みで喜んだ。
「良かったね、エリンちゃん!」
「わたくしがエリンのために選んだドレスですし、似合って当然ですわ。
でも、予想以上ですわね。
ドレスのために体型を調整しましたの?」
ウィステリアはジョージの好みや、エリンの体型と顔付き等から吟味してこの日のためにドレスを厳選していたのだ。
「うん、ジョージに綺麗と思って欲しいのと、ウィステリアさんが選んでくれたドレスが綺麗だったから、それに見合う自分に成りたくて……」
「そこまでしてくれたんだな」
感動するジョージにウィステリアが耳元で尋ねた。
「ジョージ、エリンがなぜドレスなのか分かってますの?」
「分かってるさ。
ウィジーも良いんだな?」
「もちろん。
王としての務めですし、相手も異存ありませんわ」
ウィステリアの返事を聞くと、ジョージは真剣な顔で頷いた。
「じゃあ、近々日程を決めるよ。式場もな」
「そうして下さいませ。
……そうだ、オフィーリアちゃん今は何時かしら?」
隣に座っていたオフィーリアが時計を見て答える。
「……ああ、30分前だね。
ジョージ様、そろそろ準備を」
そう、これからジョージがパレードの催しをするのだ。そして、演目は──
「……ああ。久々のサンバ、腕がなるぜ!」
そう、サンバだ。
かつてジョージがやったサンバが大好評だったみたいで、国民がまた見たいとたくさんのお手紙が届いたのだ。
「では、わたくしは天使ちゃんたちを連れて後から見に行きますわね」
席を立って準備に向かうジョージに、ウィステリアが声をかける。
「盛り上げるから、楽しんでくれ。じゃ、また後で」
● ● ●
「──サンバの前に、少し寄ってくか」
城の廊下を歩いていたジョージは、ふと立ち止まって行き先を変える。
「…………久しぶり、だな」
目的地に着いたジョージは椅子に腰を下ろして声をかける。
「……あれから1年経ったぜ、フェドロ。
俺が道に間違わず、完全に平和な世界になったのは、あんたのお陰でもある。
確かにことの発端はあんただが、そのあんたが居なければ悪魔王や悪魔の侵攻によってもっと被害が出ていた。
だから、ハレムンティア王国や世界征服は許せないが、あの時の活躍は感謝してるんだぞ」
ジョージは返事のない相手に小さくため息をつく。
「……聞いてんのか?」
「聞いておるわ!
我らは静かに罪を清算しておるのに、しっとり感謝されても困るだろう!
まるで墓にでも話しかけてるぐらい切なげな表情を向けおって」
そう、フェドロは生きていた。
ユグドラフェロモン・シャイニングカリスマ・オブ・ハレムンティアで大ダメージこそ受けていたが、そもそもユグドラフェロモン・シャイニングカリスマ・オブ・ハレムンティアは命を奪う技ではない。
完全なる邪悪ならば消滅していたかもしれないが、これは希望と平和を願って生まれた技。
覚醒と同時に明るい心を取り戻したフェドロは消滅せずに浄化していたのだった。
「くくっ、フェドロも冗談が通じるようになってきて俺は嬉しいぜ。
でも、静かに暮らしたいなら、なんで牢屋にこだわるんだ?
フェドロの活躍を考えれば、恩赦で数年の経過観察さえ飲んでくれれば、どこか静かな場所でも暮らせるんだぞ」
そう、特に悪魔王の侵攻を止めたことにより、本来大きな被害が出てもおかしくなった所を最小限で済ませたのだ。しかし、フェドロは自ら望んで牢屋に入った。
「……民衆は我を恐れておる。
もし釈放されたと知れば、怖がらせてしまうからな。しばらくはここで静かにするつもりだ。
……それに、ダリアも一緒だからな」
隣で佇んでいたダリアが優しげに微笑む。
「はい。私もフェドロさえいればそれで」
「……そうか
2人が納得してるなら、俺も口出ししないさ。
……ふう、じゃあ俺はそろそろ行くよ」
ジョージは満足げに頷くと、小さく息を吐いて立ち上がりフェドロに背を向ける。
「……ジョージ」
「なんだ」
「其方のおかげで、我は本当の願いに気がつくことができた。
ありがとう。
……だからどうか、其方の征く先と、全世界に幸あれ……!」
「──ああ!」
* * * * *
その後、ジョージ夫妻はハレムンティア帝国を世界最大で世界の中心とも呼べるまでに発展させ、ジェスとメリーが成人すると同時に退位。
我が子たちに助言をしつつ、波瀾万丈ながらも楽しい人生を送っていったそうだ。
ファミリーも各々の才能を活かし、平和ながらも満たされた人生を送っていく。
家督を継いだジェスとメリーの双子王も才覚を発揮し、両親に負けないくらいハレムンティアや世界を大いに盛り上げた。
そして、時々邪悪なる者こそ現れたが、ジェスとメリー……たまにジョージ夫妻や、ファミリーたちも協力しあって平和を守り、いつまでも仲良く暮らしていったとさ。
〜 fin 〜
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