第六十五話 革命
フェドロ王国首都。
かつてフェドロに洗脳され、操り人形のようにされた者たちが住んでいた街。
かつてハレムンティア王国と呼ばれた場所。
そして現在。
悪魔により支配され、洗脳の後遺症で無気力になった者以外は、人々は奴隷のように働かされるか牢獄に入れられている悲しみの場所。
そんな街を救うためやってきたのが、エリンとイリーナだった。
● ● ●
首都は見た目こそ発展した街だった。
西洋風の建物と、街の中央に噴水広場、所々に設置された石のオブジェ、周囲は高い外壁、崖にそって建てられた城、高原に囲まれ、海も近く見晴らしもいい。
人の代わりに悪魔が街をうろついていなければ、観光でもしたくなるようなそんな場所だった。だからこそ、奪われた喜びが浮き彫りにされる。
「……たしか、この街はチェックフォーの"キング"と"ルーク"が支配してるそうじゃ」
悪魔王を除いて最高峰の強さを持つチェックフォー。
そのチェックフォーの2柱がかりで攻められれば、いくらブーケトス流星群で強化された人類でも、勝つのはほぼ不可能。
もし勝てるとすれば、ジョージたちぐらいなものだ(相性が悪ければピンチになるが)。
「勝てるかにゃ?」
ジョージがチェックフォーのビショップに苦戦した話は伝わっていた。
イリーナたちもジョージの苦戦なんて驚き、チェックフォー2体も相手にするのは不安になってしまう。
……ルークは倒したので、2体相手の心配なんて不要なのだが。
「大丈夫。うちらは帝国内だとトップ5の2人なんじゃから。
きっと……。まあ、ヤバそうなら救難信号を遅ればいいし」
「そうだね……。
心配し過ぎてたのかも」
イリーナの表情が和らぐ。不安こそ払拭できてないが、少しぐらいは自信が戻ったようだ。
ただ、2人はこんな話をしてはいるが、すでにチェックフォーの1体を倒している。
しかも、名乗らせることもなく、ノーダメージで一方的にである。なので本当に心配しすぎなのだった。
そもそもだが、イリーナの禁術補助魔法とエリンの世界最高の弓の腕を合わせれば、ある程度格上でもガンガン戦えるポテンシャルがあるので、相性が仮に良くなくてもさほど苦戦しないのだ。
そして、ルークに至っては相性最高なので、もし100回戦ったとしても1000回勝つし、ルークが4体に増殖しても勝てる。
──杞憂である。
「あ、イリーナ隠れて!」
エリンが何かに気がつくと、急いで家の物陰に隠れる。
「え!?」
イリーナも慌てて隠れると、すぐ後に城の方からレッサーデーモンの大群が切迫した様子で街の外に飛んでいった。
理由はわからないが、今レッサーデーモンに見つかればチェックフォーにも見つかるのでできれば避けたい。
「──あの方が?
嘘だろ?」
「本当らしい。反応がなくなったとキング様が言ってたんだ」
「マジかよ……!
信じられないって」
「おい、私語はつつしめ。それが真実なのか確かめるのが、俺たちの仕事だろうが!」
レッサーデーモンはこんなことを言いながら、慌ただしくエリンたちに気が付かないまま通り過ぎていく。
ついでに、街をうろうろしていた悪魔たちも、気になったみたいでゾロゾロ外に向かっていった。
「……イリーナ、もしかしたら」
「理由はわからないけど、チャンスだね」
ほとんどのレッサーデーモンも出ていってしまったので、今は警備も手薄。イリーナの両親の様子を見に行けそうだ。
「しかし、なぜあんなに慌てておったんじゃろうな?」
「さあ?
敵が出た……とは思えにゃいし、仲間割れで誰かがやられたとか?」
「もしかして、さっきうちらが倒したのが偉い悪魔だったとか?」
「え、でも全く苦戦しなかったし、あそこまで急いで見にいくほど偉い悪魔ってことはにゃいとおもうけどにゃあ?」
自分たちがルークを倒したとつゆ知らず、少し緊張もほぐしながら、2人はイリーナの実家方面に向かうのだった。
● ● ●
街外れにある少し大きな木造の屋敷。
元々は豪華で住民の権力者であることが分かるような家だが、ここでの戦いがあったのか所々崩れたり、床に穴が空いたり、焦げているところもある。
しかも、1年ぐらい放置されていたのだろうか、埃をかぶり蜘蛛の巣が張っている、まるでお化け屋敷みたいな様相だった。
「──………………」
「………………」
オンボロの椅子に獣人と人間の夫婦が何も言わずにボーっと佇んでいた。
「この人たちが?」
「うん……」
エリンの問いに、イリーナが切なげに頷く。
身長が余裕で2m以上ある筋骨隆々なホワイトタイガーの獣人男性、オズワルド・ミャウ。
青い髪と目をした優しそうな顔の小柄な人間女性、ララ・ミャウ。
間違いなくイリーナの両親だった。
フェドロの洗脳の後遺症で放心状態から戻らないのだ。
洗脳が解けたので操られることもなく、幸いブーケトスの効果で飢えたりすることもない。
「……とは言え、こんな状態でずっと居たなんて残酷すぎるな」
「……そうだね」
ママは家に来たフェドロ軍を魔法で撹乱して時間を稼ぎ、パパはフェドロ軍と戦いながらイリーナを逃した。
愛する我が子を守るため、自らを犠牲にしたのだ。
かつてフェドロがハレムンティア王国を転覆させた時に傷を負い、それが年々悪化して冒険者を辞めたオズワルドとララ。
その2人が再び剣と杖を持って奮起し、洗脳されてまで娘をリズンバークに逃した。
今までは近づくことすらできなかったが、イリーナはようやく戻って来れた。
「エリンちゃん、ポーションを出して」
「うん、2人を治すのはイリーナの役目じゃからな」
エリンはウエストポーチから小瓶を2つ取り出してイリーナに渡す。
これは、エルフの里の若返り温泉水(全盛期を取り戻す魔法の水)と、聖女の浄化の力を掛け合わせた、状態異常も傷も完全回復する最強の回復ポーション。
──エリクサーだ!
「ママ、パパ……遅れてごめんね、すぐに治してあげる」
そのエリクサーを2人の口に注ぎ込むと、まばゆい光が体を包み、みるみる内に生気を取り戻していく。
「──…………あ、うう……え?」
虚だった目は光を宿し、両親は不思議そうにキョロキョロと周りを見回す。そして、イリーナの姿を目の当たりにして、全てを察したように温かく微笑んで涙を流した。
「おかえり、イリーナ……」
イリーナのママ、ララが涙を拭きながらそばに寄り、娘の存在を確かめるように抱きしめる。
「うっ……うぅ……イリーナ、無事だったんだな。
くっ、涙が止まらない。
少し見ないうちに成長して……1年ぐらい、か?
寂しい思いをしてなかったか?
一緒にいてやれなくてごめんな……」
オズワルドは涙にあふれて前が見えず、それでもゆっくり近づいて頭を撫でた。
「……うん、ただいまぁ」
イリーナは肩の力が抜けてララに抱っこされて喜びの涙を流す。
「1年ぐらい。
寂しかったけど、いっぱいお友達もできたしっ、すごく強くにゃったんだよ。
今はジョージくんのところに住んでるよ」
「そうかそうか、立派になったんだな。
……ジョージ?」
オズワルドには思い当たる節があったようだ。
「うん、ジョージ・ハ──」
「ハレムンティアか?」
イリーナが言い切る前に、オズワルドが言い当ててしまう。
「え!?
知ってるの?」
「知ってるさ。ここは昔ハレムンティア王国だったからな。
まあ、正確には名前を知ってるだけだが。
昔マーシャ殿下とダン殿下が国外に逃げ仰せ、ジョージというご子息が生まれたという報を受けた。
その時は、表立ってはできなかったが、この地に残ったかつてのハレムンティア王国民は喜んだんだ」
ジョージの誕生は、暗雲立ち込めるフェドロ王国にも届き、人々の希望になっていたのだった。
「それで、マーシャ殿下とダン殿下は無事なの?」
ララが少し心配そうに聞く。
「うん。あのね、今はジョージくんがハレムンティア帝国って国をおこして、そこの城塞都市に住んでる」
イリーナの言葉を聞くと、ララとオズワルドは安堵のため息を漏らす。
「良かった……」
「生きておられたか。
それに、ご子息も国を創るとは相当な大器の持ち主なのかもな」
オズワルドは誇らしそうに笑う。
「そちらのエルフの方は、イリーナのお友達?」
話が一区切りして、ララがエリンに尋ねた。
「そうなのじゃ。
うちは弓使いのエリン。イリーナの一番の親友で、協力必殺技を出せるまでの仲じゃぞ。
これで悪魔もチョチョイのチョイ、最強タッグってところかの」
エリンは嬉しそうに自己紹介した。
すると、ララとオズワルドが驚き目を見合わせる。
「協力必殺技?」
「それは言葉のアヤではなく、正真正銘の協力必殺技か?
冒険者ギルドの定める2人以上の冒険者が、互いの魔力を重ね合わせて桁違いの威力の技を放つという……あれか?」
「すごいか?
えっへんっ。
しかも、聖女のおすみつきじゃ」
「せ、聖女様の!?」
ララは目が飛び出そうなほど驚いた。
エリンたちはアメリアと一緒に住んでいるし、冗談を言い合うほどの仲良しさんなので実感が湧きにくいが、実際のところ聖女はヒーラー職と聖職者の最高峰であり、条件付きではあるが世界の最高権力者でもあるすごい人なのだ。
だからこそ、聖女に認められたハレムンティア帝国が正義の名の下にフェドロと戦うことができ、世界の人々を導けるのである。
「イリーナとエリンさんは、我々の想像をはるかに超えるすごい冒険者なんだな。
全盛期の強さに戻ったが、もし戦いになっても俺では足手纏いになりそうだ」
「そうね」
オズワルドもララも現役時代は強い冒険者だったが、もう通用しないことを思い知る。しかし、娘の成長を感じて、とても嬉しく思うのだった。
しかも、協力必殺技を出せる親友までいるのだから、親心としても安心感がすごい。
──ブォォォオオオオ……!!
「にゃに!?」
静寂を破る法螺貝みたいな音が街中に響き渡る。
「悪魔が緊急事態を街に知らせるサイレンね」
「だが、練習放送時以外で聞いたことはないから、実際に使われるのを聞くのは初めてだ。
きっとこの後何が起きたか放送が入るはず」
放心状態の時は動くことこそできなかったが今までの記憶は全てあるようだ。
そして、サイレンが鳴り止むと、続いて事態を知らせる報が入る。
『ルークが何者かにより敗れた模様。
総員警戒体制に入れ。敵が街に入った可能性あり。総員警戒体制に入れ』
「え、ルークが!?
チェックフォーの1体のルークを倒すなんて、どこのどなたなんじゃ?!」
エリンが驚いて思わず大きな声を出してしまう…………自分で倒したとも知らずに。
「エリンちゃん、もしかしたらパーティでの討伐かも。
それでも、どんにゃ人にゃのかにゃ?
きっとすごい息がぴったりのパーティだろうねっ」
イリーナが感心して尊敬する…………息ぴったりなのが自分たちだとも知らずに。
「でも、チェックフォーが1体だけなら、油断しなければ問題ないのじゃ!」
「そうだね!
強すぎて今の所オーバーキル過ぎて使う相手がいなかった協力必殺技を使おっ」
「じゃあ、キングに会う前に強化をかけておいておこう」
「うん、出発!!」
そう言いながら2人は慌ただしく家を飛び出していくのだった。
まるで、外に遊びにいくキッズのように。
● ● ●
フェドロ城から打って出たキングは、グレーターデーモンの私兵を連れて街を巡回していく。
「ルークを倒した者だ、気を緩めるな」
冠の付いた兜、トゲトゲのついた大鎧、真っ黒なマント、そして両手には民家が小さく見えるほどのビッグサーベル。
そう、キングは筋肉バキバキで30mもの巨体の上に全身鎧を着た、超近接戦闘型の特級悪魔なのだ。
歩くだけで地響きがして、息をするだけで空気が震える。目線を向けるだけで邪気が満ち、剣を振れば山が大地が雲が割れる凄まじさだと言う。
「不意打ちだとは思うが、あのダークアダマンタイトの鎧を貫いたならば実力は本物。油断はできないぞ」
キングは戦闘能力だけではなく頭もキレていた。
まさか自分たちを超える強さだとは思っていないが、それでも倒し得る事を想定して警戒し、慎重に気を張り巡らせて巡回する。
これで不意打ちは不可能──
「ライトニングショット!!」
「なっ!?」
──ズッバァアアア!!!
不可能ではなかった。
光の速さの矢が腕に刺さると、キングは一瞬怯んでビッグサーベルを離してしまう。それでもすぐにキャッチして、体勢を立て直す。が、その一瞬の隙にイリーナは至近距離まで近付いていた。
──ギャルルッルルル……ガチャンッッ!!
流れるようにレバーを引いて杭をセット。
「プロミネンスドライバァアア!!!」
閃光をともなう灼熱の杭が、キングの胴体目掛けて打ち出された。
「させるかぁ!!!」
2つのビッグサーベルを重ねて防御し、なんとかダメージを受けるのは防いだ。しかし、ビッグサーベルの1つは完全にドロドロに溶かされてしまい、もう1つも穴が空いてしまった。
「くっ!?
なんという威力!
しかし! ──ダークキングダムスラッシュ!!」
驚きつつも、すぐに替えの剣を出して反撃を仕掛ける。
「「ソウルリンク!!」」
だが、攻撃は読まれていた。
イリーナとエリンは魔力をリンクして重ね合わせ、その時に生じる爆発で斬撃を消し飛ばした。
「スターマイン!!」
しかも、その後の隙を埋めるように間髪入れずに矢が降り注ぐ。
「グヌヌ……!」
無数の火花を避けるために攻撃の手を止めてジャンプを強いられ、キングは思わず歯軋りしてしまう。
仕方ない事だったが、この行為が良くなかった。
その火花は地面に落下すると、あろうことか魔法陣の形をしていたのだ。
「まずいっ!?」
「いっくよー!!」
イリーナが中心にマジックライルドライバーを打ち出すと魔法陣が起動。
無数の光の粒子が天に向かって飛び出し、空中にいるキングにを貫いていく。
「まだまだ!」
今度はエリンが矢を放つと光の粒子が連続爆発し、キングを空に打ち上げた。
それと同時に魔法陣の中心に滑り込み、イリーナと共に魔力を合わせて上空まで続く数百もの魔法陣を連続生成する。
「「協力必殺技!」」
2人はまさに以心伝心、一心同体。
桁違いの魔力の高まりを見せながら、エリンは矢を、イリーナは杭をセットして上空のキングをロックオン。そして──
「「レイディアンス・ジャッジメント!!!!!!」」
城下町を包み込むほどの巨大な光陣が立ち上がり、次の瞬間。
「ぐぉあああああああああああああ────」
宇宙まで届くほどの凄まじい光の奔流が、街の悪魔ごとキングを飲み込んで刹那のうちに消滅させてしまった。
これこそが世界有数の実力者が使う、協力必殺技の凄まじき威力なのである。
「決まったな(にゃ)」
こうして、フェドロ城下町を支配するチェックフォーのルークとキングは倒され、人々はエリンとイリーナの手によって長い苦しみからが解放されたのだった。




