第六十話 この地を守る者
バグエルをやられた(先に攻撃したのはバグエルだが)デモニトロンは血相を変え、総勢100体のレッサーデーモンたちを引き連れて町になだれ込んだ。
「ニンゲンどもに、バグエルの受けた屈辱を味合わせてやれぇええい!!」
「「「うおおおおお!!!!!」」」
レッサーデーモンがはじめに向かったのはもちろんリンゴ農園。
ここはバグエルが殉職した(戦闘不能になり魔界に強制送還された)場所なのだ。
「まだ、あんなに悪魔が!?
みんな、町を守るだど〜!!!」
それを見たリンゴ農家さんは高枝切りばさみを手に取り、田畑を耕していた農家仲間に声をかける。
「なんやなんや?」
「悪魔だべ!」
「うちの、うんめえサツマイモ守ってやるだに!」
クワとかスコップとか耕運機を装備した農家さんが集結すると、いよいよ戦争が始まった。
「第一陣、突撃だァアア!!」
デモニトロンが声を上げると、レッサーデーモンたちが一斉に襲いかかる。しかし、農家さんたちにも意地がある。
こんなところで倒されたら、作物を楽しみにしているお客さんたちが悲しむ。近所の子供達が悲しむ。家族が悲しむ。
「うおりゃあ!!」
スコップの連続攻撃をしかけると、レッサーデーモンはあまりの攻撃の苛烈さに押されてしまう。
しかも素人ゆえの軌道の読めなさのおかげか、戦況がさらに農家さん有利に運ばれていった。
「「ぎゃいい!!」」
だが、レッサーデーモンは数的有利がある。1体1体じゃ勝てなくとも、数体で力を合わせたら農家さんに勝てるのだ。
「ぬわ!?」
ニンジン農家さんが吹き飛ばされ地面に叩きつけられてしまう。ふかふかの土の畑だったから無事だったものの、もし耕されてなければ大怪我を負っていたに違いない。危機一髪だ。
「おのれ、よくもニンジン農家さんを!!」
飛び出したのはカブ農家さん。クワで重たい一撃を放ち、レッサーデーモンをまとめて3体も倒す。
その攻撃の隙を突こうとレッサーデーモンが襲いかかるが、サツマイモ農家さんがそれを黙って見過ごすはずがなかった。
「農家の絆を舐めるな!」
──ズバババ!!
耕運機を自在に操り、土砂を飛ばしてレッサーデーモンを撃ち落としていく。
戦いは農家さん優勢に始まるが、デモニトロンを相手取るリンゴ農家さんの戦いはそういかなかった。
「──どうしたどうした!
バグエルを倒したといえど、貴様はその程度か〜? ギャ〜ヒギャヒギャヒっ!」
「うんぬぅ!
一撃が重いし、攻撃も早すぎるべ……!」
デモニトロンの連続パンチに、リンゴ農家さんは押されてしまう。高枝切りばさみも刃こぼれし、絶体絶命だ。
だが、窮地は始まったばかりだった。
「……こ、これは!?」
デモニトロンは戦いの最中、とある物が地面に落ちている事に気がつく。そう──
──齧りかけのリンゴだ!
熟してツヤツヤな濃い赤色をした、甘くて蜜がたっぷりなタイプのリンゴ。それは、悪魔にとって猛毒なのだ。
つまり、いくらバグエルが悪食でお腹が強いと言っても、このリンゴは遥かに超える熟し具合で、ざっと見積もってもバグエル10体分は倒すことができる兵器級のリンゴである。
「ぅおおおおのれえええ!!!
許さんぞ、リンゴ農家!!」
強烈なパンチでリンゴ農家さんが吹き飛ばされてしまう。
「ならべっちゃ!?」
「へっ終わりだな」
デモニトロンは勝敗がついたと判断して背を見せる。
「……いかせんぞ」
吹き飛ばされて土にまみれ、オーバーオールも高枝切りばさみもボロボロになるが、リンゴ農家さんはまだ戦意喪失してなかった。
それどころか、不屈の闘志で立ち上がると、凄まじい気迫でデモニトロンに睨みを効かせる。
「そんなボロボロの高枝切りばさみで、何ができるというん──」
デモニトロンが振り向くと目の前で起きていることを、一瞬理解できなかった。なぜなら──
「ふんがー!!!」
リンゴ農家さんが輝いていたのだ!
「ど、どういうことだ!?
くそっ、どんどん"幸せパワー"が上がっていきやがる。
テメェ……何をしやがった!」
リンゴ農家さんの手の甲には花束の紋章。そう、先日のブーケトス流星群を受け、リンゴ農家さんは愛情の強さだけ強化されたのだ。
「「「ふんがー!!」」」
しかも、リンゴ農家さんだけでなく、ニンジン農家さん、カブ農家さん、サツマイモ農家さんも強化されている。
「……こしゃくな!」
先ほどの強烈なパンチを再びリンゴ農家さんに浴びせるデモニトロン。しかし!
「効かねえ……!」
リンゴ農家さんは高枝切りばさみで受け止めてしまう。
「な、なんだとぅ!?」
デモニトロンが眉間にシワを寄せるが次の瞬間、彼にとってさらに望ましくない状況になる。
「農家さんたち、仲間を連れてきたぜ!!」
「牧場のみんなよ!」
そう声を上げたのは、A級冒険者戦士のルーカスと、その仲間の魔法使いニーナだ。増援を連れてきてくれたのだった。
ちなみに、ルーカスは以前ジョージを追放したギルドのギルマスだが、今はA級まで上り詰め、ニーナとこの町でのんびり暮らしている。
「コケッ……コココココ!!」
「モ〜!」
しかも、人だけではなかった。
「……コケコ部隊と、モウ部隊まで!」
リンゴ農家さんは仲間の存在に元気づけられ、さらに強くなってデモニトロンに連続攻撃を仕掛ける。
「おのれ、次から次へと!
……おい、レッサーデーモン魔導士、みんなに補助魔法をかけろ!
こいつらさらに強くなったぞ!」
リンゴ農家さんの猛攻をなんとかさばきながら、レッサーデーモンに指示を飛ばす。
「は、はい!」
レッサーデーモンが補助魔法をかけて、攻撃力も防御力も素早さも上昇させる。だが──
「コケェ!!」
コケコ部隊の俊足ニワトリのビリーが、レッサーデーモンをそのカギヅメで切り裂いてしまう。
「ぎゃうん!?」
防御力上昇したところでビリーのカギヅメの前では紙同然。素早さをあげたところで、ビリーの俊足の前では園児のかけっこなのだ。
他のコケコ部隊員も、ビリーに続いてレッサーデーモンを蹴散らしていく。
「うぉおお!!」
負けじとレッサーデーモンがビリーや他のコケコ部隊に襲いかかるが、すかさず登場。モウ部隊!
「モウ〜!」
圧倒的耐久力で受け止める。
ダメージを受けてもニーナの回復魔法ですぐに回復してしまう。そう、A級魔法使いな上に、ブーケトス強化までされたニーナの魔法は、今やSS級。半端な攻撃では突破できない。
「ニンゲンがまさかこれほどまで強くなるとはな。
これは出し惜しみできん!」
デモニトロンは邪気を解放する。
ダークデーモンの姿(コウモリの翼、ヤギの角、ゴリラの体、ワシの爪、蛇の尻尾、ライオンの足、髭を蓄えた邪悪な老爺の頭。全身を真っ黒に染めたその邪悪な6mもの巨体)が突如として煙のようになり、次の瞬間更なる高みへ進化した。
「こ、これは……」
ブーケトスリンゴ農家さんも、素人ながらにその変化を感じて冷や汗を垂らす。
コウモリの翼はワイバーンの翼に、ワシの爪はグリフォンの爪に、蛇の尻尾はドラゴンの尻尾に、邪悪な老爺の頭はキバが大きく発達しオーガの老爺の頭になる。
そして、その真っ黒な巨体は、10m以上にまで膨れ上がった。
「おうおうおう、さっきまでの威勢はどうしたぁ〜?
ビビっておしっこチビっちまったか? ゲヒャヒャ」
「ぬ、ぬう……」
リンゴ農家さんはぐうの音も出ない。ぬうは出たが。
そして、リンゴ農家さんがどう攻めようかと悩んでいる間に、戦況も動いてしまう。
「も、モ?!」
「コケッケ!?」
デモニトロンの邪気に当てられたレッサーデーモンも超進化し、全員がグレーターデーモンになってしまったのだ。それのせいで、モウ部隊はダメージを受け止めきれなくなり、コケコ部隊も素早さの有利が無くなってしまう。
「リンゴ農家さん、まずいだで!」
サツマイモ農家さんの土砂マシンガンが効かず、追い詰められていた。しかも、よく見るとニンジン農家さんはもうふかふかの土の上で戦闘不能、カブ農家さんも今まさにグレーターデーモンにやられてリンゴを口にぶち込まれているところだった。
ちな、リンゴを食わせるのは悪魔的には最大限の嫌がらせだが、人間からすると美味しいリンゴを食べさせられてるだけなので休憩タイムでしかないのは内緒だ。
「ぐわっはっは!
いけいけいけ〜」
グレーターデーモンはタイマンではニワトリに勝てないが、2体での連携を駆使してどんどん戦闘不能に追い込んでいく。
「こ、コケェ……」
「コケコ部隊まで!
せめてモウ部隊だけでも……!」
ニーナはなんとか回復を連続発動させてモウ部隊を維持する。万が一、モウ部隊まで倒されたら、たくさんのグレーターデーモンがリンゴ農家さんとルーカスの所になだれ込んでしまう。
今でもデモニトロンが進化してヤバいのに、もしこのバランスが崩れたら一巻の終わりだ。
「る、ルーカスくん……!」
デモニトロンの猛攻を防御しながら、リンゴ農家さんが覚悟を決めた面持ちで口を開く。
「な、なんだよ……改まって。
話なら後で──」
「良いから聞いてくれ!」
「わかった……」
耳を傾けながらデモニトロンの攻撃を盾で防ぐ。余談だが、2人はボロボロで今にも倒れそうだが、デモニトロンはすぐに倒してはつまらないので、ギリギリの所を突いて攻撃している。
「このままじゃおれたちは倒され、野菜もリンゴも、町のみんなも倒されちまう。
だから……呼んで欲しいだ」
それを聞いたルーカスは目を見開き、あわわわわ……となる。
「じょ、冗談だよな?」
「本気だ!
本気じゃなきゃ、こんだら頼みはしねえ!
……だから、呼んでくれ。──ブッチャーを!」
「な!?
ブッチャーは凶暴すぎる!」
「だでども、町を守るにはこれしかねえ!!」
「しかも今は深い眠りについてるんだぞ!
もし無理に起こしたりすれば、最悪地域一帯が地獄になる!!」
「だけども!
他に方法がねえ!
……やつは、ブッチャーはコケコ部隊を気に入っとる。そのコケコ部隊を傷つけたのは悪魔だ。敵の敵は味方というように、もしかしたらブッチャーも力を貸してくれるかんもしれねえだ」
リンゴ農家さんもルーカスの言い分は理解していた。だけど、一か八か、ブッチャーに頼るしか方法はなかったのだ。
「悪魔を倒したその後はどうする……!」
ルーカスもこれに頼るしかないと分かっていたが、それでもブッチャーと呼ばれるその存在はとても危険なのだ。
「だけども、オイラたち2人じゃこの悪魔には勝てん!」
ルーカスはリンゴ農家さんの気迫に押され、渋々ながらも承諾する。
「……分かった。だけど、リンゴ農家さん……約束しろ。
ブッチャーを連れてくるまで、絶対に無事でいろよ!!」
ルーカスが走り出す。
その背中を見てリンゴ農家さんは苦笑いして。
「無茶な約束、結ばされちまったな……。だけども、一世一代の大立ち回り、オイラの晴れ舞台だ!
ルーカスくん、必ず約束を果たすでな!!
うおおおおおお!!」
リンゴ農家さんはさらなるブーケパワーを解放し、ルーカスとの約束を胸にデモニトロンへ突撃していくのだった。




