第五十九話 暗躍する悪魔たち
次回は明日28日(日) 昼の12時ごろ更新。
そして、そこから最終話まで毎日12時ごろに投稿する予定です。
ジョージとウィステリアが結婚し、ブーケトス流星群で幸せパワーが世界に満ちると、フェドロ軍も動きを停止して束の間の平和が訪れた。
全員ではないものの一部軽い洗脳が施された人たちは解放され、元の生活に戻ることもできた。
──しかし、洗脳が解けたのは人だけではなかった。
● ● ●
どこかの洞窟にて。
「ギャッヒヒヒヒ!
どうやら俺様にかかってた従属魔法が解けたみたいだなあ〜?」
このゲスい笑いを浮かべるのは、かつてフェドロンマジックによって洗脳されていたダークデーモン。
その名も"デモニトロン"!!
しかも名前持ちの進化個体で、ジョーイの町に出たダークデーモンより強いヤベーやつだ。ちなみに、見た目は普通のダークデーモンと大差無い。
「──おはようございます!
デモニトロン様もお目覚めになりましたか!」
そう声をかけるのはデモニトロンの家来のレッサーデーモン。軽い洗脳だったため同時期に洗脳が解けたようだ。ちなみに喋ったやつ以外にもたくさん居る。
「ああ、洗脳自体は強固だったが、俺様の抵抗力があればこんなもんよ!
これでもう縛るモノは何もない自由だ!
嬉しすぎて小躍りしちまうぜ〜、ぎゃひっ♪♪」
デモニトロンは得意げにゲスく笑うと、レッサーデーモンの不協和音ソングで踊り出した。
「かっこいいデモニトロン様〜♪
フェドロなんかぶちのめして、世界征服の野望もニンゲンの魂も独り占め〜♫」
すると、その声に反応して洞窟の奥から大きな影が近づいてくる。
「……ようやく起きたのか、デモニトロン。
ワシよりあとに起きるとは、随分な身分じゃのう」
高慢な老爺のような声を持つ影が、うにょうにょと動いて形を作り出す。
それは、長い髭を蓄えた老人の頭を持ったドラゴンのような姿で、全身に真っ黒の邪悪なオーラをまとわせて、もう見るからに禍々しい悪魔だった。
ちなみに、不協和音ソング自体はお気に召したらしく、それへの文句はないようだ。
「ベルデールか、貴様はジジイだから眠りが浅いんじゃ無いのか〜?」
皮肉たっぷりにデモニトロンが返すと、ベルデールが邪気を放ちながら臨戦態勢になる。
そして、一気に空気が凍りつき、レッサーデーモンたちが震え上がった。
「──アンタたち、いい加減になさいよ」
そう2人を止めたのは、人間のサバサバ系女戦士……にしか見えないヤツだった。
「テメェ、ナニモンだ?
ニンゲン風情があ、俺様に口出しするなら魂を喰らっちまうぞ!」
その疑問に答えたのはベルデールだった。しかし、皮肉たっぷりの嘲笑を加えて。
「ほうほう……お前さんは"ジャバウォック"じゃのう。ニンゲンに取り憑いたか。
……しっかし、また……お前さんの趣味はワシには分からん」
「……アタシの魔力と相性が良くてね。この世界の空気に慣れない分、こうしてニンゲンを利用した方が戦闘力も高くなるってワケさね。フェドロに洗脳されてた時はできなかったけど、今じゃ魔界にいた時と同じくらい快適さ。
……それより、フェドロがどうなったか聞いたかい?」
ベルデールの皮肉めいた笑いに眉を顰めるが、ジャバウォックと呼ばれた存在はすぐに受け流して話題を変える。
「知らねえな。
ベルデールのジジイは知ってるか?」
「ワシも知らぬわ。
なにせ、ジャバウォックとは違って、この高貴な姿のままでこの世界に適応しておったからな」
ジャバウォックはベルデールのしつこい嫌味にウンザリしながらも、話を進めるために触れないことにした。
「……洗脳が解けてフェドロのところに行って確認したんだけどねぇ、ずいぶんと様子が変っちまってたよ。
まるで毒が抜けたみたいに腑抜けになっちまって、ダリアと一緒に畑を耕してさ。穏やかな表情まで浮かべちまって……」
それを聞いたベルデールは面白くなさそうに鼻で笑う。
「世界を邪悪に染めると言うから楽しみにしてやったのに、くだらん俗物に染まりおって……」
「そ……それで、ヤツは何か言ってたか?」
デモニトロンはまだ信じられない様子でジャバウォックに詰め寄る。すると、ジャバウォックはため息まじりにフェドロの言葉を伝えた。
「そうさね……色々野菜の話をされたけど、最後にこう言ってたよ。
そう……『闇堕ちしたチーレム転生者のラスボスですが、現地最強チーレム主人公の幸せオーラにあてられたので、ダークエルフの幼馴染と田舎スローライフをします』ってね」
* * * * *
デモニトロンはしばらく寝込んでしまったそうだ。
フェドロのことは面倒な事を押し付けてくる割に、部下を信用しない上司のように感じていた。
それでも世界征服一歩手前まで進めた手腕は認めていたのだ。
だが、そのフェドロがまさかブーケトスに巻き込まれたぐらいで野望を手放し、のんびり農家さんになるなんて夢にも思わなかった。だが、これは現実。
駄々っ子のように目の前の現実を見て見ぬふりするのも限界がある。
「……覚悟を決めるか」
デモニトロンは疲れた顔でベッドから起き上がり、温かいコーンスープを飲むと、久しぶりに洞窟の外に出るのだった。
「……っまぶし!」
照りつける太陽に忌々しさを感じながらも、揺るがない覚悟に安堵する。
フェドロの意志を受け継ぐわけではない。元からそうするつもりだったし、フェドロの嫌な思い出はたくさんあるし、なんなら『どちらかというと嫌い』だ。
だが、デモニトロンと同じ野望を目指した、言わば『ライバル』のような存在だった。だからこそ、デモニトロンは……覚悟を決めたのだ。
「ヤツの分まで、頑張んねーと……!
世界征服の野望は絶対に達成する」
デモニトロンはそう心に刻むと、準備をしてジャバウォックとベルデールに声をかける。
「──そうかい。
まあ、頑張んな。アタシは様子見をしつつ情報を集めるよ。
でもデモニトロン、なぜかブーケトス事件以来、ニンゲンが強くなってるみたいだから、くれぐれも気をつけるんだよ。アタシの部隊の子らも、何人かやられて魔界に送り返されちまった」
そう、特殊な攻撃や浄化が無ければ悪魔は倒しても消えずに魔界に帰るだけなのだ。とは言え、再召喚も大きなコストがかかるので、そう易々と呼び戻すことはできない。
幸せパワーで満ちたこの世界なら、尚更……。
「俺様なら楽勝!
……って言いたいところだが、まあ気をつけるぜ。SSS級冒険者パーティがダークデーモンも倒したって報告をレッサーデーモンから受けたしな。
フェドロの野郎をブーケで襲ったやつの正体が分かるまでは、その辺の一般人はともかく、どんな見た目でも冒険者は警戒するべきか」
「ああ、そうさね。
でも、あんまり警戒して弱腰になると、アンタの良さも消えちまうんじゃないかい?」
「俺様の……良さ?」
「アンタ、考え事みたいな慣れないことして、笑い方も忘れたのかい?
アンタの良さは、清々しいくらいゲスい笑い方をしながら、凄まじい勢いで敵を薙ぎ倒すその破壊力だ。
真面目顔の忍び足で、それが出せると思うかい?」
ジャバウォックにそう言われて、デモニトロンはハッとする。
「……だな。
こんな顔は俺様らしくねえ。っぱ、俺様は……ギャヒッ!
こうでねえとな!!」
デモニトロンは吹っ切れたようにゲスく笑う。どうやら、もう躊躇いは吹っ切れたようだ。
それに満足して立ち去るジャバウォックとは入れ違いで、ベルデールが来て口を開く。
「小童、お前さんがやられても再召喚はせんから、気合いを入れるんじゃぞ」
「ケッ、召喚魔法が使えるのに、俺様のことは再召喚してくれねえのかよ」
そう言いながらも、デモニトロンはベルデールなりの激励だと判断して笑う。
「邪悪な力が薄いから悪魔王様は無理でも、ワシの知識と経験と邪気があれば、デーモンカイザー様や、デーモンジェネラル様、それに加えてデーモンナイトの軍勢を呼び出せそうじゃ。
まあ、お前さんがやられても、カタキはとってやるから安心せえ」
「デーモンカイザー様を!?
……さすがベルデールだぜ。
悪魔王様呼べなくても、デーモンカイザー様がいたらもう勝ち確だろ。
……冒険者に例えるなら、デーモンジェネラル様ですら"SSSSSSSSSS級"なのに、デーモンカイザー様は"SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS級"だからな。きっとニンゲンじゃ無理だ」
「Sが多くて分かりにくいが、そうじゃろうのう。
……ちなみに、悪魔王様だとどれくらいじゃ?」
ベルデールが尋ねると、デモニトロンはしばらく考えて、得意げにこう言った。
「そりゃもう……"SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS……──……SSSSSSSSSSS級"だ!!」
「……つまり途方もないぐらいじゃな」
ベルデールは途中で居眠りをかまし、終わったとことでしれっと返事をする。それぐらい長かった。
「神ですら下手に手を出せない悪魔王様だからな、強いに決まってるぜ。だから、ニンゲン風情が悪魔王様に勝てるわけねえよ」
実際、悪魔王は魔界の王座に神代の時代から王座につき、度々ニンゲン世界に混沌をもたらしているが、いまだかつて神はそれを罰することができてないのだ。
「そうじゃのう」
「じゃあ、話してても世界征服は進まねえから、今度こそ出発するぜ。
じゃあな、ベルデールジジイ!」
こうして、デモニトロンは希望(?)を胸にニンゲンの町へ襲撃に向かうのだった。
* * * * *
デモニトロンはレッサーデーモンたちを連れてとある町に来ていた。
そこは冒険者協会がない平和な町であり、見るからに『ちょっと圧をかければ堕ちそう』な町であった。
実際、ここに来る冒険者も基本的には休暇目的であり、田畑や農場以外には、小さな市場と湖、それと夕日が綺麗に見える高台ぐらいしか特筆すべきものはない。
そんな村からちょっとだけ背伸びしたみたいな町だった。
……つまり、ニンゲンの強化具合が分からないデモニトロンにとって、この町は寝起きのストレッチぐらいちょうどいいのだ。
「……ニンゲンの魔力が強まったような感じじゃねえな。
じゃあ、身体能力か?」
高台に登って町を見渡し、ニンゲンたちを観察していく。しかし、見た感じはニンゲンの様子は特に変っておらず、作業が爆速だとか力に溺れて大暴れだとかもなかった。
「ですが、デモニトロン様……幸せパワーは充満しておりますぜ」
レッサーデーモンの言う通り、人々の笑顔はキラキラしていてまぶしかった。
「実力は未知数……ってわけか。ギャヒッ!
久々にゾクゾクするぜぇ……」
デモニトロンはゲスい笑いを浮かべて翼を広げる。
しかし、そこでレッサーデーモンの1人がデモニトロンを呼び止めた。
「デモニトロン様、ここはオデ……腹減った!」
「お前は、レッサーデーモンの中でも悪食食いしん坊と名高く、しかもレッサーデーモンなのに珍しく名前持ちなバグエルじゃないか!」
「オデ……食う!
ニンゲン、リンゴ……食う!!」
バグエルの言葉にレッサーデーモンたちがザワつく。
それだけじゃない、あのデモニトロンすらもバグエルの悪食っぷりに、戦慄して額に汗を流してしまうほどだ。
「ぎゃ……ギャヒ。
さすがバグエル、噂に違わぬ悪食じゃねえか。
まさか……あのニンゲンが育てる赤い"リンゴ"を食うなんて、な。腹を壊しても知らねえぞ……と、言いたいところだが、お前の頑強な胃袋なら、消化できちまうんだろうな。すげえぜ……」
そう、悪魔は基本的にリンゴを食えないのだ。
もし食えば最後……1週間トイレから出られなくなり、最後は力尽きて魔界に帰ってしまう。
「オデ、強い!
リンゴ、食う! ニンゲン、倒す! 全部、倒す!」
「「「おおお……!!」」」
レッサーデーモンがバグエルの宣誓に感嘆の声を漏らす。
「頼もしすぎるぜ。
普通ならもし冒険者がいたらレッサーデーモンじゃ手も足も出ない。が……バグエルならあるいは……。
よし、バグエル!
あの町のニンゲンを倒してこい!!」
デモニトロンはバグエルの可能性を信して送り出す。
「グォオオ……ニンゲン、リンゴ……よこせぇえええ!!」
凄まじい勢いでヨダレを垂らしながら、バグエルは高台から飛び立って町に襲撃をかけた。が──
「なんじゃあ、レッサーデーモンがいるべ!?
こんとってくれ〜……!! あ、うちのリンゴを食うな、商品だべ!!?」
そんなニンゲンの声が聞こえたかと思うと、次の瞬間空中に魔法陣が開き、バグエルは魔界へ送り返されてしまった。
「「「「「ば、バグエル〜!!!!!!」」」」」
悪魔たちはバグエルの殉職(死んでない)に涙を流すと、怒りを爆発させて臨戦体制に入る。
「テメェら!
俺様たちのバグエルはニンゲンによって辱めを受けた!
この恨み、バグエルと全悪魔のために晴らしてやるぞ!!!」
「「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」
「全軍、突撃ィイイイイ!!!!」
悪魔たちが血相を変えて町へなだれ込んだ。
「まだ、あんなに悪魔が!?
みんな、町を守るだど〜!!!」
──こうして、デモニトロン率いる悪魔軍団 vs リンゴ農家さん率いる農家集団(追加あり)の全面戦争が勃発したのだった!!




