第五十八話 リア充爆発する
その日、とあるデータを目にしたYOU KNOW大臣キャサリンはこう言った。
──『ジョージ君、結婚しなさい!』と……。
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ハーレム帝国ハレムンティア、首都ゲオルギウス。
いつもの通り洗脳されている人や国を助けて国に帰還したジョージは、いつも通り民の要望や意見をウィステリアから聞き、いつも通り人工衛星型魔導器のメンテナンスがてらカレンと話し、いつも通り中庭でエリンやイリーナなどのファミリーと中庭で会話とアフタヌーンティーを楽しんでいた。が──
突如キャサリンが平穏を破るように、神妙な面持ちで現れ、先の言葉を声高らかに叫んだのだ。
「ジョージ君、結婚しなさい!」
「は?」
ジョージのクロテッドクリームを塗る手が止まる。
ジョージはスコーンが好きだ。クロテッドクリームとジャム、どちらが好きかと言われたらもちろん散々悩んで答えられないが、スコーンは好きかと聞かれたら『だいすき』と答えるぐらいには好きだ。
スコーンを楽しむのは土日だけ。そして、今日は1週間ぶりのクロテッドクリーム。今日もまた、特別な日なのだ。
しかし、キャサリンの発言は、そんなジョージが手を止めてしまうくらいの突拍子のなさだった。
「ジョージ君、結婚しなさい!!!!」
2回目だ。しかし、今回は前回の比ではない。
緑色の長髪を振り乱し、メガネがその眼光で貫通し、ついでにスコーンに風穴を開けてしまうぐらいの迫力で言い放ったのだ。
常人ならこの眼光で絶命する勢いだ。だが安心して欲しい、幸いなことにここには猛者しかいない。
「……プロポーズ、か?」
冷静さを取り戻したジョージは、スコーンに空いた穴にクロテッドクリームを詰めながら口を開く。
「結婚なら、フェドロとの戦いが終わったらするつもりだ。それに、こんな戦争状態でするのも気が引けるだろ?」
ジョージはみんなが大変な時に役割も果たさないままスコーン以上の幸せを得るのは、立場や権力を使った過ぎた行為だと思っていた。
「そう、そこなのよ!」
そう、そこがダメだった。
「どういうことだ?」
「ジョージ君は世界各国を救い、多くの民をハレムンティアに受け入れ、贅沢もいいスコーンを週末に食べるぐらい。
しかも、国を守り、フェドロに大打撃を与えて聖女アメリアとともに勝ち星を上げた。
さらに、リーズン様ご本人にお墨付きまでもらって、戦争中なのにゲオルギウスは平和そのもので、いまやジョージ君は世界的な希望の象徴なの!
もちろんファミリーのみんなもね」
キャサリンの言葉を聞いたジョージは目を見開いて驚く。
「……お、俺たちすげえ……」
まるで他人事のように反応するジョージをよそに、キャサリンは本題に入る。
「だから、結婚の選択肢も入るはずなのに、建国から数ヶ月……一切誰も結婚してないの」
1組ぐらいはいそうなものだが、実際は本当に誰も結婚してなかった。
そう、200万人近くが住むこの街で、ただの1組も……だ。
「……もぐもぐ、ごくっ。……さすがにそれは異常事態じゃの」
大きなお口でスコーンを頬張っていたエリンが、ようやく飲み込んで口を開く。
「そうなのよ。理由はわかる?」
キャサリンの問いに、イリーナが首を傾げながら答える。
「えっと……ジョージくんに先に結婚してほしいってことかにゃ?」
「そういうこと!」
フェロモンスターの襲撃から守り、リズンバークから避難させてきた人たちと、暗君に支配されていたファルドーネ辺境伯領の人を解放して始まったハレムンティア帝国。
そこから、救いや安全を求めて来た者、洗脳から解放してくれた恩を返すために来た者、ジョージたちを気に入って移住を決めた者、将来を感じてこの国に賭けた者……理由は様々だが、皆一様にジョージたちを大切にしている事だけは同じだった。
そして、今なお世界中を巡って頑張って贅沢もほとんどしないジョージに、国民はこう思ったのだ。
「「「ジョージ(陛下)……結婚しろ!」」」
結婚だけが幸せの形ではない。しかし、ジョージは結婚したいと思っているが国民を想って遠慮している状況なのだ。
だから、国民は一番の恩人であるジョージには自分達に遠慮する事なく、結婚して幸せにもなってほしいと思ったのだ。
……まあそれだけではないが。
多くの人はそうだが、全員統制されたように同じ考えな訳がない。
ブライダル業界は大打撃だし、結婚しないことで間接的に産婦人科や赤ちゃん用品を扱う所も困窮している。
ジョージが忙しないせいで、まだ気を休める時ではないと思って結婚に踏み切れない人もいる。
ジョージより先に結婚するのは義理人情に反すると考える人もいる。
そう、ジョージが結婚しないのは悪ではないが、少なくともジョージの気遣いと遠慮はありがた迷惑なのだった。
「──ということで、結婚しなさいジョージ君」
「わ、分かった」
キャサリンにこんこんと詰められたジョージは戸惑いながらも頷いた。
「そして、さっきから黙ってるけど、当事者ですからねウィステリア様?」
「えっはっはい!?」
空気になっていたウィステリアが、声を上擦らせながら反応した(ちなみに、魔法で本当に空気になっていた)。
「ジョージ君が外している時にその役割を担いつつ、町の整備と魔法学の発展。そして、すでに婚約済みであり、民からの信頼も厚いの。
ハーレムの人が結婚するかはさておき、ウィステリア様は結婚すべきです」
「そ、そうかもしれませんわね……」
ウィステリアは顔を赤らめてしまう。いつもは正妻だのなんだのと言っているが、いざ結婚が現実的になると恥ずかしくなってしまったらしい。
しかしジョージは結婚する事自体は覚悟を決めていたようで、落ち着いた様子でウィステリアに向き直ってはっきりとプロポーズした。
「……そういうことなら憂うものはない。
ウィステリア、結婚しよう!」
そしてもちろん答えは──
* * * * *
数日後、ジョージとウィステリアの結婚パレードが開かれると世界中で広がった。今まで留めていた分、ジョージたちはブライダル業界に大きく出資し、結婚式は盛大にすることにしたのだ。
すると、ハーレム帝国ハレムンティアの国内外問わず人々が集まり、ゲオルギウスでも結婚する2人のグッズが発売されたり、屋台が出てきたり、それを楽しむ人たちで街はさらなる賑わいを見せる。
ワイワイガヤガヤとする中、突如街中にダウナーながらも気さくな声が広がる。
『お集まりの皆さん、お待たせしました〜。
ジョージ、ウィステリア両陛下の結婚式が始まります』
カレンが街全体に声を届けるために魔導器を使ったのだ。
「「「うおおおおお」」」
すると、城に向かう人や、配られたタブレット型映像デバイスを起動する人、街に設置されたホログラム投映機を見る人など、みんながジョージとウィステリアの結婚の瞬間を見逃すまいとかぶりつき状態。
まさに人々は大盛り上がり。
映像に映し出されるのは参列客やハーレム、ファミリー、ジョージの父母が並ぶ式場。まだ2人は控え室だ。
「とうとうこの日が来ましたわね、ジョージ……♡」
ウエディングドレスを着たウィステリアは別室にいるジョージを想う。
「……偶然出会い、おにぎりダイヤを渡した時のこと……昨日のことのように思い出せるぜ」
タキシードに身を包んだジョージもまた、ウィステリアやその思い出を胸に抱く。
「ムンちゃん、準備はいい?」
放送を終えたカレンが控え室にやってきた。
「……ああ、リッ君か。
大丈夫だ」
ジョージはすっくと立ち上がると、堂々とした面持ちで会場へ向かう。
結婚式の話になった時普通の入場をすることも考えたが、ジョージはいまや世界の希望。人々にはその象徴たる姿をはっきりと見せる必要があった。
だから、ジョージはみんなの度肝を抜いた!
──ゴゴゴゴゴゴ……!!
「なんだ!?」
「これは!?」
「にゃ、にゃんにゃの!?」
会場で待っていた参列者だけでなく、イリーナやファミリーたちでさえも驚いてあたふたしてしまう。
すると次の瞬間、地響きをさせながら会場の天井がパッカリ割れて青空が広がる。
──キランッ
「ま、眩しいのじゃ!」
青空にはもちろん太陽がある。そしてその太陽がなぜか光を強めたかと思うと、それもまたパッカリ割れてしまった。
「ど、どういうことなんだ。ジョージ!!?
これは、異常事態なのか、それとも君の演出なのか!!?」
ジョージの父、ダンがセクシーなダンディボイスで狼狽える。
だが、それで終わりではない。
割れた太陽は大爆発を起こしてしまう。
「ジョージ様、これは……どういうことですか〜!?」
アメリアは人生で1番目を目を見開いた。
そう、この一連の演出を知っているのはジョージとウィステリア、そしてカレンの3人だけなのだ。
爆発した太陽は、その爆風が会場を襲うかと思いきや、花吹雪となって柔らかく降り注ぐ。そう、ジョージが演出のために生み出したフェロモン太陽だったのだ(本物はちゃんと別にある)。
そしてフェロモン花吹雪と陽光とともに、ゆっくりとジョージが降臨して会場に降り立った。
「「「「「…………うおおおおおおおお!!!!」」」」」
降臨を見届けると、一瞬の静寂の後に国中が湧き立った。サンバの時を遥かに超える大熱狂。
「俺こそ、ハレムンティア帝国の皇帝……ジョージ・ハレムンティアだ!!!!!」
拳を上げて宣言すると、さらに会場はブチアゲ状態。
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」
フェロモン太陽のように輝きながら、ジョージは会場の中心で周囲を照らす。
新郎だけでこの大盛り上がりだが、クライマックスが来たらどうなってしまうのだろうか?
そんな疑問が浮かびそうになるが、すぐに人々は目を奪われ心を奪われる事になる。
──フワッ……
舞い降りてきた花吹雪が風に揺られたかと思うと、街中を覆い尽くし、その次の瞬間一帯が幾万もの花が咲き誇る楽園に変わってしまう。
「「「「「おお…………!!!!」」」」」
地上の楽園を目の当たりにした人たちは無意識に感嘆の声を漏らした。しかし、すぐに息を呑んで声を出すのを忘れてしまった。
なぜなら、その楽園に相応しい……いや、それを前にしても一際目立つ、純白のウエディングドレスを着た女神のような美しい、赤髪の新婦が居たのだから。
そして、その新婦を新郎の元へ連れて行くのは、女神リーズン。
そう、この結婚式は女神と世界に祝福されたものなのだ。
「ウィステリア、いくわよ」
「……はい、リーズン様」
リーズンとともにジョージの待つ楽園の中心に向かう。足を進めるごとに花の香りが漂い、陽光が煌めき、優しい風が肩を撫でる。
──見入っていた。
国中の人たちが、ジョージの元へ向かうウィステリアのその姿を一瞬たりとも見逃さないように、瞬きもせずに見入っていた。
「……ウィステリア」
ジョージが手を出すと、ウィステリアが嬉しそうに目を細めて手を繋ぐ。
「はい」
2人は女神のもとに肩を並べて寄り添う。
するとリーズンは慈悲深い微笑みを浮かべながら口を開いた。
「……あなた方2人は、世を邪悪から守る救世主となり、幸せと希望の象徴となり、苦しい時も健やかなる時も支え合う良き夫婦となることを誓いますか?」
大きな責任が伴う問いだったが、2人は躊躇わなかった。その答えはもちろん──
「「誓います」」
まっすぐ迷いのない目をリーズンに向けて宣言する。その答えに満足したように頷くとリーズンは祝福した。
「ジョージ・ハレムンティアと、ウィステリア・ファルドーネが夫婦になることを認め、ここに祝福しましょう」
手をかざすと柔らかな光が花束となり、繋いだ2人の手の中に収まる。
「さあ、ブーケトスを……」
リーズンの言葉に従い、2人はブーケを掲げて魔力とフェロモンを凝縮。そして、世界中に向けてブーケトスをした。
「「──ブーケトス流星群!!!!!」」
瞬く間に超上空に達したブーケは凄まじい光を放つと、無数のブーケに分裂して世界中に祝福と幸せパワーを届けていく。
それは未婚の人に届けるものではなく、幸せになった2人から人々への贈り物なのだ。
だからファミリーや街の人たちだけでなく、ハーキングの人々、ジョーイやステファニーなどの開放された人たち、それに加えて洗脳兵士にもそして────
* * * * *
「──フェドロ様、あの光はなんでしょう?」
「……ダリア、今はフェドロ城再建のため忙しいのだ。光なんぞに……あれはなんだ!?」
そう、邪悪なフェドロンでフェドロ城を作り直していたフェドロとダリアの元にも、ブーケトス流星群はやって来ていたのだ。
「わかりません。ですが……あれはまずい!」
「まずいと言われても、今の我らでは食い止められんぞ!!?」
──ゴゴゴゴゴ……!!!
「だ、ダリアふせろぉおおおおおおおおお!!!!!!」
──ギュインッ……ドゴゴゴーンッッッ!!!!!!!!!!
「キャァアア!!!?」
「ふっぬぐぉああああああああああ!!!!!?!?」
──リア充大爆発。
そう、邪悪なフェドロンで作られたフェドロ城は光の幸せパワーを受けて瓦解し、大爆発とともに消滅してしまう。
それと同時にフェドロとダリアも巻き込まれて、完全にではないが邪悪な気持ちを消し飛ばされてしまうのだった。
……そして、その影響かここからしばらくの間、フェドロとダリアは世界征服を忘れて慎ましやかな生活を送っていたという。
余談だが、フェドロが元に戻るまでの間、世界中の洗脳兵士やフェロモンスターは人々に被害を出さなかったとか。
これこそまさに、ウィステリアがジョージによって充たされた末に編み出された究極魔法。
── "リア充大爆発"




