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第五十五話 グッバイ、フェドロ城

 ──サンクチュアリが邪王剣によって破壊された。


 アメリアの危機を知らせる報をキャッチし、ジョージは転移装置でフェドロ城へ向かう。


 この間わずか5()()


 ジョージは思考する。



『俺は本調子じゃねえ。マトモにぶつかれば、俺は勝てないだろう。

 だが……負けたわけなじゃねえ!』


 そう、かつてジョージを破ったシンのように使い方を考えれば、格上フェロモンにも対抗できるはずだ。幸いにもジョージはフェロモン優等生。ネッチョリ汚いフェロモンとはワケが違うのだ。



『そうと決まれば、一瞬でも早くアメリアのもとに駆けつけてやらねえとな……!』



 パパンっとボタンを弾いて長ランを開放するや否や、ジョージは眩いフェロモンをまとう。



「──フェロモンシューティングスター!!」


 転移魔法と共鳴したフェロモンは、さらなるシューティングスター……つまり、スーパースターになったのだ!


 到着まで3秒だったところを、スーパースターは0.5秒まで短縮。



「いっけぇえええ!!」



 ──ヒュー……ドガガガガガガガガァアアンッッッ!!!!!!



 凄まじい勢いで不時着した。


「ぐぁっはあああ!!?!」



 ジョージの体は無事だが、ぶつかった勢いで城の壁を粉砕、フェドロをぶっ飛ばして登場した。


『危ねぇっ!?』



 ジョージは転倒したのをそのまま前転して誤魔化し、スタイリッシュにポーズを決めてアクロバティックさを演出。表情に一切焦りが出てなかったのは、帝王としてのプライドが為せるワザだ。



「き、貴様はもしや……!?」


 大災害みたいな登場をしたジョージにフェドロは困惑する。どうやら、ジョージの転倒には気が付いていないようだ。



「──俺がジョージ・ハレムンティアだ!!!!!」


 その眼光と雄叫びがフェドロを怯ませる。これによって完全に場を掌握。やはり、ジョージは王の器なのかもしれない。


「……じょ、ジョージ様……なんで?」


 アメリアは目の前に現れたジョージの姿に、驚きながらも涙を流して駆け寄った。そんなアメリアを優しく抱き止めてジョージはこう言った。



「……必ず救いに来るって約束しただろ」



 この時にはもはや、ジョージはすでに転倒したことなんて脳内になかった。

 ただ、アメリアの無事を喜び、心配し、労り、大切な仲間を想う気持ちでいっぱいだった。



「良かった……ジョージ様が来てくれて」


 安堵したアメリアは足の力が抜けて座り込んでしまう。


「大丈夫か?」


「はい……」




 そこでようやく状況を把握したフェドロは、冷静になりつつもまた怒りが湧き上がる。


「おのれ、出たな!

 このお邪魔虫!!」


 邪王剣フェドロを振り上げて、禍々しいネッチョリフェロモンの斬撃を飛ばそうとする。が──


「フェロモン!」


 ジョージはカウボーイの早撃ちガンマンのように首筋からフェロモンの弾丸を発射。

 フェドロの手を弾き、続いて2発目、3発目の弾で剣を打ち上げる。そして、残る弾3発を使い城に空いた穴からそのまま地上へ落としてしまった。……いや、ここは海の上なので海の底へゴーイングマイウェイだ。


 そのジョージのフェロモン捌きはまさに達人。体を回転させながら発射する様は、銃と一体化どころか、ジョージ自身がリボルバー銃になったみたいだった。



「……な、なんてことを。………………」


 さすがのフェドロも言葉を失う。

 その隙を見逃すジョージではない。すぐに身をひるがえしてアメリアに駆け寄る。



「アメリア、今のうちに撤退だ」


「待ってください!」


 しかし、アメリアの作戦はまだ途中だった。

 ジョージはチラっと後ろを見て、フェドロがまだ放心状態なのを確認し、アメリアに話すように促す。


「フェドロンの霧を晴らして、城にダメージを与えておきたいんです」


「あまり時間はないぞ?」


「準備はしてます。ジョージ様はフェドロを気絶させられますか?」


 アメリアの質問は短く、そしてやるべき事しか伝えなかったが、ジョージはアメリアのその作戦を信用して静かに頷いた。


「……任せろ」


 そして、どこかに駆け出すアメリアを横目に、正気を取り戻したフェドロと対峙(たいじ)する。


「こしゃくな、ジョージ・ハレムンティアめ……!

 覚悟するがいい……!!」


 フェドロの怒りはみるみるうちに膨れ上がり、凄まじいフェドロンのオーラに変わっていく。

 フェドロのフェロモンパワーは、フルコンディションのジョージ級か……それ以上だ!


「くっ……こいつはヤベぇな」


 今のジョージは圧倒的に不利だった。

 サンクチュアリの発動で底をつき、維持に消費するとは言え、ジョージはほとんどフェロモンを回復できなかった。

 理由は不明なままで、回復ポッドですら治療はできなかった。


 魔力と違い、一生に使えるフェロモン量は決められているのか?

 それとも、ジョージのフェロモン発生器官が限界を迎えてしまったのか?

 このまま衰えてしまうのだろうか?

 そんな最悪な状況が頭をよぎる。


 ──だが、ジョージはそんなことでは屈しない。


 ジョージの心には太陽があった。


 あの真夏のサンバのようにアツい太陽が!


 無いなら工夫すればいい。だが、無いものとして諦めたりはしない。


 (おとこ)ジョージ、満身創痍(まんしんそうい)でフェドロに一矢報いる覚悟と確信があった。


「いくぜ、フェドロ……!!」


 なぜならジョージを特別たらしめるのは、太陽のフェロモンではなく、くじけぬ心とアツいパッションだからだ。


「来るがいい!

 そして、神話より続くハレムンティアの歴史を終わらせてやる!!」


 フェドロは凄まじいフェドロンを巨大な球体にして飛ばした。

 その真っ黒な球体は半壊した城がさらに壊れることもいとわず、瓦礫を消しとばし、風をなぎ、ジョージを滅ぼすためだけに突き進んでいく。


「ぶつけるだけじゃフェロモンごと飲まれる。……なら!」


 ジョージはボタン3つのフェロモンを集中させて凝縮、さらに鋭く硬く練り上げる。できあがった()()はまさに、撃ち抜くために作られた形をしていた。


 ──ゴゴゴゴゴ……!!!


 どんどん近づいてくる真っ黒な球体を前に、ジョージは冷静に握り拳に人差し指を立てて、()()を指先に装着する。そして、静かに息を整えながら構えると、球体の先のフェドロを見据えて発射した。



「──フェロモンライフル……!!」



 ──ヒュッ。


 その短い風を切る音がした直後、衝撃波を放ちながら轟音を轟かせて球体に直撃する。ギリギリとドリルのように球体を穿(うが)ち、細いながらも存在感のある穴を開けて貫通した。


 弾丸の先こそ削れているが、球体とぶつかったというのに威力もスピードも衰えず、そのままフェドロ目掛けて飛んでいく。



「な、なにぃ!?」


 弾丸を目で確認した時には、回避不能な距離まで迫っていた。フェドロは目を見開き、ただ弾丸を無防備に食らうしかできない。


「ぐぬぉああああ!!?」


 弾丸を撃ち込まれるとフェドロの体内にアツいパッションが流れ込む。今まで邪悪な心に押さえつけられていたミジンコサイズの善良な心がこれ好機と暴れ出し、身体を支配していたフェドロンが弱体化してしまう。

 それと同時に、あまりの心の寒暖差でフェドロは頭が真っ白になり気絶してしまうのだった。


 もしこの弾丸に事前に気が付けたなら、フェドロはすぐに太陽のフェロモンが体を巡らないように体内防壁を作り出せていただろう。しかし、今回はジョージが1枚上手だった。



「……ふぅ」


 フェドロが気絶して城をおおっていたフェドロンの霧が消えていく。ジョージは、それを眺めながら弾丸発射で赤熱した人差し指の炎を吹き消した。



 ──そんな余韻にひたるジョージに青天(せいてん)霹靂(へきれき)!!



 例えるなら、寝ているママにダイブするちびっ子のような衝撃!

 また例えるなら、小籠包を口の中で噛んだ時のマグマ(出汁)


 そんな凄まじい声が、音量マックスのファンファーレの如くジョージの脳内に響き渡った!


『──すごいじゃない!!!!!!!』


「ぬぉわっ!!?!?」


 キーンっとする耳……もとい、頭を押さえながらジョージがうめく。そんな事をされたらジョージも気が気じゃない。

 ※そうとうな衝撃を受けますが、女神のお告げに身体へのダメージや後遺症はありませんのでご安心ください。


『これはね、レベル15の勇者がレベル50の敵を倒すような偉業なのっ!

 一時的だし不意打ちだったとしても、地力が無かったら一矢報いることもできないわ。

 う〜ん、やっぱりハレムンティア兄様の生き写しってだけあるわぁ!』


 そう、その声の主はリーズンだ。ちなみにジョージとは初対面なので、ジョージからしたら見ず知らずの存在に絡まれたようなもん。

 とは言え、リーズンからしたら大切な兄様に瓜二つで、しかもその兄様の可愛い子孫なのだから、責めるに責められないだろう。


「なにも──」


 ジョージが『何者だ?』と聞こうとすると、それに被せて(正確には話の途中だったのでその続きを喋っているのに過ぎないが)リーズンが喋り出す。



『力もほとんど出せないからこそ工夫したんだよねっ?

 圧縮して、一点に威力を集中させてさっ、鋭くして、より貫通力を上げてさっ。

 フェロモン含有量もあの球体の100分の1ぐらいなのに撃ち抜いて、しかもその一撃であのフェドロを気絶させちゃうなんてね。

 ジョージったら、本当に天才ねえ〜。ふふっ。

 ()()()を迎えたら、もしかすると兄様を超えるかもねっ』



「覚醒期……?」


『あ、そうだ。アメリアは準備完了したからね。シューティングスターで迎えに行って、さっさと脱出しましょ』


 リーズンの言葉に気になるワードがあったが、リーズンの言う通り今は脱出が最優先だ。


「そ、そうだな……」


 ジョージはフェロモンシューティングスターを発動し空中を飛び回る。


「ジョージ様、ここです!」


 城に空いた大穴から顔を覗かせていたアメリアは、ジョージを見るとピョンっと飛び降り、シューティングスタージョージの所にダイブした。


「よっと……」


 そしてジョージはアメリアを受け止めると、ハーレム帝国ハレムンティアまで空の旅に向かうのだった。



 ● ● ●



 いくらか空を飛んだ所で、ジョージが疑問に思っていたことを口にする。



「……フェドロ城で何の準備をしていたんだ?

 あと、この頭に直接語りかけてくる声の主は誰だ?

 それと、覚醒期についても聞きたい」



「準備はですね、もうわかると思いますよ」


「ん?

 ……どういう──」


 ジョージが首を傾げようとするや否や……。


 ──ヒュッ……チュドーンッゴゴゴゴゴガガガッドガーン!!!!!



 バカみたいな爆発音を轟かせながら、フェドロ城が爆散して海に沈んでいった。



「えぇ……」


 まさかの事態にジョージは言葉を失う。


『ま、これくらいでフェドロが倒せるわけないけど、しばらくは世界侵略も止まるわね。

 ダリアっていう幹部も姿が見当たらなかったし、もしかすると次の一手に備えてるのかもしれないわ。

 ま、油断はできないけど、時間はできたからこっちも色々準備しましょ』


「そうですね、リーズン様。

 今この瞬間も苦しい思いをしている人たちが居るでしょうし、そちらを助けることに着手してもいいかもしれません」


 アメリアの声が聞こえたジョージは、聞き捨てならない事を聞いて慌てて振り向く。


「り、リーズンだと!?

 この声ってリーズンなのか!」


 そのまさかである。



『ジョージ、私は女神なんだから『様』を付けなさい!

 ……と言いたいところだけど、呼び捨ても悪くないかも。兄様に名前を呼ばれてるみたいで懐かしいわ……。

 特別に呼び捨てにしていい。ううん、呼び捨てで呼んでくれると嬉しいわっ』


 リーズンは親愛なる兄様に再会したような気持ちでウキウキだ。


「そ、そうか?

 じゃあ……リーズン、よろしくな……?」


「うん、兄さ……ジョージ、よろしくね」


 そうとう似ていたのだろうか、リーズンは姿(金髪で青い目の白いローブを着た6歳くらいの女の子)を現して、涙をこらえながらシューティングジョージに抱きつく。


「……ああ」


 そんなリーズンを見て、ジョージは優しく微笑んだ。


「……そうだ、ジョージ。覚醒期なんだけどね」



「ああ、気になってたんだ。それってなんだ?

 俺がフェロモンを出しにくくなってるのも関係があるのか?」


「あるわ。

 それどころか、覚醒の兆候なの」


「兆候?」


「急に大きすぎる力を手に入れるから、そのフェロモンの広がり……フェロモンビッグバンに備えて、体が最適化しようとしてるの。

 だから、外に出す余裕がないから少ししかフェロモンが出ないってわけ」


「なるほど。じゃあ今はフェドロとの決戦はできないわけか。

 時間稼ぎができてよかったぜ」


 先ほどのフェドロ城爆散を思い出す。


「そうね。戦っても、フェドロが本気を出せば一瞬で倒されるでしょうね。不意打ちももう効かない」


 無慈悲な現状に、アメリアが不安げに尋ねる。


「それで、覚醒期を迎えるのはいつなんですか?」


「ハレムンティア兄様の時は……300年ぐらいだったかしら」



「「300年!!?」」


 ジョージとアメリアが声を揃えて驚く。


「そ、そんなに待てねえぞ……!」


 ジョージが焦りを見せるが、リーズンはいたって冷静なまま。

 ……そう、策があるのだ。


「──これよ」


 リーズンおもむろに懐を探ると、なんかの苗木を取り出す。


「これは?」


 その質問を待ってましたとばかりに、リーズンは得意げにこう言った。


()()()()()()よっ」


 

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