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第五十三話 リーズン様

『ふふ〜ん。よくぞ聞いたわね、アメリア。

 そして、私が来たからには安心するといいわ。なんたって私こそ……

 リーズンなんだから!!!』


 少女の声がファンファーレのようにアメリアの脳内に響き渡った。

 しかし予想外の正体にアメリアは言葉を咀嚼(そしゃく)できずに沈黙、そして数分後──



「…………え、ええええええええ!!?!?」


 目を見開いて絶叫しながら、サンクチュアリの半透明ボールの中でひっくり返るのだった。



『おどろいたようねっ。

 ふふっ、そうでしょうそうでしょう。

 なんたって、あなたが信仰する愛すべきリーズン様が、こうして直接話しかけてくれてるんだもの!

 もし私がアメリアでも、おどろくわ〜』


 リーズンと名乗るその声はとっっっても嬉しそうだ。


「あぁぁあぁぁぁぁああ……目が回ります〜!」


 そんなリーズン(仮)をよそに、アメリアはボールの中でぐるぐる回っていた。まるでハムスターが回し車を回しすぎて足が間に合わずに高速回転するみたいに。


『きっとなぜ私がアメリアのところに来たのかふしぎに思ったでしょう?

 それはねえ、リズンタワーが壊れたからなの!』


 アメリアが目を回しているのも構わず、リーズン(多分)は自由に話し始めた。


『正確にはリーズン本体ではないのだけど、リズンタワーの町を守る機能を長い間いじするために、どーしてもときどき調整しなくっちゃならなくてね?

 だから、本体が魂の一部を分けたの。分霊……ってやつ。それが私!

 ハレムンティア兄様のために、少しでも役に立ちたくてず〜っとがんばってたんだから。

 まあ、リズンタワーが壊れたから、分霊の私は自由になったのよ〜。外の世界ってはじめてだから、ワクワクしちゃう!

 ……あ、でも安心して。分霊だからたしかに本体より力は弱いけど、リズンタワーを動かしてたじっせきもあるし、知識もそれなりにあるんだから!』



 ウキウキで語るリーズン(おそらく)の話を聞いて、アメリアが少し疑いながら首を傾げる(ようやく目が回っているのが治った)。


「本当にリーズン様なんですか?

 話していることは確かに理に適ってますが、言うだけなら簡単ですし、声だけならどうとでもなりますし、姿も見えないですし、こんな敵の居城で初めましてっていうのも怪しいですねぇ〜」


 アメリアは、からかうように言う。

 本人は気が付いてないが、どうやら話し相手ができて寂しさも紛れたようだ。



『ああ〜!

 私を、うたがってるのね!?

 もう、アメリアったらイジワルなんだから!

 ……わかった、姿を見せたらいいんでしょ?』


 不貞腐れながらも、リーズンは姿を現すことにしたようだ。そして、サンクチュアリボールの中に淡い光の粒子がいくつか出現したかと思うと、次第に人型に変化していく。


「お、おぉ〜……!」


 その神秘的な光景に目を奪われてしまうが……次の瞬間、アメリアはクスッと笑ってしまう。


「ちっちゃ」


『ちっちゃい言うな〜!!』


 それもそのはず。

 リーズン(本物っぽい)の姿は、まさに()()()()

 金髪で青い目をした、純白ローブを着た6〜7歳くらいにしか見えない女の子なのだ。

 どことなくアメリアに似ている気もするが、気持ち目つきがハッキリしているのは性格の影響か。



「ふふふっ。すみません、リーズン様」


 そんなちびっ子な姿であったが、アメリアはその内包する力やその波長で本人であることは理解できたようだ。

 ただ、見た目が見た目なだけに、平伏したりかしこまったりはせず、どことなく少し歳の離れた妹を見るような態度になってしまう。リズンタワー建設時に生まれたので、リーズン(分霊)の方が年上なのだが。



「……まったく〜。ゆるしてあげるけど、今回だけよ?」


 リーズンは渋々アメリアの無礼を大目に見ることにしたようだ。


 余談だが、実体を出現させたことで脳内に直接声をお送りせず、今は発声して話している。



「ありがとうございます。

 ……それで、なんで出てきてくれたんですか?」


「それは、私のかわいい聖女が泣いてるんだから、助けに来るに決まってるでしょ。

 ……何ヶ月か前、あなたがフェドロ軍から逃げてるときも、ジョージを引きあわせてあげたんだからね」


「そ、そうだったんですか?!」


「ええ、そうよ。ついでに、

 だれに助けさせようかまよったんだけど、ジョージはいいわね。ハレムンティア兄様にそっくりだもの、考える手間がはぶけたわっ。

 そっくりで思ったんだけど……先祖返りというのかしら?

 アメリアって私に似てるのよね。本体は大人の見た目なんだけど、目つき以外はそっくりだもの」


 かつてこの地に降り立ったというハレムンティア神の姿は、ジョージに瓜二つだったらしい。



「えっと、リーズン様とハレムンティア神は双子の神様でしたっけ?

 あまり似てないんですね」


 アメリアの指摘通り、ジョージとアメリアの姿は似ても似つかない。目つきも髪の色も違うので双子どころか、血が繋がっているとは思えない姿だ。



「当たり前よ。

 神はお腹から生まれるんじゃないもの。

 私と兄様は秩序と繁栄。静と動、表と裏みたいな関係で、そんながいねんが混ざり合って、神の世界にいっしょのときに生まれたのよ。

 だから、むしろ似てないのがふつうね」


「なるほど」


「それはいいとして、アメリアには今やることがあるんだったわよね?」


 不思議な出会いとその驚きも一段落したところで、リーズン(分霊)が本題に戻す。


「そうです!

 外からじゃこの飛行城は見ることも感知することもできないので、私の発信機で場所をジョージ様たちに教えるって作戦なんです。でも、いくらボタンを押しても繋がる様子がないんです……」



「う〜ん……。

 なにか、げんいんがあるのかも。調べるしかなさそうね」


「調べるのは良いですが、ここは牢屋ですよ。ボールでぶつかっても壊れないですし、どうやって調べるんですか?」


 実はアメリアは発信機を起動してジョージを待っている間、空いた時間を使って牢屋に思い切りぶつかって跳ねるという、なんとも暇を持て余した遊びをしていたのだ。


「こわれないなら、こわれるようにすればいいだけよ!

 兄様の子孫を困らせるフェドロのお城のろうやなんて、グチャグチャにしてもゆるされるんだから」


 リーズンがプンスカ怒りながらサンクチュアリボールに手をかざすと、神々しい光がボールを覆い、トゲトゲボールに変わってしまうのだった。


「……痛そうですね」


「痛くしてるのよ!

 だって、ドアをこわさないといけないんだからね」



「そ、それもそうですね。じゃあ、このまま脱出しますか?」


 アメリアが尋ねるが、リーズンは少し考えた後首を横に振る。


「……作戦も立ててないのにでてっちゃ困るだけよ。それに、フェドロがここまでする理由は知りたいわね。

 あと、場所を教えるだけじゃまた逃げられるかもしれないから、何か弱点とか、このお城の弱点を探りましょう。

 ついでに、お城の中をグチャグチャにして、私の兄様の子孫たちをイジメたフェドロを困らせてやるんだから!」



「たしかに万が一のことがありますし、通信もできない現状、できることは全部やっておきたいですね。

 幸い、フェドロはサンクチュアリを今の所破壊できないようですし。

 たしかカレン様にも、何か気がついたことがあったら帰ってきた時に教えて欲しいと言われてましたから、リーズン様の作戦には賛成です!」



 ──と言うことで、アメリアの約2週間に及ぶ潜入調査が始まるのであった。




 ● ● ●



 第一夜(作戦を話してその夜)。



「……リーズン様、消えちゃったんですか?」


 城の中をしっかり探索するため、アメリアはお昼寝をしていたのだが、目を覚ましてみるとなぜかリーズンの姿が見当たらなかったのだ。

 しかし、アメリアが心配になり、心細く寂しい思いをしていると、聞いた事のある温かい声が脳内に響いた。


『私はいつでもそばにいるから、アメリアは安心して。ねんのために姿を消しているだけだから』


「良かった……。またひとりぼっちになるのかと思って寂しかったです」


『まったく、せわがやけるんだから』


 そう言いながらも、リーズンは嬉しそうな声色で続ける。


『さみしがりやさんのアメリアに、いいことを教えてあげる。

 リズンタワーがなくなったから、私は自由なの。それに、とくに行くところもないからね。

 だから、その……あなたが望むなら、ずっといてあげてもいいわよ?』


 少し気恥ずかしさを含んだ優しさをリーズンが向けると、アメリアは感動して涙ぐむ。


「リーズン様……!

 こんなにちっちゃいのに、やっぱり女神様なんですね!」


『こ、こらぁ!

 また、ちっちゃいって言った〜!!』


「あ、つい!

 悪意はなかったんです、ごめんなさいぃ〜!!!」


 自分の失態に気がついて思わず大きな声で謝罪してしまう。


『あ、アメリア、しーっ!

 バレるから静かにしないと!』


「そ、そうでした……!」


 アメリアは急いで声をひそめた。


『………………ふー。どうやら、気が付かれてないみたいね』


「良かった〜」


『じゃあ、気をとりなおして……』


「──作戦開始です」


 アメリアはトゲトゲサンクチュアリボールを内側から転がし、慎重に牢屋の扉にぶつかる。が──



 ──ドンガラガッシャーン!!!!!!!


「あ」


『……』


 ──ウ〜! ウ〜! 緊急事態発生、緊急事態発生! 牢屋が破壊されました!


 盛大な音を立てて扉を破壊してしまった挙句、警報まで作動してしまったようだ。しかもそれだけじゃない。


「「「グルルルォオオ……!!」」」


 アメリアを捕獲するためにヘルハウンドのフェロモンスターが放たれてしまう。つついでに──


「聖女!

 悪巧みをしても無駄だぞ……!!」


 フェドロまで出てきてしまう始末。そんな地獄みたいな状況にアメリアとリーズンは途方に暮れる。


「『…………」』


 だが、何もせずにここに居るわけにもいかない。



「……リーズン様、どうしましょう?」


『こうなったら』


「こうなったら?」


『お城をグチャグチャにしちゃいましょっ!!』


 それを聞いてためらうアメリアだったが、どんどん迫ってくるフェドロたちを前にして覚悟を決める。



「……トゲトゲサンクチュアリボール発進しまぁあああす!!」



 ──ドガーン!!! ゴロゴロゴロゴロ……ガッシャーン!!!


 壁を破壊して突き進み、階段をえぐりながら登り、廊下のツボを次々に破壊してトゲトゲサンクチュアリボールが城内を大暴れする。


「わ、我のコレクションがあああ!!?

 おのれ、聖女!! 許さんぞぉおお!!

 ま、待てそれは!? ぬぉおおおお!??!」


 

 こうして、アメリアがとある情報を手に入れ、また牢屋(新しい所)に入れられるまでの間、騒がしい夜を過ごすのだった。


 

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