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第五十話 策謀と隙と約束 

次回で二章が完結します。

 ジョージたちがフェドロタイタンと戦っている頃。

 アメリア、カレン、キャサリンはハーキング王との謁見を終え、建国に必要な書類に署名していた。

 しかし、そこに現れたのは──


「──見つけたぞ、聖女。

 そして、この時を待っていた!!

 邪魔なハレムンティアが居ないこの瞬間をな……!」


 フェドロ王国の王にして、世界征服の野望をほぼ手中に収めた実質的世界の支配者。真っ黒なローブと貴族服を身にまとうその男こそ……()()()()、本人だった。


 白髪が混じる黒い髪、深いシワが刻まれたアジア系を思わせる顔立ち、身長は170cmくらいだろうか。

 筋肉もそこまで発達しておらず、体躯は恵まれているとは言えないが、下手に手を出してはいけないと本能が語りかける危険なオーラと底知れなさが溢れ出ていた。


 邪悪なネッチョリうすら汚いフェロモンは、強制的に人を惹きつけて考える事を良しとせず、カリスマとは違う何か高次元的な干渉さえ感じさせる。


「フェドロ!!」


 キャサリンの額に汗が垂れた。

 キャサリンはフェドロを裏切って今や王国では指名手配犯。捕まれば洗脳だけでは済まないだろう。


「……おっと、その顔はキャサリンか。

 我を裏切りどこへ向かったかとおもえば、まさかハレムンティアの陣営にいたとはな」


 フェドロは鋭く睨むがすぐに興味を失い、代わりにアメリアの方を見る。


「……だが、今は聖女だ。

 貴様の力を手に入れれば、我は完全になる。

 くくく……()()()を持つ我の思い通りにならぬ世界でも、これで無理矢理思い通りにできるぞ!!」


 狂気さえ感じる目で高笑いするフェドロに、アメリアは恐怖を感じながら聞く。


「……そうまでして、なぜ世界を征服しようとするんですか?

 それに、聖女の力でフェロモンが強くなるのはなぜ?」


 アメリアの言葉を聞くと、フェドロは眉間にシワをよせながら考え、少しして何かを察したように笑う。


「くくっ、何も知らないのか?

 ……ああ、そう言えばこの世界ではリーズンとハレムンティアの伝説が伝わらなくなって久しいと聞いたな」


「リーズン様と……

 ハレムンティア?」


 アメリアは困惑する。

 ハレムンティアといえばジョージの一族でありフェロモン使い。

 リーズンといえば秩序や社会性の女神であり、アメリアが信仰する存在である。

 その2つがどう関わり合うのだろうか?


「本当に聖女すら知らないとはな。

 ……まあ良い、話してやろう。

 リズンバークに20万以上のフェロモンスターがいるし、ハレムンティアもすぐには来ないだろうからな」


 フェドロは余裕の笑みを見せながら、かつてこの世界に存在し、すでに失われてしまった伝説を語った。



 * * * * *



 ──かつて、神々が統べる時代。双子の神が存在した。それこそ妹神リーズンと()()()()()()()()()だ。


 リーズンは秩序を司り、ハレムンティアは繁栄を司り、他の神々とともに世界を見守っていた。


 そのうちこの世界にニンゲン、獣人、エルフ、ドワーフなどの()()が生まれると、双子神は興味を示す。知能が高く、その時代において神以外が使えなかった《魔法》を使う種族。


 神が管理していたその世界だが、その双子神はヒトを反映させて、己自身で世界を管理し反映させようと思ったのだ。



 しかし、全てを押し付けるのは理不尽であり、自分勝手すぎるとしてハレムンティアは行動を移した。



 * * * * *



「──ヒトと共に生きる。

 それはつまり妹リーズンと離れ、神の座すら降りる事だった」


 神の座を降りるということは、寿命を決められたヒトになるという事。同時に、リーズンとは同じ時を生きられないという事でもある。


「……ハレムンティアの助けもありヒトは繁栄した。しかし、ハレムンティアは亡くなるまでリーズンと会うことは無かった。

 ……そんなハレムンティアが、リーズンを想い、かつて妹が説いた秩序の大切さを伝えるために作ったのが──」



「リーズン教会……!」


 アメリアは目を見開く。

 そう、神の座を降りたハレムンティア、ハレムンティア王国初代国王がリーズン教会を作ったのだった。


「くく……少しずつわかってきた頃か?」


 その言葉通り、カレンは理解している様子だ。


「双子って繋がってるって言うよね。

 それに、2柱の力は繁栄と秩序で、全然違うようで切っても切り離せないコインの裏表みたいな。

 ……だから、力を合わせれば共鳴して本来の力を取り戻し、桁違いのエネルギーを生み出す……ってことかな。

 ……合ってる?」



「そうだ。

 つまり、我が聖女の力を取り込めば、ハレムンティアほどでは無いにしても、凄まじい力を手に入れられるということだ」


 世界征服の一歩手前まで来ているフェドロだからこそ、足元を掬われないようにその権力と実力を盤石にしたいのだ。


「だから、ジョージ様がいないこの瞬間を狙って確実に手に入れようとしたわけですか」


「……くくく。

 そうだが、知ったところで貴様らは何もできまい。

 リズンバークには20万のフェロモンスター、しかもフェドロタイタンを放った。いくらジョージ・ハレムンティアといえども、あと1時間はかかるだろうな。

 ……さあ、おとなしく我の手に収まるがいい!」


 フェドロが手を伸ばした、その時。


 ──ピピ!


「キャサリンの持っていた小型タブレット型魔導器に通知が入る。


「少年、良いタイミングだよ!

 ゲートオープン!!!」


 タブレットを天に掲げると、魔法陣が展開。眩い夏の太陽光とともに、ジョージたちが転移して来た。


「……なっ──!?」


 フェドロは目を見開く。

 まだ1時間どころか、フェドロがここに来て5分ほどしか経っていないのだ。


「間に合ったみてえだな!」


 ジョージが着地し、それに続いてエリン、イリーナ、ウィステリアも着地する。ちなみに、ジョージ以外は普段着に戻っている。……つまり、ジョージはアロハ柄の海パンだ。


「ふ、ふざけおって!!

 ……ぐぬぬ。いや、今は聖女だ!」


 フェドロは怒り狂いながらも、なんとか冷静さを取り戻して本来の目的を遂行する。


「きゃあっ!?」


 ネッチョリなフェドロンの霧を触手のように使い、アメリアを包囲した。


「アメリア!」


「ハレムンティアよ、今更遅い!

 我がここに来た時点で、我の勝利は──」



「──フェロモンサンクチュアリィィイイ!!!!!!!!!」


「しまっ──」




 ──キュイィィィィイイイイン!!!!!



 ジョージのありったけのフェロモンを全て使ったそのフェロモン魔法は、そこにもうひとつの恒星を創り出したかのように輝き、アメリアが完全にフェドロンに包まれる前に体を守護る結界を張る。


「ま、間に合った!」


 カレンが思わず声を上げる。


「これが、ジョージ様の……真の力……!」


 アメリアが目を奪われてしまう。


「ええ、すごいでしょう?

 ……ジョージと婚約する決め手はおにぎりダイヤですが、わたくしもこの力を見たからこそ婚約の選択肢が生まれましたの」



 その結界は見たことのない紋様が浮かび上がった半透明な真球で、神々しく、心が洗われるような、ハレムンティア神の伝説を裏付けるような力強さを感じさせた。


「小癪な……!

 こんなもの砕いて──痛っ!?」


 そして、近付く邪悪なフェドロンを浄化し、触れようとするフェドロの手を弾いてしまう。

 まさにアメリアを守る、ハレムンティアの聖域(サンクチュアリ)だった。


「……はぁ、はぁ……」


 一気にフェロモンを全て使い果たしたジョージは、力尽きて膝をついてしまう。


「しめた!」


 それを見たフェドロは、これ好機と判断して地面に魔法陣を展開。アメリアをサンクチュアリごと攫おうとする。


「じょ、ジョージ様! 私、頑張ります!

 だから……必ず、必ず救いに来てくださいね! 間に合ってください!

 信じてます! 信じてますからぁあっ────」



 そして、アメリアはフェドロによって、この世界のどこかにあるフェドロ城へと連れ攫われてしまうのだった。




「……アメリア……約束する。

 だから、そっちは……()()()()!」


 


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