第四十八話 謁見
ジョージたちがリズンバークに向かっている頃、アメリア、カレン、キャサリンの3人はハーキング王に謁見。
ファルドーネ領に住民を移動させたこと、それに伴い不法入国してしまった事、家は準備したこと、そして、ここに居るキャサリンはフェドロ王国の元大臣だと言うことを伝えた。
「──理解した。
キャサリンの件は問題ない」
呆気なくキャサリンの件が流され、当の本人が少したじろぐ。
「私は……えっと、良いんですか?」
「フェドロから離反したのはすでに知っていた。なにせ、フェドロは其方のことを指名手配しているからな。
この国は中立を保ち、そのおかげで征服されずに済んでいるが、敵対した国はもはや征服されている。フェドロは実質的に世界の支配者にまで登り詰めておる。
その事を考えれば、キャサリンをフェドロに差し出して媚びでも売った方が国は安泰だろうな」
ハーキング王はそこまで言うと座り直し、3人に力強い眼差しを向けて口を開く。
「──だが、奴の言いなりにはならぬ。
奴の統治する世は駄目だ。利己的で刹那的な独裁だ。
だからこそ、中立国なりに抗うと決めたのだ」
しばらく3人は何も言えなかったが、キャサリンが慎重に聞き返した。
「つまり、そのフェドロへの抵抗として、私を見逃すと言う事ですか?」
「そうだ。
それと同時に、ファルドーネ領をハーキング王国から切り離すつもりだ」
「それは、どういう意図でですか?」
アメリアがハーキング王の真意をはかれずに首を傾げる。
「この国が中立なのは先に言ったな。
これは民の安寧のためにも今後も覆すつもりはない。
しかし、其方らはフェドロと敵対するのだろう?
ならば互いに同じ国であるというのはデメリットだ。それに……其方らのトップは、ハレムンティアだろう?」
「は、はい。
ジョージ・ハレムンティアです」
「噂はここまで届いておる。
まさか……かの昔、フェドロに滅ぼされたハレムンティア王家の者が生きておったとはな。
それに、人を集めて因縁の相手であるフェドロと戦うと。
人材は揃っている。それに、丁度良い土地もある。本人もその素質がある。
……ならば、国を興すべきであろう」
「国を……新しい、ハレムンティアを?」
アメリアとキャサリンは息を呑んだ。
カレンはこの瞬間を待っていたとばかりに口角をあげる。
「……どうやら、カレンは初めからそのつもりだったか」
「はい」
「軍事的支援も、表立っての物資支援もできないが、建国するのにあたって、ハーキングはそれを認めることはできる」
ファルドーネ領が独立するのは、中立であり続けたいハーキングにとって都合がいい。それでフェドロの目が逸れるのなら、安いものなのだ。
「表立ってが無理ということは、秘密裏にはできるということですか?」
アメリアが尋ねると、ハーキング王は頷いた。
「うむ。
交易の経路上にファルドーネがあれば、その物資を商人が買い取ってもおかしくない。だから、その時にリズンバークの商人でも向かわせれば、フェドロの目にも止まらないだろう。
それと、他にも我らが中立であるメリットがあるぞ」
カレンはそのメリットを理解していた。
「フェドロとの戦いの時に、ボクらが背中を突かれないってことっしょ?」
「然り。
中立国に勝手に軍を侵入させることは、いくらフェドロでもできまい。ゆえに、其方らの国は正面から来るフェドロ軍を相手すればいいだろう」
「なるほど」
アメリアが感心していると、今度はキャサリンが口を開く。
「では、ファルドーネ独立の件に戻ります。
我々はすぐにでも動かなければなりませんので、すぐにでも建国したいんです。許可を願えますか?」
「構わん。
あと、同時に聖女アメリアも名を連ねて建国するのが良いだろうな」
「私ですか?」
「ああ。
リズンバークとハーキング王国の2つの国が、ハレムンティア王家の末裔の束ねる領地を国として認めるなら、帝国にすることができる。
これなら、世界的に見ても義があり、建国にあたっての反対も出ない。兵も募りやすくなるだろうし、形勢が良くなれば助力も得られるし、戦争後に復興の援助も受けやすい。やらない手はないのではないか?
……まあ、そのハレムンティアが不在だから、決定は後ほどで正式に聞くとしよう」
ハーキング王はそこまで言うと臣下に1枚の紙を用意させた。
それは建国のための許可証だった。すでに予見していたのか、ハーキング王の署名がされているので、あとはアメリアとジョージが署名して国名を決めればすぐにでも建国できる。
「こ、これは……」
アメリアが受け取ると、ハーキング王が頷く。
「2人の名を記したら、再びここに持ってきてくれ」
「はい!」
3人はハーキング王に恭しく礼をすると急いで城を後にした。
● ● ●
そして、城から少し離れた所でカレンが立ち止まる。
「──アメリア、ここで署名しちゃって」
するとアメリアは覚悟を決めたように頷いた。
「そうですね」
それは建国のためだけの覚悟ではなかった。
カレンのたてた作戦のために、アメリアは体を張る必要があったのだ。
「それと、この魔導器も渡しとくね」
カレンが無線機と発信機と、念のための護身用として速射で魔法が出せる魔導器を渡す。
「ありがとうございます」
「カレン、これは聖女アメリアにとって危険すぎじゃない?
安全の保証があるの? ……もし彼が間に合わなかったら?
最悪の場合、聖女アメリアは廃人になってもおかしくないのよ」
キャサリンはフェドロの手の内を知ってるからこそ、この作戦には反対であった。
「……ボクにとっても一か八かだよ。でも、きっとムンちゃんは間に合ってくれる」
これは、時間との勝負だった。
「だ、大丈夫ですよ。きっとジョージ様たちなら……」
アメリアは恐怖を抱えていたが、それでもジョージを信じて笑顔を見せる。
「……分かったわ。
私たちにできることはもう、できるだけ時間を稼ぐことだけね」
キャサリンが切なげにつぶやいたその時。
「──見つけたぞ、聖女。
そして、この時を待っていた!!」
3人の目の前に転移してきた人物。それは──
「フェドロ!!」
フェドロ王国の王にして、世界の支配者、邪悪なフェロモン使い。
そう、フェドロ本人であった。




