表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/56

第四十六話 再会と作戦会議

もし『誰だ?』ってなった場合は"間話 月夜のホットミルク"を読み直して頂ければわかると思います。

 リズンバークの隣国であるハーキング王国。その国境付近にある、ファルドーネ()辺境伯領。

 辺境伯は国境を守る守護の要であり、外交的にも王の信頼を寄せられる者でなければならない。先先代ファルドーネ当主は有能であり、リズンバークとの架け橋になったり領地も民も豊かにし、当時の王もとても信頼していたという。

 しかし、前領主であったパオロは、税の取りすぎた上に民の要望すらまともに答えることができず、シャルロッテ亡き後はあろうことか飢饉まで起こしてしまい、最後はハーキング王自ら救援隊を派遣して民を救うことに。

 幸い、さほど被害は出ずに済んだが、その失態を考慮ょしてパオロの貴族階級取り消しと、国外追放する形となった。現在は他国で平民として暮らしているとかなんとか。


 今はハーキング王の近縁であるルーサー・ハーキング伯爵が代理でファルドーネ領を一時的に治めているが、今後この地をどう運用していくかはまだ決まっていない。




 * * * * *



 ファルドーネ領、()平原。

 現在は無数の家が立ち並ぶひとつの大きな町ができていた。カレンが町の設計図を用意し、ウィステリアが魔法を使って特急で作り出したのだ。

 特急でリズンバークと比べて数ランク質は落ちるものの、ちゃんと人が暮らせるように設備も用意され町の体を為していた。


「──よし、これでなんとか避難民の誘導は終わったか……」


 ジョージが一息ついて額の汗を拭う。

 街は壊滅したがなんとか被害なくリズンバークの人を救うことができたし、町の人に食料を持たせていたため数日は問題なく暮らせるはずだ。

 ジョージは達成感に包まれたが、素直には喜べないでいた。



「……今はリズンバークにいるが、あのフェロモンスターたちがここにいつ来るかわからないし……」


 ウィステリアは町の住民の転移と、ファルドーネ領に新たな町を1日で作り出した反動で、魔力が底をついて寝込んでしまった。


 数日はもつとは言え、食料問題は近いうちに解決しなければみんなが飢えてしまう。だが、リズンバークから離れ、ジョージ達は緊急事態とは言え不法入国しており、ファルドーネ領は国ですらないため交易もすぐには期待できない。その為、自分たちで解決する必要がある。


 こんな状況では、フェドロと戦うどころか、人々を守ることすら危うい。


「……とりあえず、みんなと合流して相談だな」


 1人で考えても解決しないので、ジョージはジョージファミリーが待つ家に戻って行った。




 ● ● ●

 


 二階建てのなんの変哲もない民家。他の人たちとは一切グレードの差がない家。

 差を付けたらその分手間がかかってウィステリアの負担が増えるのもあるが、今必要なのは良い暮らしではなく皆を助けること。だから、家のグレードなんてどうでも良いのだ。


「──ただいま。町の人の家の割り振りとか、説明とか終わったぞ」


 ジョージはそう言いながらリビングに向かうと、何やら見慣れない背中ががあった。もちろん、リズンバークの人でもない。

 しかし──


「……ああ、ジョージ・ハレムンティアさんね、君の名声と活躍は国を越えて私の耳にも届いてるわ。

 それで、単刀直入に……って、えぇ!!?」


 その緑色の髪の眼鏡をかけた女性は、リビングに入って来たジョージを見るや否や目を見開いて驚く。


「……あ、アンタは!!」


 そしてもちろん、ジョージも驚いていた。なぜなら、2人はすでに出会っていたからだ。


「き、君が!?

 あの時私にホットミルクをくれた少年が……ジョージ・ハレムンティアだったの……?」


 その女性はジョージの姿を見ると安堵して崩れ落ちるようにへたり込む。


「おっと、大丈夫か?」


 その女性をジョージはさっと抱き支えた。


「あ、ありがとう。

 私……君が見当たらないから、ずっと探し回ってたの……。

 あの時ホットミルクをくれた君が、フェドロに洗脳されて欲しくなくて、あの温かい心をネッチョリさせて欲しくなくて……命をかけて、こちらに寝返ったんだ」


「寝返った……?」


 首を傾げるジョージを見て、我に帰った女性は慌てて補足する。


「あ、ああ……ごめんなさい!

 私はキャサリン。元々フェドロ王国の大臣だったのよ。

 今まで散々フェドロの世界征服に力を貸していたけど、リズンバークを攻める話があがった時に、ふと君の事を思い出してさ。

 それで、今までしてきた自分の罪の重さを自覚……いえ、見て見ぬふりしていただけか。

 そのことの重さに耐えきれなくなって、私が辛い時に唯一優しくしてくれたジョージ君だけでも、せめて助けたいと思ったんだよね。

 ……失敗したら処刑されるかもしれなかったけど、こうするべきだと、そして……こうしなければ後悔すると思ったから……」


 キャサリンの言葉を静かに聞き、ジョージは小さく深呼吸をしてから口を開いた。


「……そうか。

 それで、あの時の言葉は覚えてるか?」


「どの言葉?」


 キャサリンは心当たりがあったが、期待をするような眼差しを向けて聞き返した。


「……『俺の未来にあんたの笑顔が欲しくなっちまったんだ』ってやつだ。

 キャサリンの雲ひとつない最高の笑顔が欲しいって気持ちは今も変わっちゃいねえ」


「ふふっ。相変わらず、少年の言葉は甘いなぁ。でも温かい。

 ……そうだ、今からでも遅くないかな?」


 キャサリンは明言せずに尋ねたが、ジョージには何を聞きたいのか瞬時に理解できたようで、間を設けずに優しく頷いた。


「ありがと。

 じゃあ、ジョージ君……君のハーレムに入ります。それで、私の知識とノウハウ、一生をかけて君を支えるから。

 ……でも、私の愛は重いよ? なにせ、今まで男の子と手を繋いだことすらないんだから、ね。……覚悟してよ?」


 キャサリンの鋭い目が光る。今まで出会った男なら怯んで逃げるレベルの圧だ。軽いヤツなら、スナイパーライフルで撃たれて絶命するほどの迫力。さすがフェドロ王国の大臣をしていただけある眼光だった。

 しかし、ジョージはひと味違う。

 そんなまっすぐな鋭い愛情を受け止めながら、ふっと笑いながら言ってのける。


「……任せとけ!」


 その言葉を聞いたキャサリンはパッと表情を明るくして、目尻を下げながらジョージに抱きついたのだった。




 * * * * *



 キャサリンを迎えたジョージファミリーは、ひとまず1日休んでウィステリアがなんとか起き上がれるようになったところで、皆でテーブルを囲み再び問題に向き合うこととなった。



「……つまりルーサーと、ハーキング国王にも話を通さないといけないわけか」


「そうですわね。

 いくら国王が寛大でも、挨拶もなく住みつけば無視できなくなりますもの」


 筋を通さなければ、仮に国王が許しても他の者が許さないだろう。そうなれば、厳罰が降るのも想像に難くない。


「でも、フェロモンスターもできるだけ早く対処しないと、いつここに来てもおかしくないのじゃ」


「そうですね。

 リズンバークは今、もぬけの殻。指揮する者がいないとは言え、敵がいないとフェロモンスターが理解すれば移動してくるでしょう。そうなれば、一番近いここが狙われるのも時間の問題……」


 エリン、アメリアの言う通り、こちらも急を要する問題だ。

 そこにイリーナが口を開く。


「あんにゃにフェロモンスターがいたら、農家さんも商人さんも怖くてあのルートが使えないよ。

 だから、フェロモンスターを処理しにゃいと、食料問題も深刻化するんじゃないかにゃ?」


 イリーナの言葉にオフィーリアが頷く。


「もし王様に住むことをお許しいただいても、そこが解決しないとダメだよねぇ……」


 それぞれ、ほぼ同時に解決しなければ、本当の意味での解決とは言えないだろう。


「つまり、役割分担する必要があるってことか」


 そこで今まで黙々と魔導器を作っていたカレンが顔を上げて提案する。


「アメリアとボク、キャサリンはハーキング王のところに行かせて。オフィーはこの家にとどまって、町に何かあった場合に報告してほしい。大丈夫だと思うけど、ぷるちはオフィーの護衛。

 フェロモンスターはムンちゃん、ウィステリア、イリーナ、エリンの4人でお願い」


「るぷぷっち」


「分かったよ、リッくんちゃん。

 まだ新しい土地で混乱してる人もいるから、その人たちを助けながら見回りするね」


 ぷるち、オフィーリアはすぐに納得して仕事を受け入れる。


「確かに、リズンバークの最高位、代表の聖女である私が行くのは筋ですね。カレン様も頭が回りますし、納得です。

 でも、ウィステリア様が行かないことと、キャサリン様が行く理由をお伺いして良いですか?」


 アメリアはなんとなく察していたが、確認をとりたかったのでカレンに尋ねた。


「フェロモンスターはまだ何万体もいるし、フェドロタイタンも倒す必要があるよね?

 そのためにはできるだけ戦える人をそっちに送りたいんだし。

 キャサリンは確かに元フェドロ軍で王様を刺激するかもだけど、あとで知られてあらぬ噂をたてられるより、先にこちらに寝返った事を堂々と宣言した方が波風も立たないってわけ」


 カレンの言葉に、アメリアもキャサリンも納得する。


「そう言えばジョージが言っておったが、あの不死身と言っても良いようなフェドロタイタンを倒せる必殺の一撃とは、どのようなものなのじゃ?

 その……そもそも、フェドロタイタンを倒せても、あの大群もまとめて倒せる技を出せるのじゃろうか?」


 エリンが不安げに言うと、カレンは作っていた魔導器をテーブルの中央に置いて言った。


「元の威力は申し分ないけど、範囲を広げたら減衰して、全体に当たるようにまでするとフェドロタイタンどころか強めのヤツですら倒せなくなるんよ。

 ……そこで、この魔導器をつかうわけ」


「この魔導器で、威力が強いまま範囲を広いげられるのかにゃ?」


「そう。でも、これだけじゃダメ。完成してないから。

 それで、リズンバークに行ったらまず、この魔導器を完成させて欲しいの……」


「リズンバークに必要なもんがあるってことか。それで、俺たちは何をしたらいい?」


 ジョージが聞くと、カレンは真剣な面持ちでとんでもないことを言うのだった。そう──



「リズンタワーを()()して……!」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ