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第四十五話 町への侵攻

 ダンとマーシャの新居と言う名のウィステリアが魔法で建てた城塞(頑強な壁と自動防衛システム付き)の、客室でジョージがフェドロと戦う決意をしたその時のことだった。


「──リズンバークが、フェロモンスターの大群に包囲された……!!」


 扉が開いたかと思うと、突如として現れたカレンが真剣な面持ちで叫んだ。


「リズンバークが?!」


 その言葉を聞いてジョージが立ち上がり、チラッとマーシャの方を見る。


「ワタシじゃないよっ! だってリズンバークの方へ入ってないからね

 …………多分」


「マーシャ、こんな緊急事態に言い訳は……」


 しどろもどろになっているマーシャをダンが諭す。そこにカレンが慌てて。


「あ、いや。

 元からムンちゃんはフェドロと敵対してたんで、こうなる可能性はあったというか……まあ、ママさんは悪くないっていうか」


 そうなると、ぎこちなくも2人はすぐに仲直り。


「あ、そうなのか?

 ……マーシャ、すまない」


「えっと、ワタシもその……疑われるようなことしたからね。いいよ」



 そんなダンとマーシャは置いといて、カレンは本題に戻ってジョージとウィステリアに話す。


「……そう、ジョージが町にいない隙を突かれた。2人ともすぐに戻れる?

 町の人を避難させたいんよ……!

 ボクが作った転移の魔導具じゃ間に合いそうにないから」


「わたくしの転移魔法が必要なのですわね?」


 ウィステリアが察して魔法陣を出現させる。


「俺は構わないが、避難先は決まってるのか?

 戦うとして、どこでどう動けばいい?」


「ムンちゃん大丈夫、作戦はあるから」


 カレンのまっすぐ向けられる目線を受けると、ジョージはすぐに頷いて魔法陣に乗った。


「……分かった」



「……じゃあ、ママさんも親父さんも、急いでるからこれで行くね。ゆっくりできなくて、ごめんね」


 カレンはマーシャとダンに会釈をしながら魔法陣に乗る。


「カレンちゃん、いいのよ。

 ワタシたちはワタシたちで、周辺地域の人をこの城塞に呼び寄せたり、ダンロッソの人と連携して防御を固めておくからね」


「そうだ。

 私もマーシャとの抱擁(バトル)で強くなったからな、そう簡単に倒されやしないさ。だから、気にせず行っておいで」


「分かった。また遊びに来る」


「親父、お袋……いや、えっと……ママ、行ってきます」


「お義母様、お義父様、ごきげんよう」


 そう言うと魔法陣は起動。

 ジョージ達はリズンバークに転移されて行ったのだった。



「──ダン、ジョージがママって言ってくれた〜〜〜!!!」


「……はは。よかったな」



 * * * * *




 その頃、リズンバークでは広間への避難誘導が行われていた。

 リーズン教会お抱えの冒険者や、リズン騎士団はひとりひとりが精鋭で、基本的にフェロモンスターに遅れをとることはなかった。


 しかし、10万もの大群を前に多勢に無勢。それに加えて、凶暴すぎてフェドロすら手を焼く()()()()()()()()まで出てきて、もう敗色濃厚になってきていた。


 フェドロタイタンはフェドロが約20年前に、ハレムンティア王国を滅ぼすために作り出した巨人ゴーレム型フェロモンスター。

 体は岩でできているが、フェドロ特製フェロモン……フェドロンを大量に使用して作られたため、その硬度はミスリルに匹敵する。

 その巨体は100mに達し、半端な魔法も効かずフェロモンを伴わない攻撃も無効。フェロモン自体にも耐性がある。加えて、半端じゃない耐久力と回復力により、神聖な攻撃を与えてもジリ貧で返り討ちに遭ってしまう。


「怪我人が多すぎて……攻撃できません……!」


 アメリアの神聖力ならもしかすると決定打を与えられるかもしれないが、少しでも回復の手を休めると騎士も冒険者も怪我では済まない事態になり、フェロモンスターが町へ流れ込んでくるだろう。


 教会の司祭も懸命に補助魔法をかけて皆の耐久力を上げているが、最悪の事態にならないようにするので限界だった。


「マジックオーバードライブ!

 ──ナタラージャ!」


 イリーナは世界の魔力と繋がると、禁術を発動。戦略級補助魔法を自身にかけて、ナタラージャ状態になった。

 凄まじい身体能力を手に入れたイリーナは、白い花吹雪みたいなオーラを放ちながら、フェロモンスターを蹴散らしながら更に禁術を発動した。


「エリン先輩、受け取ってっ!

 ──ルドラ!!」


 刹那、暴風の力を手に入れたエリンはすかさず矢をつがえる。


「受け取ったのじゃ!

 いくぞ、エンシェントロアー!!」


 矢が地面を抉りながら放たれたかと思うと音速を超え、周囲のフェロモンスターを消し炭にしながら、フェドロタイタンの肩から上を消し飛ばす。


「プロミネンスドライバーァアア!!」


 すかさずイリーナもマジックパイルドライバーを解放、渾身の一撃をぶちかまして下半身を爆散したのだった。しかし──



「──ウゴォオオオオ!!!」


 さすがは王国を滅ぼしたフェロモンスターと言うべきか、瞬く間に傷が修復し、追撃を加える前にほぼ全快状態になってしまう。


「うぅ、決めきれにゃい!」


 体を回転させて反動を逃しながら、ワイヤーを巻いて杭をセット。すぐに次の一撃の準備をした。


 火力は悪くないはずだが範囲が足りない。範囲を意識すると逆に火力不足。そして、体のほとんどを消し飛ばしても、次の瞬間には回復するので、もしかすると回復を上回る火力と継続ダメージ、または回復の阻害、もしくはその両方が必要なのかもしれない。


 しかし、ジョージもウィステリアも、おもしろ魔導具とか凄い知識をくれるカレンも今はいない。


「イリーナさん、どうするのじゃ?

 とりあえず、他の部隊に被害が出ないように攻撃して引き付けておくが……!」


「ウガアアアア!」


 フェドロタイタンが足をあげ、エリンを踏み潰そうとする。


「そう簡単にはやられんぞ。

 ──アロープリズン!」


 三本の矢を地面に放って魔力の牢獄を作り出し、フェドロタイタンの片足を固定。間髪入れずに。


「スパイラルアロー!!」


 吸引する螺旋の矢がもう片方の足の位置ををズラして転倒させてしまう。


「ライトニングドライバー!!」


 雷をまとった杭をフェドロタイタンの胴に打ち込んだ。


「……あれ?!」


 だが、先ほどより明らかにダメージが少ない。小さなクレーターを作るのが精一杯だった。


「エンシェントロアー!!」


 エリンの攻撃が直撃したが、イリーナの攻撃と合わせてようやくさっきの1人ぶんのダメージだ。


「エリン先輩、これって!」


「このまま攻撃をしすぎると手をつけられなくなるぞ。……どうしたら」


 戦場で戦う騎士や冒険者も、このフェドロタイタンを任せられるほど強い者はいない。戦闘が始まってものの数分だが、絶体絶命だ。


「……こんにゃ時に、ジョージ君がいたら……」


 イリーナが泣きそうな声で言った、その時──


「うなれ、俺の闘争フェロモン……!!

 ──ぅううおおおおりゃああ!!!!」


 ──大爆発!!!!!


 フェドロタイタンは爆散しながら数km先までぶっ飛んでいった。



「ジョージ!」


「ジョージ君!」


「待たせたな……!」



 そう、なんとかジョージは2人の救出に間に合ったのだ。

 ジョージは服を着直しながら微笑むと、すぐに真剣な顔つきになる。


「……とはいえ、トドメはさせてない。

 ヤツを倒す技がないわけじゃないが、人が多すぎて今はできない。ひとまず時間は稼げたからまず避難だ。いいな?」


 周囲のフェロモンスターを拳に込めた闘争フェロモンで消しとばし、騎士と冒険者を救出しながらリズンバークに走っていく。


「あれを倒せるのかの?」


 エリンとイリーナもジョージを手伝いながら走る。


「ああ。必殺の一撃がな。

 でも、周りにも絶大な影響が出るから、ハーレム以外の人がいるところでは使えない」


「他のみんにゃはそろってるの?

 もう転移準備完了?」


「ああ。ファルドーネ元辺境伯領に飛ぶ。

 越境と土地の使用許可はないが、緊急事態だ。後から話をつけることになった」


 町に入ると同時に、既に展開されていた町をほぼ丸ごと包むサイズの超巨大魔法陣に足を踏み入れる。


「来ましたわね!」


 入り口で待っていたウィステリアがジョージ達を見ると、後ろから追いかけてきていたフェロモンスターを魔法で消しとばす。そして、流れるように門を閉めた。


「ウィステリア様、この魔法陣は?」


「わたくしの転移魔法ですわ」


「じゃあ、全員逃げられるのじゃな?」


 エリンが安堵のため息を漏らすが、ジョージとウィステリアは少し重々しい顔をする。


「いえ、これだけの規模の禁術級転移魔法ですもの、とても繊細ですの。

 少しでも魔法陣を乱されれば、また1から魔法陣を作り直しですわ」


「だから、みんなを転移させるまで魔法陣を守らなきゃならねえ」


 町の外にはまだ数万のフェロモンスターが居て、フェドロタイタンもいつ復活するかわからない。


「じゃ、じゃあ……どうするの?」


 不安げにイリーナが尋ねると、今度はウィステリアが口を開く。


「転移し終えるまで、町を守る結界を張りますの。

 今はわたくしが居ますのでいいですが、転移魔法使用中は結界に魔力をつかえませんので、その隙ができる数秒間だけ。

 でも、結界を張る役割を担う方は転移できませんわ」


 つまり、フェロモンスターに侵攻される町にその1人だけ取り残されるのだ。


「……そ、そんにゃ!?」


「それで、その重要な役割は誰がするのじゃ?」


「司祭さんだ……!」


「し、司祭様って……!」


「そうだ。身長が60cmのほっぺたモチモチ3頭身で、綿菓子みたいな白いおヒゲがチャームポイントのおじいちゃんだ」


「……残酷すぎるのじゃ!」


「でも、そうするしかにゃいんだよね……?」


「そうだ。あの人の意志を無駄にはできない。さあ、いくぞ!」


 そうしてジョージ達はみんなと合流すると、転移魔法を起動。司祭様を1人、リズンバークに残したまま元ファルドーネ領に移動したのだった。



 ● ● ●



 転移魔法が発動し、結界維持の役割が終わった後。

 司祭はリズンタワー最上階から町を眺める。

 家が破壊され、リーズン女神像は倒され、フェロモンスターが町に跋扈(ばっこ)する。まさに地獄のような光景だった。


「──長い間生きておったが、ワシの人生もここで終わりかのう……」


 ──ガシャーン!!


 扉が破壊され、部屋にフェロモンスターが入ってくる。町の入り口にはフェドロタイタンもやって来ていた。


「アメリア様、ジョージ様、ウィステリア様、そしてそのお仲間と、町の者たちよ……どうか、ご無事で」


 司祭は全てを受け入れて穏やかな、しかし切なげな表情で静かに呟く。


「「「ガルルガアア……!!!」」」


 フェロモンスターは瞬く間に司祭を取り囲み、次の瞬間には一斉に飛びかかった。


 ──ドッッッッッッッガアアアアアアン!!!!


「な、なんですとぉおおおお!!?」


 凄まじい轟音と共にリズンタワーの屋根が爆散。司祭は転がっていき、ついでにフェロモンスターもチリも残さず消えてしまったのだった。


「……少し、威力が高すぎましたわね」


「……へ?」


 司祭が顔をあげると、そこにはウィステリアが当たり前のように立っていた。


「ど、どういうことですかな……?」


 掠れた声でなんとか尋ねると、ウィステリアは首を傾げて。


「どういうことも何も……。

 転移の瞬間だけ結界を張ってもらう約束でしたわよね?

 その後魔法が使えないとか、この町に入れなくなるとか、あなたを犠牲にしなければならないとか、ありませんわよ?

 役目が終わったのだから、当然助けに来ますわよ」


 そう、元から助ける予定だったのだ。しかし、一部の人は司祭を残していくしかないと勘違いしていたようだ。もちろん、司祭自身も。


「……な、なるほど!

 人間、生きてればなんとかなるもんですな。ははっ」


「では、行きましょうか。アメリアや他の者も待っていますわ」


「そうですな。

 爆風でモフモフになったヒゲを見せて、驚かせてやりましょうかの」


 こうして、リズンバークの皆は全員無事、避難することができたのだった。


 


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